第5話 「魔法使いの子は不遇」


 嬉しくなったのか美少女はその二枚の紙を持って店を出ようとした。


「ちょっと待って下さい。私も街とギルドには用事があるので一緒に行きましょう」

「そうですか! では、一緒に行きましょう」


 こうして俺は女性と一緒に街に向かおうと裏に行って支度しようとした。


「あ、あの!」

「はい?」


 突然女性が俺に話を掛け、俺は振り向く。


「遅れましたが……私は、ユリティア・フィン・ソイネです。ティアと呼んで下さい」


 真剣な顔つきで俺に向かって言うティアに、俺もティアを見る。


「俺は――私は知っての通り、薬師の真藤勇軌です。真藤では無く、マトウとも間違った呼ばれ方をされますが、お好きな様に呼んで下さい」

「マトウでは無かったんですか!?」

「ええ、誰かが間違ってそう読んで、それでこの店の名前がある程度広がった時に広まったのでしょうね。そのせいで呼ばれ慣れてもう、気にしなくなりましたよ」


 ハハハと俺は笑いながらティアに言う。本当に訪れるお客全員が俺を真藤と読まず、マトウと呼ぶ。もうどうしようも無いと思い、俺はそれを受け止めて慣れる事にした。


「あ、あの間違ってすみません……薬師さん」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします! 薬師さん!」


 ティアは片手を俺に差し出し、


「えぇ、よろしくお願いします。ティアさん」


 俺はティアの手を取り、握手を交わす。すると、ティアがクスッと笑い出す。


「さっき薬師さん、俺って言いましたよね? 癖で出たって思ったので」

「あぁ、それは申し訳無いです。私もまだまだですね」

「いえ、良いと思います」

「そうですか、ではいずれ砕けるかもしれませんので。では、支度をしてきます」

「あ、はい」


 手を離し、俺は急いで支度を始める。ある程度の物を持って俺は支度を済ましてカウンターの横から出る。


「では、行きましょうか」

「はい!」


 一声掛け店を出てから戸締りをしっかりし、街へ向かう俺とティア。

 街と俺の店との時間は20分ぐらいである。向かっている最中も嬉しそうにしているティアを見た俺は微笑む。


「そういえば薬師さんは歳はいくつ何ですか?」

「私は20才ですよ」

「……あ、すみません。私17です……」

「いえ、私は気にしませんのでどうぞ」

「そうのですか。ありがとうございます」

「ええ、どうぞ」

「では、改めて。薬師さん、よろしくお願いします」

「はい」


 俺は少し微笑んで応え、満面の笑みで言うティアであった。

 そんなこんなで街に着き、俺とティアはギルドへ向かう。


「薬師さん、お薬ありがとうございますッ!」


 街のおばさんが俺に話を掛ける。あ、この前風邪で寝込んでいたおばさんか。


「風邪は治りましたか?」

「ええッ! もうこの通りよ!」

「そうですか、それは良かったです」


 微笑みながら俺はおばさんに言う。すると、俺の周りにどんどん人が集まってくる。


「薬師のアンちゃん! 本当にありがとうな! 俺の腕を治してくれてよ!」

「薬師さん! あんだけのお薬を本当に格安で下さってありがとうございますッ!」

「薬師さん、娘がお世話になりました! おかげで学校へ行けるようになりました!」


 などと、様々な事でお礼を言われる。俺自身、もう少し街の近くに診療所兼拠点をしたかったが、薬草などの採取の関係で上手く行かなかった。


「では、皆さん。お薬の使い方、分量には十分にお気を付けて使用して下さいね」

「ありがとうございます!」


 全員が声を揃えて俺に言う、その後に俺とティアはギルドへ向かう。


「薬師さんはこの街ではかなり有名なのですね」

「いつの間にかですね。ただ私が治したいからって言う理由で勝手にやっていただけなので」

「でも、私は利益目的では無く、ただ救いたいからやっている薬師さんの行動が信頼を得ているのだと思います」

「……」


 俺は目を丸くしながら横にいるティアを見下ろす。


「え、え? わ、私変な事言いましたか?」

「いや、そう言われるのは初めてだから、驚いただけだ」

「あ、今砕けてくれましたね!」

「それは気のせいだと思います。ほら、もうギルド着きますよ」


 まさかの出来事に俺は少し動揺した。少しこの場から逃げる様に俺はギルドへ早足で向かう。

 そして、ギルドに着き。俺は一つ深呼吸をしてから扉を開けた。

 何故、深呼吸したかって? それは直ぐに分かる。


「勇軌ーーーーーーーーーーッ!!!!」


 突然黒い大きな帽子を被った白髪ショートの女性が俺目掛けて飛び込んで来た。俺はその飛び込んで来た女性を身体を逸らして避ける。避けると、女性は後ろに居たティアのお腹の辺りにダイビングヘッドをかました。


