第9話 「気負う勇者に呑まれる勇者」
そして街に付いた俺達は街の中にある病院に向かう。病院と言っても、大きくは無い。
俺と病院にいる先生とで治療を行なっていく、小さい傷はヒールで治す。
ある程度大きい傷はヒールでは治せないので、治療して完全に治りかけの所にヒールを掛ける。
これが治療で一番大事な事であった。俺と病院の先生の二人で怪我人5人の治療を終えた。
「お若いのに、そこまでの技術があるのは素晴らしいですね、やはり……」
「いえ、先生も凄いのでどっちもどっちですよ。あ、ゴタゴタになりましたがこれ新薬です。解析など、どうぞ」
「それだよ。君の凄いところは、この薬を自身で完成させれば私の店なんて直ぐに潰せるのに、君は私にこのように新薬を渡して解析させて私に完成させている。それも直ぐ完成出来る物をだ」
「先生はこの街のお医者様ですよ。俺は辺境の地にある医者ですし、距離も違いますからそっちで使ってくれた方が私的には嬉しいので使って下さい」
俺は笑顔で新薬を病院の先生に渡す。すると、
「だからこそ、これからは私もなにか払おう。これは大き過ぎる。最近いい酒が手に入ってな、これでも持っていってくれ」
そう言うと病院の先生が渡したのは最高級と言われているお酒の麦焼酎だ。
「ありがたく貰っておきますが、無理はしないで下さいね? 払わなくても良いので」
「ハッハッハッハ! 優しいな、ありがとう。勇軌先生」
「いえ、では失礼します」
俺はそう言って病院を出てから、ギルドへ向かう。俺は向かっている最中にシンカジカの事に考えた。
何故、シンカジカはこっちに来たのか……天敵から逃げる為か? いや、シンカジカ自体森に住むモンスターだ。天敵がそもそもいない。外敵が入るぐらいだ。それでもシンカジカが態々遠いこの地方まで来るのは異常。西の方で何かあったとしか思えない。だが、何があったかは俺には分からない。
と思っていると、いつの間にかギルドに着いていた。俺は一旦考えるのを止め、ギルドの扉を開ける。
「薬師さん! フィーのパーティーの方たちは大丈夫ですか!?」
扉を開けるとティアが突然隣から俺に話を掛けてきた。すると、ルキナとフィーが俺に近付いて来た。
「大丈夫?」
「私を守ってくれたんです! どうなんですか!」
ルキナとフィーが俺に言う。俺は少し驚いたが優しく微笑む。
「安心して下さい。皆さん無事ですよ。ただ二日間ぐらい動けない方もいますけど」
それを聞くと、安心したのかホッと胸を下ろす三人の勇者。
「あ! そういえば、薬師さん!」
何かを思い出したかの様にティアは俺に言う。
「何ですか?」
「パーティーに入りたいって方が来ましたッ!」
「おお、どなたですか?」
「いえ、今はいないんです」
「どういう事ですか?」
「受付のお姉さんからメモを預かってまして、それにはこう書いてあります」
ティアがそう言うとメモに視線を向ける。
「『是非、私も貴方達のパーティーに参加させて貰いたい。明日、13時にこの窓際で会おう』っと書いてあります」
嬉しそうに言うティア。俺はパーティーに参加してくれる冒険者に感謝する。
「では、明日ここに13時に集まりましょう」
「はい!」
「うん」
俺が言うと、ティアとルキナが返事をする。すると、
「あ、あの! 私も参加しても……良いですか……?」
フィーは何処か気まずそうにしながら片手を上げて言う。多分、自身の居たパーティーが傷ついているのに、他のパーティーに参加するのに罪悪感があるのだろう。だけど、俺は、
「ええ、お願――」
「やっぱいいです! わ、私は元いたパーティーの人達にし、失礼なので……」
と俺が言う前にフィーはそれを遮って自分の意見を述べた。
そんなフィーにティアが近づく、
「フィー、私達のパーティーに入ってくれませんか?」
言いながらティアはフィーの手を取る。
「でも……」
「冒険者さん達は自分の意思でフィーを守ったのですよ」
「……」
「それに冒険者さん達は死を覚悟していましたし、怪我などしても自己責任です。だから、そこまで気負いをしなくても良いんですよ?」
「だって! 私が……しっかり仕留めて置けば、ウェアウルフが来ることも無かった……」
「それは……」
フィーが言うと、ティアはそれに何も言えず黙り込んでしまう。
「だから、今回は降ります……」
そう言ってフィーは俺等に背を向けて歩く、ティアはフィーに手を伸ばすが、途中でやめてしまう。そんなティアは俺を見た。
「薬師さん、相談が……あります……」
なんで俺に助けを求めているんだ? そこは自分で止めないとダメでしょ。
だが、ティアは今にも泣きそうな表情を浮べながら俺を見ている。はぁ……と俺はため息を付く。
「フィー」
俺はフィーに声を掛けると同時にフィーに近づく。呼ばれたフィー俺の方を見る。
「倒しそこねて仲間を怪我させた事実は変わらない」
近づきながら言う。それを聞いたフィーは顔半分を帽子で隠れて見えないが、唇を噛み締めていた。
「けど、フィーは悪くない。ティアの言っていた通り、この冒険者達の世界では全てが自己責任です。仲間を死なせようが、怪我させようが、辞めようが。全てが自己責任の世界。その世界で君は全てを背負うんですか?」
「……ッ!」
俺は近付いてフィーの目の前で止まり、先程の言葉にフィーは持っていた杖をギュッと握る。
「起きた事は変える事は出来ません。起きたことをいつまでも考えても仕方ないんです」
「じゃあ……どうしたら良いんですか?」
俯きながら自信無さそうに言うフィー。
