第8話 「森は危険」

 俺達はギルドを出てグリーンウルフ討伐へ向かう。

 街を出て、森へ向かいグリーンウルフが目撃された付近へ向かった。ティアは軽鎧を着て、左手に少し縦に長い盾を持ち、腰に剣をぶら下げている。ルキナも軽鎧を着て背中に弓矢を装備し、両腰にダガーを二本装備していた。俺は普通の服にアームガードを装備し、片手剣を装備している。


 流石に森の中に入ると二人の表情も気迫も変わる。ここらへんはしっかりと訓練を受けてきたのだな。と俺は思った。

 すると、先頭に立っていたルキナが後ろに居たティアと俺に静止させる様に、手を俺達の方に向け、止まれと合図した。俺とティアは音を立てぬ様にルキナに近づく。

 ルキナは指を差して俺とティアはそちらの方へ向くと、


「何を食べているんでしょうね?」

「分からない」


 グリーンウルフが3体程かたまって何かを捕食していた。俺の角度からじゃ、上手く見えず頑張って見ようとした。何とか草と草との間から見る事ができ、確認した俺は驚愕する。


「だからか……!」

「何がですか? 薬師さん」

「あの捕食されているシンカジカを討伐しないと、もっと大変な事になります」

「え、どういう事ですか?」

「説明している暇は少しありませんね。ルキナさん、手前の奴を狙撃してもらえますか? 私とティアは強襲を仕掛けます」

「分かった」


 ルキナが頷くと弓矢をセットして狙撃の準備に掛かった。

 俺とティアは音を立てないようにしながら急いで強襲の準備をし、そして位置についてから俺が手を上げる。

 すると、ルキナの矢がグリーンウルフの頭を捉えた。その瞬間に俺とティアが残りの二匹を強襲して倒した。

 上手く作戦通りに行ってから俺はシンカジカに近付き、角を切り落とす。

 そんな俺に近付いてきたティア。


「あの、結局どういう事なんですか? 大変な事になるって」

「捕食されたコイツはシンカジカって言うんです。コイツの血肉はモンスターの成長を急激に上げるんです。まぁ、突然変異ですね」

「なるほど、それがどのように関わってくるのですか?」

「ウルフ系が進化するとしたら、キングウルフ。そして最悪なのがウェアウルフ。二足歩行が出来て、かなりの怪力のモンスターになるんです」


 俺の言葉を聞いたティアは理解したのか真剣な顔つきに変わる。


「危険ですね……」

「はい。実はこのシンカジカはこの地域にはいない筈なんですが……」


 何故この地域にこのシンカジカがいるのか俺には分からなかった。シンカジカは西に生息しているシカだ。俺達の住んでいるこの地域、帝都近くには絶対に生息はしていない。

 おかしい……と思っていると、


「――! 薬師さん、声が聞こえた」


 ルキナが周囲の警戒にあたっているところで何か聞こえたらしい。そこで俺はさまさか!? と思う。


「そっちの方へ急ぎましょう……!」

「はい!」

「うん」


 俺はファイアでシンカジカとシンカジカを食べたグリーンウルフを燃して、声のする方へ走った。

 本当に嫌な予感しかしない俺は、ただ「無事でいてくれ……!」と願うだけだった。


「くそッ!」


 と声が聞こえた俺とルキナは同時に声の聞こえた方へ向き、そちらへ向かう。

 すると、木々の間から見えたのはウェアウルフであった。


「ルキナさんはそのまま、ハイドキルで」


 コクンと頷き、俺は剣を取り出して空いたに片手にライトニングを発動させる。

 そしてルキナが見えていたウェアウルフの首裏の脊髄辺りを捉え、ハイドキルに成功させた。

 俺はそれに続いて、まだ見ぬウェアウルフか他のモンスターを相手しようとした。


 少し広い場所に出た俺とルキナ。そこには2体のウェアウルフとグリーンウルフ4体がいた。

 俺はウェアウルフが見えた瞬間には既に走って向かっている。こちらに気付いたウェアウルフの一体が俺に攻撃しようと向かって来た。

 俺は向かって来たウェアウルフ一体にライトニングを放ち、痺れている所を斬り倒すと同時に剣を地面に突き刺して、残り一体のウェアウルフには、


「憎悪の牙よ、相手を憎み、相手を噛み砕けッ!!」


 既に中級闇魔法を詠唱しており、相手を握りつぶす様にしてから、


「アベンジャーファングッ!!」


 牙の様な黒い物がウェアウルフを上下から挟み込み、それを受けたウェアウルフは倒れた。


「闇は全てをのみ黒に染め、時を迎えし光すら飲み込みッ、終焉の闇でお覆い尽くし、我の元へ顕現せよッ!!」


 俺は周りにいるグリーンウルフに俺は最上級闇魔法をの詠唱を行なった。


「ダーク・エンド・ノーチェッ!!」


 辺りの森と地面を真っ黒に染め、自分の任意で黒に染めたものを消滅させる。最上級闇魔法。

 俺は残りのグリーンウルフ7匹だけでなく、森に生息するウェアウルフとシンカジカを消滅させた。

 魔法が解けると、俺はふぅ……と安堵の息を付く。


「勇軌ッ!!」


 聞きなれた声のする方へ振り返り見てみると、そこにはフィーと他の冒険者がいた。

 他の冒険者は酷い怪我をしていて、俺は急いで駆けつけ傷の具合を見る。


「……傷は……深くは無いね」


 言いながら俺は冒険者一人一人にヒールを掛けていく。


「フィーは大丈夫ですか?」

「う、うん。私は平気、ありがと……」

「いえ、たまたま通り掛かったのもありますし、ルキナが叫び声が聞こえた。と言っていたので、それで来たんです」

「そ、そうなんですね」


 周囲の警戒に当たっているルキナにフィーは近づく。


「ルキナ」

「ん? どうしたの? フィー」

「あ、ありがと……」

「うん、友達だもん。助けるよ」

「ル、ルキナ……」


 すると、フィーの顔の横を虫が通った瞬間、真っ二つに虫が別れたと同時にフィーの前髪もほんの少し斬られた。フィーの目に光が失い、乾いた笑みを浮かべている。

 そんなフィーを見たルキナは、


「なんでそんな死んだ魚の顔をしてるのフィー?」

「アンタのせいでしょうがあああああああああああああ!!!!」


 と一連のやり取りを行うフィーとルキナであった。

 俺はフィーと共にパーティーを組んでいた冒険者の一人に肩を貸して森を出ようとする。

 自分たちのクエストを終了させ、ウェアウルフの討伐も済まし、シンカジカの討伐も終わらせた。

 歩ける冒険者には歩いて貰う。流石に今の俺一人ではどうにも出来ないからだ。


「……薬師さん」


 ティアは先程の戦いに参加する事が出来ず、その代わりにティアは重い荷物を持つ係と自分から立候補した。何故か、ティアが心配そうな表情を浮べながら俺の顔を見ている。


「どうしましたか?」

「薬師さんは先程、最上級闇魔法を放ちましたよね?」

「はい」

「何故、そんなに動けるんですか? 我慢しているなら私がその方に肩をお貸しします」

「慣れですよ、慣れ。でも、心遣い感謝します。私は大丈夫です、むしろティアさんの方が重労働ですので……」

「あ、ありがとうございます」


 そのまま俺達は森を抜け、街へ急いで向かった。

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