「お゛ぅ゛!?」

「グェッ!?」

「……」


 まるで闘牛士が牛を躱すような綺麗な行動を見たギルドに入る冒険者達は、


「「「おぉ……!」」」


 と関心していた。


「イタタ……って痛いじゃない! ん?」

「それはこっちのセリフです! って」


 お互いに指を差し合い、口をぱくぱくさせている。


「「ああああああああああああ!!!!」」


 と同時に叫ぶ。


「知り合い的な感じ?」


 と俺が聞くと二人は、


「「勇者の特訓で知り合った人です!!」」


 またも、見事なハモリ具合に思わず「おぉ……!」と関心する俺。

 他の冒険者も俺と同じ様に「おぉ……!」と関心していた。だが、むしろ気になった事がある俺。


「え、てか、フィーって勇者だったの?」

「はい! そうです、私は勇者なのですよ!」


 えっへん! と言う感じで胸を張って自信満々で言うフィー。

 そう言うと他の冒険者達がフィーを見る。。


「……頭どっか打ったんだな……可哀想に……」

「そうやって自分を勘違いすんなよ……可哀想に……」

「なんかもう、可哀想に……」

「ちょっとその可哀想に止めませんかッ!? 事実ですよ!?」

「「「分かった分かった。そういう事だな、設定だね……可哀想に……」」」

「だーかーらー!!」


 涙目になりながら俺の横でギャーギャーと騒いでいるのは、フィシリア・ネルソン。俺がこの街に来て数ヶ月後に来た勇者であり、魔法使いの女の子だ。

 普段から可哀想な事がフィーに起きる為、ギルド内では何かあれば「可哀想に……」と言うようになった。


「それよりも、フィーは何でこの街に?」

「ここの街は初心者から中級者が集まる街なのは知ってるよね?」

「はい」

「その割に妙にレベルの高いクエストがあったりするから私はレベル上げの為にここにいるって感じ」

「なるほど、そういう事ですね」

「てか、何でアンタがここにいるのよ。アンタ地元の方のギルドに行ったんじゃないの?」


 フィーが腰に手を付きながらティアに言うと、ティアの顔から笑顔が消えた。


「魔王軍に壊滅させられたの」

「……え?」


 それを聞いた冒険者とフィーは驚きを隠せず、黙り込んでしまう。そして冒険者達はフィーを見て「励ましてやれ」と言わんばかりに視線を送った。

 それを察したフィーは「えええええ!? わた、私ぃいいいい!?」と自分を指さしながら驚く。

 フィーはティアを見てあたふたしてから、冒険者達を見てはまたあたふたする。


「でも」


 ティアはゆっくりと顔を上げ、前を向く。


「私は、私のような人たちを増やさない為にこの街に来たんです」

「……」


 フィーがティアの発言に目を丸くしながら驚いていると、そこに冒険者の一人が拍手をする。

 一人が拍手した事で他の冒険者も拍手をし始め、最終的にはギルド内全員がティアに拍手をしていた。ちなみに俺も含まれている。


「あ、ありがとうございますッ!! 私……頑張りますッ!」

「おう! 頑張れよ!」

「何かあったら言ってー! 手伝うよー!」

「仕入れたもん安く売ってやるよ!!」


 など、様々な声援がティアに送られティアは「ありがとうございます!」と冒険者全員に言い、それを見ていたフィーは「え!? え!?」とティアと冒険者達を交互に見ながら驚く。

 ティアの行動を見ていたフィーは、(゚д゚)ハッ! と何かに気付き、フッフッフッと悪い顔になる。


「あぁ……!」


 するとフィーは突然その場に倒れ込む様に膝を着く。横で突然倒れ込んだフィーにティアは心配になりのぞき込む。


「どうしましたか!?」

「い、いえ……実は元々の持病でゴホッ! ゲェッフォ! わ、私も少しはみんなの為に頑張――」

「「「そんな見え透いた嘘の設定しか出来ないなんて……可哀想に……」」」

「ちょっとは心配とかしないさいよぉーー!!」


 ギルド内にいた俺とティア以外の全員が声を揃えてフィーに向かって言い、フィーは涙目になりながら全力で全員に言った。


「さて、クエストカウンターに行きましょう」

「あ、はいッ!」


 俺とティアはクエストカウンターに向かい、フィーは他の冒険者に文句を言いに行った。

 クエストカウンターに着くと、受付の綺麗なお姉さんに紙を渡す。


「これクエストとしてお願いします。でも、冒険者はこちらが決める感じで」

「はい、分かりました。それと私情で申し訳ないのですが勇軌さん、今度髪質が良くなる薬液リンスの調合お願い出来ませんか?」

「ええ、良いですよ。今度届けますので」

「ありがとうございます! では、お代は報酬に上乗せしておきますね」

「よろしくお願いします」


 そう言ってお姉さんにクエストの紙を渡すと、お姉さんは紙をクエストボードに貼り付けた。

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