台無しパート

6-3. 最終話 異世界電車は寄席の席

 m(_ _)m



 エ、最後までおはこび、誠にありがとうございます。



 汎銀河から、はるばる地球にやって来まして、沢山のことを勉強させていただきますってーと、ポンコツなアタシながらも、少しは見えてくるものが、あるわけでして。


 なんと言っても、宇宙は広い。


 いろんな生き物が居ます。


 姿形から、足の数から、大きさから、寿命から。

 そんな特性……ってぇか、が、てんでバラバラだ。


 かというと、実体を持たない『思念体』なんてのも、宇宙にはおりまして。


 それこそ、3Dプリンターでも具現化できないような、精神だけの存在ですな。


 じゃあね? そんな外見を持たない思念体がサ? 個性を主張しようと思ったら、さて、どうすると思います? 


 もうネ。こっちからアピールするしかないわけです。

 誰かの脳内に直接ささやいたり、《ゴーストライター》として、創作物を残したりね。



 地球じゃ、『火の無い所に煙は立たない』と、申しますな。


 煙どころか実体のない、思念体なんぞは、それこそね? 火でもつけてアピールしないと、見つけてもらえなかったり。


 ……いや、実際に火はつけませんよ? お縄はごめんだ。


 書いた人のサ? 『魂』ってんですか? 『精神』ってんですか? 平たく言えば個性ってアレが、ゴーストライトした創作物には宿って。


 受け取る側にも、その個性が、見えたり見えなかったりする。

「あ、こりゃ、あいつが魂入れて書いてるナ?」みたいな感じのね。


 そうかと思うとね? 個性を、全然違う所から見つけ出したり。

 するってぇと……著作権侵害は、『魂』を誰かにパクられた……みたいなもんですわな。


 でもサ? 


 AIが描いた絵とかね?

 体はおっさん、心は少女な、バーチャルアースホーサーとかね?


 『個性が大事だいじ』と言うけれど、その個性ってそもそも、どんなものなんだが、わかんなくなってきちまう。


 さて。



 見事勝訴に終わったウォザキが、うまく収まったかってーと……どっこい。いろいろあったんですな。



 炎上したんですよ。SNSでネ?

 当然、ニュースにもなった。ぜんぜんスマートじゃ無いねェ。


 いろんな文句が、SNS上を飛び交った。

 

 例えばね?


「ウォザキの反抗期サカラッティングは、あのマンガと明らかに同じ。断罪されるべき」だとか。


「サカラッティングのルールが、カァリングと大して変わらないんだから、その時点でパクリだろ?」たとか。


「人が描いたマンガと似た事をった時点でパクリだろ?」だとか。


 そんなのが、もう、雨後のたけのこみたいに、たっくさん出た。


 そしたらサ?

 義憤に駆られた、どこぞのお偉いさんが、激怒しちまった。


 SNSで、こう言っちゃったんですな。


「お前らは法律を知らないから勝手な事を言う。ありふれた部分は著作物性がないから引いて考えるべきだし、アイデアの類似は侵害じゃないし、依拠性がなければ侵害じゃない。無責任に騒ぎ立てるな素人が」


 ってな、具合に。


 あー、やっちまったねぇ……。

 でも飲みながら、落ち着いた方が良かったかもしれないねェ。


 ま……法律を知ってる人にとっちゃ、正論な話かも、知れねぇよ?


 でも……ねぇ?

 法律的に正しい正しくない、以前にサ?


 感情に火が着いちゃってるから、炎上してるワケで。


 ン”ー、案の定。


「何を上から目線が! 偉そうに」

 だとか。


「明らかにパクリだろ? 侵害に出来ない裁判がおかしいんだよwww」

 だとか。


「こいつ、何様なの?」

 だとかね。


 そういう反発が、SNSで次々と来ちまって、どんどんと燃えた。


 そりゃあそうだよ。

 正論とか法律とかの話の前にサ?

 感覚的に、似てる似てないでパクリを判断すれば良いって、思ってる人がいっぱい居るんだから。

 ナゾの偉いさんに上からものを言われて、気持ちよくなるわけがない。マゾでも無い限り。


 さぁどんどん燃え広がる燃え広がる。


 それで慌てたのは、ウォザキの決勝戦のライバルだった、にんじんみたいな、キャロテーだ。


 だってヨ? 全国大会で優勝した。

 『反抗のカリスマ』の二つ名と、『優勝』って肩書きで、人気爆発して、可愛い女の子を、とっかえひっかえ……みたいなネ?

 とっくに目的果たしたんだから、例の裁判については、負けても特に問題なかったんだヨ。


 ところが、炎上の火に巻き込まれちまった。


 訴えを起こしたキャロテーの父親もさ? 

