第4話 「誘惑に強い俺」


 15万と聞いた美少女はあまりの衝撃で絶句している。

 ちなみに嘘偽りない値段で、むしろこれでも安い方だ。そもそもこの薬を作れる存在は殆どいない。


「高価の理由として、作れる存在が少ない。技術料と使う素材が高価で希少な物が多いのが理由ですので、これでも安いですよ? ここ以外なら30秒でも20万Gですからね」

「……ッ!」


 まさかの値段に女性は驚きを隠せず、少し考えている。すると、女性は何かを決心したのか真剣な眼差しで俺を見てきた。



「今の所持金がこちらです」

 女性がカウンターにお金の入った革袋を置く。俺はその中に入っているお金を確認する。


「8000Gでは流石に……」

「で、ですのでッ! た、足りない分はわ、私の身体でお支払いします……」


 顔を赤く染めながら体を捩じらせがら美少女は恥ずかしそうに言った。

 その手はズルイ、男ならそれは喜んでお支払いして貰うだろう。だが俺は、


「……まず、自分の身体を大切にしなさい。君の気持ちは君にしか分からない。けど、君は焦りすぎている。一旦落ち着いてもう少し頭を使ってみてはどうですか?」


 まさかの発言に驚く女性、そして何かを考え始めた。


「君は勇者である前になんですか?」


 そこで俺の発言の意味を理解したのか、ハッと俺の顔を見る。


「冒険者です。持ってくれば、安くなりますか……!」

「ええ、持ってくれば先程言った価格以下になりますとも」

「では! 持ってきますッ! 素材を教えて貰えませんか!」


 女性は嬉しそうにしながら俺に言う。だが、持ってくる素材がどの様な物なのか分かっていないからこそ、その希望と嬉しさがあるのだろう。


「マンドラゴラ、グロウゴーレムの粉末、ジャイアントガルーダの涙、ミノタウロスの角ですね」

「……え?」


 当然の反応である。今言った素材全て難易度星が50ある中の40以上のクエストなのだから。

 これを手に入れるのには骨が折れたものだ。駆け出し勇者なんて、大抵は5~12レベルの間だから無理な話である。


「え、あ、そ、その……」

「体は簡単に売っていけない。それをしてしまったら君は勇者ではない。ただの娼婦だ。そんなのに君は成り下がるのか?」


 俺の言葉に女性は何も言えず、その場で黙り込んでしまった。女性は悔しいのか、自分の愚かさに気付いたのか握りこぶしを作り、拳が震える程強く握っていた。


「自分は何と愚かな事を薬師さんに言っていたか、本当に反省しています……!」


 素直にそのまま俺に頭を下げる女性。今度は土下座ではなく、ただ頭を下げる。

 本当に自分の愚かさに気付いたのだろうと思う俺。そして頭を上げた女性ははにかんだ笑顔を見せた。


「本当に薬師さん、ご迷惑をお掛けしました。私は地道に強くなって行こうと思います」


 そう言うと女性は店を出ようとして、先程土下座した時に足に付いたであろう砂を払う。


「では、私はこれで失礼します。ありがとうございます。私は仮にも勇者だって事を忘れていました」


 女性は俺に一礼して店のドアに手を掛けたその瞬間に、


「あー、後足りないのはマンドラゴラとミノタウロスの角だけ何ですよねぇ。このクエストを受けて貰える冒険者か勇者は居ないかなー受けてくれるなら、特別価格だけで無く、全面サポートする予定何だけどなぁー」


 俺は女性に助け舟を出すように言う。俺も鬼では無い、この女性は焦っていたからそれを気づかせたかった。まぁ、それでも薬の素材は入手が面倒なのは変わらない。


「良いんですか……?」


 ドアに手を掛けながら目を丸くしている女性。そんな女性に俺はクエストの紙を二枚カウンターに置く。


「受けてくれる冒険者か勇者がいてくれると助かるなぁーこれは独り言だから仕方ないけどね」


 嬉しくなった女性は駆け足でカウンターに来てから二枚の紙を手に取る。


「このクエストを私に受けさせて下さいッ!」

「はい、ではよろしくお願いします」

「はいッ!!」


 俺は笑顔で女性に答え、女性は目を輝かせながら答えた。

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