第3話 「人生驚くこと多い」


 それからは思い出すだけでも背筋が凍る位の恐怖を植え付けられた。武器の使い方を全て教えられては練習試合。一本でも取れなければ、その日のご飯は無かったので、野草を食べたり、一本を取ったらモンスターと相手させられた。

 それ以外も体術を身体に叩き込まされた。何度血を吐き、骨を折られ、関節を外された。もはや今まで食べてきた食パンの量が分からない並みに分からない。

 そして、俺はこの世界に来て2年の月日が流れた。俺は師匠に教えられた通り特訓を重ね、医学に励んだ。そんな時だった。


 突然師匠が――他界した。

 医学に関しては師匠に免許皆伝されていた俺は師匠の容態を直ぐに確認した。

 だが、病気などでは無く寿命であった。俺はこの2年で本当に強くなった。それも師匠の御陰である。だからこそその日は涙が止まらなかった。

 次の日、俺は必要な荷物をまとめた後、師匠を土に埋め墓石を作り、家を燃やす。

 俺は師匠に言われていた。


「もし、私が無くなった時はこの家を燃やしてくれ。勇軌、お前が住んでも構わないがそれはお前が決めるんだ」


 俺はいつまでも師匠の元で暮らすということは考えていなかった。

 この家を燃やすと言う事は俺は、生きていく。と覚悟したからだ。多分師匠は自分が居なくなった場合、俺に救済措置としてこの家を残そうとした。

 だが、燃やす。と言う事は自分の帰る場所を無くす事で、新たに自分で道を切り開いて行け。と言う事なんだろうと俺は思う。だからこそ、俺は家を燃やし、自分の足で自分の力で前に進むと決めた。それで良いんだろ? 師匠。と思い、俺は燃えている家に背を向けて歩く。


『合格だ。行ってこい、馬鹿弟子』


 と聞こえた様な気がして俺は後ろを振り向く、それと同時に家が崩れ始め、家と言う原型が無くなった。それを見た俺はフッ……と鼻で笑う。


「最後の最後に自分で家を壊すなよ、師匠」


 燃え崩れた家を見ながら笑うと、視界に師匠の笑っている写真が見えた俺は、


「行ってきます」


 そして俺は前に進む為に歩きだした。



 それから三年の月日が経ち、俺は街の近くの森に家を建て暮らしていた。

 俺はロッキングチェアに座りゆらりゆらりと前後に揺れながら読書をする。

 ちなみに今の俺の歳は20才だ。この三年間色々な事があった……。

 街に行き、冒険者登録を行えば緊急討伐クエストが発生したり、お金が無くなったり、薬草取りに行くのに往復3日掛かったり、上級冒険者のパーティー勧誘を断れば、住んでいた部屋に悪戯されたり、様々な事が起きた。