「次が大事なんですよ。起きてしまったなら、それを対策すれば良いんです。それを対策していて、それでも起きてしまうなら、より一層対策を考える。それだけですよ。それに先程の理由で他のパーティークエストに参加しないものなら、今病院にいる人達に怒られますよ?」
俺はフィーに言うだけの事は言った。それでもフィーが参加しないのであれば、それはフィーが決めた事だ。俺達に止める権利は存在しなくなる。
「明日には……答えを出すから……」
そう言ってフィーはその場を去った。ティアは自分の手をギュッと握り締め、何かを信じる様に、ルキナは何処か寂しそうな表情を浮かべていた。
「さて、今日はこれで解散しましょうか。後、報酬を貰いに行きましょう」
「そう……ですね」
「……うん」
俺達三人は報酬を貰いに受付に向かう。受付に着くと、受付のお姉さんは俺の顔を見てから、用意しておいた報酬を差し出した。
「今回の報酬と、追加報酬と特別報酬もありますので」
今回受けたクエストの報酬は8000G、そこに追加報酬のウェアウルフ8体討伐で8万G、更に特別報酬のシンカジカ6匹討伐で3000G。合計で9万1000Gである。
これを俺は分配しようとした所、ルキナが片手を俺に向け、左右に首を振った。
「私は妥当な分配にして欲しい」
「えっ……と、言いますと?」
ルキナの言わんとする事がいまいち理解できず、聞き直す俺。
「私はグリーンウルフのクエストで得た報酬と、ウェアウルフ一体討伐の合計報酬で大丈夫」
「え、良いんですか? パーティーで行ったんですよ?」
「別に構わない」
「そうですか……」
まさかの発言に俺は少し困ってしまう。こんな事になるのか、それにしてもルキナは真面目なんだな、と思う俺。
俺はティアを見ると、ティアもこちらを見ていた。
「ティアさん、無理しなくても良いのですよ?」
「いえ、私は薬師さんにご迷惑をおかけする身ですので、それに今回私はグリーンウルフ一匹しかた討伐出来ていないので、報酬なんて貰えません」
「な、なるほど……」
えぇ!? ちょいちょい! 困ったなぁ……どうするか。ふぅむ。と思う俺の目にあるものが映った。
「なら、明日皆さんで装備を買いに行くとして、今日はパーッと行きますか?」
「そうしましょう!」
「うん、それなら報酬に気を使わない」
「では、そうしましょう。すみませーん、スペシャルコースを三つお願いしますー」
俺は多過ぎる報酬を三人で食事に使うことにした。頼んだスペシャルコース一つ1万で、後は装備などそれぞれのポケットマネーにして貰おう。
「お待たせしましたー! スペシャルコースです!」
出てきたのはチキンが何本も皿に乗せてあり、特盛サラダ、魚、ントゥイと呼ばれる生春巻き、パスタがテーブルに乗せられた。まあ、この数をギルドのお姉さん一人では無く、数人で一気に運んできた。
非常に甘く、飲みやすい洋酒の入った木製のコップを片手に持つ俺とティアとルキナ。
「ここはティアさんが」
「え!? 私ですか!?」
「はい、お願いします」
正面に座っていた俺に言われて驚くティアだが、コホンッと一つ咳払いをしてから、
「では、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
俺とルキナはティアのコップに当ててから、洋酒を飲む。この世界は16才以上からお酒(度数の低い洋酒限定だが)を飲めるらしい。それから一時間が経ち、
「わかっていますかぁ~? やぁくしさぁ~ん」
と酔いながら目の前にいる俺に言うティア。隣に座っているルキナは黙ってコップを両手持ちで飲む。
「わたしはぁ~ただ、フィーといっしょにたびがしたいのれすよぉ~~」
「そうですか」
何故、ここまで酔っているのかと言うと、実はデラックスはお酒が飲み放題が付いているからだ。
ちなみにティアは今飲んでいるのを合わせて15杯目、そりゃあ
俺は4杯ぐらいで飲むのを止めていて、ルキナは8杯ぐらい飲んでいる。とりあえず後で、二日酔いを防止させる薬を飲ませるか。と思う俺であった。
「やくしさぁ~ん、頭がクラクラしゅるぅ~」
「はいはい、もう飲むの止めましょうねー」
「はーい」
顔は真っ赤だが、笑顔で片手をあげなら言うティアに俺はベルトバッグから薬を取り出す。
薬を出すと、口にコップを着けたままのルキナがこっちをずっと見ていた。
「どうしたんですか? ルキナさーん?」
「……」
話を掛けても無言のルキナ、するとティアがルキナに顔を近づける。
「アハハハ! ルキナったら寝てるぅ~」
「寝てんの!?」
まさかの事に驚いて素が出てしまう俺。やべ! っと思ったが、
「はい、寝息をついてますよ~」
あら、気付いてない? これはラッキー、変に絡まれなくて済む。と思いながら、俺はティアの言っていた事が本当かどうか確認する為に顔を近づけた。
「スー……」
あ、本当に寝てる。器用だなぁーこの子。と思うとルキナの顔がドンドン赤くなっていく。
「あ、ルキナおきたー」
「え?」
「――ッ」
ティアが言うと、ルキナの顔は真っ赤になりティアの腕に抱きついて顔を隠した。
そんなルキナをティアは優しく頭を撫でる。その光景を見た俺は少し気まずくなり、立ち上がる。
「やくしさーん、どこにいくんですかー?」
「ちょっと、用事を思い出したので行きますね。ティアとルキナさんはこの薬を飲んでおいて下さい。後、宿は近くの所にとってありますから。これが地図です、分からなかったら受付のお姉さんに聞いてください。道案内してくれますので」
「はーい」
元気に片手を上げながら言うティアに俺はフッと笑い、ある場所へ向かった。
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