 だが、俺はそれでも何とか食らい付き、生き延びた。その結果、俺は薬師になることが出来た。

 師匠が元々薬師であった為、ノウハウは叩き込まれている。薬草学の知識も高かった為、世界から薬師と認定されたのだ。


「すみません、居ますか?」


 と木製のドアに付けていたベルがカラーンと鳴ったと同時に声を掛けられ、俺はカウンターへ移動する。


「はい、なんでしょう?」


 とりあえず、俺はまだ見えぬお客に先に返事をし、相手を見る。

 そこには金髪で後ろを三つ編みで纏めた美少女がカウンターの前に立っていた。


「あの、貴方がマトウ勇軌さんですか?」

「はい、自分です」

「薬師さん、相談があります! 薬を調合して貰えないでしょうかッ!」


 ダンッ! とカウンターに手を着いて音を経て、身を乗り出す少女。

 思わず俺は少しだけ後退りをする。いや、調合言っても、何の薬の調合なのか俺にはさっぱりだ。


「え、えーっと。何の薬の調合ですかね……?」


 それが分からなければそもそも調合すら出来ない。


「レベル上げの薬です」


 それを聞いた瞬間俺はいつも以上に警戒をする。その薬自体の作り方は知っている。だが、俺は一度も販売した事も無ければ、渡したこともないからだ。


「……作れますが、何故でしょう?」

「私は、駆け出し勇者の一人です。早く強くなって、魔王を倒さねばならないのです……!」


 その少女の瞳は真剣で俺は嘘を付いている様には見えなかった。だが、何処か焦りを感じた。

 そもそも駆け出し勇者とは、この世界に魔王がいる。その魔王を討伐する為、世界各地から多くの勇者の可能性を秘めた人達が王都に集められ、そこである程度の力を付けてから、魔王討伐に向かう事になっている。

 しかし、『勇者ブレイブ』の可能性を秘めた者たちは次々に消えていった。


 それは毒草を食べたり、餓死したり、モンスターに倒されたり、犯罪を犯す者もいた。そして生き残った者は仲間が目の前で亡くなるなどのせいで勇者をやめたりなど、理由は様々。

 それが、世界を救う『勇者ブレイブ』の可能性を秘めた者。俺はその事を知っているからこそ、この女性には薬を渡してあげたい。だが、


「すみません、今は材料が切らしていまして。それで調合が出来ないのです」


 俺はこれで諦めて貰う為に俺は嘘をつく。


「……では、その材料があれば作ってくれますか?」

「……はい?」


 いや、待て。何故そうなる。そこまでして魔王倒して、何不自由無くウハウハになってチヤホヤされたいのか、この女は?


「私は故郷を魔王の幹部の一人に消滅させられました……」

「……」


 確かに魔王軍はそういう事をする輩が多い、本気で人間が嫌いだと見受けられる。

 と思いながら俺は黙って聞く。


「友達も、家族も、家も……思い出もッ……!!」


 女性はいつの間にか悔し涙を浮べながら俺を見ていた。


「私に力があれば守れた筈なのにッ! 私には力が無い……! 駆け出しでも、私は勇者なのに……!」


 手で顔を覆い、泣き顔を見せぬ様に隠す少女。


「だからこそ、私は力が欲しい……。これ以上他の人に私と同じ気持ちになって欲しく無いのです……! だから、お願いします……!」


 そう言うと、女性は半歩後ろへ下がり俺に深く頭を下げた。


「私にレベル上げの薬を、下さいッ……!!」


 まさかの出来事と事情を話された俺は戸惑い、頬をポリポリとかく。

 ……どうしよう。非常に困ったな……これ。確かに協力してあげたいが、レベル上げの薬ってのは飲めばレベルが上がるっていう薬なんだが、これには重大な欠点があり、実は効果時間がある。

 そのおかげで一時的にレベルが上がり、強くはなるがそれは仮りそめの物に過ぎない。だからこそ、俺は作りたくは無い。


「……レベル上げの薬の効果は知っていますか? それと顔を上げて下さい、気持ちは分かりましたので……」


 俺に言われた通り、女性は立ち上がる。そもそもレベル上げの薬の効果を知っているのかが問題だ。知っていないなら、ここで教えてあげねば後で後悔する羽目になるからだ。


「知っています。一時的にレベルを上げてくれる薬ですよね」


 少女は俺に向かって言う。てか、知ってんのかよ!? じゃあ何でその薬が欲しいの!? んん!?


「だからこそです。その薬を飲んで、レベルを上げてから少し強い所に行って、そこでモンスターを倒し、レベルを上げる。これが目的なのです」


 あ、この少女頭良い。確かにそれなら薬の効力が切れたとしても、元のレベルは上がっている事になる。


「はぁ……分かりました。しかし、この薬はかなり高価な物ですよ。お金は大丈夫ですか?」

「安いのはあり……ますか?」

「ありますが、効果時間が長ければ高く、短かれば安くなります」

「因みに短く最安値でどれ位ですか?」

「30秒強化で15万Gです」

「……」


 まさかの額に黙り込む少女であった。

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