 メールボックスが、こう、風船みたいに、パンパンに膨れ上がって。

「ウォザキ、他にもこんな悪さしてます」だとか、通報がたっくさんやって来た。


 こんな大量の善意の塊、とっても処理しきれない。

 困ったその父親が、ネット民をなだめに入ったんですな。


「著作権は、『親告罪』って言って、親っていうか、権利者が訴えるものだから。大騒ぎしないでくれ」

 みたいなことを、SNSでつぶやいた。


 いや、まったく効かない。


 返す刀でSNSで「だったら何で訴えた?」とやられて、どうしようもなくなった。


 一方、ウォザキの所もさ。文句が、親の所に行ったんだな。


「侵害者の親が!」

「教育がなってない」

 なんて義憤が、大量に。


 ウォザキとしてもネ?

 さんざん反抗してきたけれど、さすがに母親に、悪いって思っちまう。


 でも、「母親に謝ったら死ぬ病」みたいなのが、発病しちまってるもんだから、おいそれと謝れない。


 苦悩したウォザキはサ? とにかく親から離れよう、ってんで、実家を出て、大学の友達のアパートに、転がり込んだんだな。


 代理人だったフッキャン先生は、ウォザキを今度こそ見つけ出し、親身にサポートをした。


「ウォザキさん? 炎上は、初期消火が肝心なんです。ここまで燃え広がると、謝っても無駄です。火が消えるまで待つのが定石です」だとか。


「炎上も、SNSと通信技術からの産物だから、それに応じた法制度に変えていかないと」だとかね? いろいろ言った。


 そうこうしてると、火はさらに燃え広がった。

 「親に反抗するとは何事だ!」って文句が、大量に沸いて。

 もう、著作権侵害も、パクリも、関係ないとこまできたねェ。


 誰が何故、何に対して怒ってるのか、皆目わからない、パニック状態だ。


 ――そんな時にだよ?


 動画サイトでアースホーサーをやってる、「」っていう、可愛い女の子が、投稿動画で、こんなことを言い出した。


「そんな騒ぎより、アタシの動画を見て! 『歌ってみた動画』の方が、よっぽどいやされるよ!」

 

 ……。


 沈静化したねぇ。炎上。 


 あっちこっちに群生するカリフラワーみたいな、アフロヘアーをサ? ふとん圧縮袋にガッと突っ込んで、こう、ギューッって圧縮して、それを反物質にぶつけて対消滅ついしょうめつさせたみたいに、沈静化した。


 いや、あっちもこっちも。

 関係者一同は、みんなびーーーーっくりしたんだけれど、蓋を開けてみて、わかったのがネ?


 炎上の盛り上げ役、わずか3人しか、居なかったんだとさ。

 それがネットの拡散機能で、膨らんで膨らんで、大きな炎上騒ぎになってただけだった。


 その張本人の3人が。

 たまたま、「カリノタイ」の、大ファンだったらしくてサ?


 いや……。

 

 その……。


 なんだ……。



 『可愛いは正義』ってのは、この世の真理ですなァ。



 それから、SNSでは反省会が開かれた。


 個性が大事だいじで、それがパクられると大騒ぎになる。

 けれどそもそも、その「個性」って、一体なんだろ?

 

 本人が思う個性? ライバルから見た個性?

 裁判官が見た個性? ネット民が見た個性?

 心の内から体の外までの、どこからどこまでが個性?

 モノの個性は? 生物の個性は? AIの個性は?

 どこまでが、パクッちゃいけない、個性?


 うーん……。

 

 うーん……。


 の中で、アナタの頭に直接語りかけてる、ポンコツなアタシにゃ。ごめんね、正直、わからない。


 もう、『思う、故にあり』なんだか、さっぱりだ。

 

 さて……。


 だってのを良いことに、尺をオーバーしちまいまして、すみません。電車で立ったままで居るのは、足がつらいでしょ? 押してあげましょうかねェ。エッ!? 座ってる?



 スポーツやら、法廷闘争やら、炎上騒ぎやら。

 そんな濃ゆーい経験をして、ウォザキは成長した。もう、大学4年。


 たとえ子供っぽくても。

 思春期に、後から考えると恥ずかしいアンナ行動とか、ソンナ行動をしていても。


 一生懸命生きてるとサ?

 どこかで誰かが見ててくれるもんでして。


 ウォザキは、仕事を紹介してもらったんですヨ。

『いろんな経験をして、学んだ事を、誰かに伝える』ってェ仕事だ。


 ウォザキは沢山反抗して、沢山失敗したから、他の人が持ってない宝を持ってるんだとさ。


 とあるの、が、彼を見初めたらしくてね。


「あたしの親戚、けっこう良い会社を経営してるから、春からそっちに来なさいな」とまぁ、そうなった。


 いや……喜んだねぇ。ウォザキは。

 なにが嬉しいって、自分個性を見てくれる人が、社会に居た……ってところにナ。

 

 嬉しくてつい、プリンを沢山買って、沢山食べた。


 その女社長さんと会った帰り。

 ウォザキはデパートで、菓子折りを買った。

 友人宅の居候から、久しぶりに、自宅へと戻ったんだな。


 居間に正座して……なんてガラでもなかったもんだから、玄関先で「ただいまぁ」。


 奥から出てきたエプロン姿の母親に、唐突にウォザキはこう言った。


 母さん、いままで反抗してゴメンな?

 俺さ、今日、就職が決まったんだ。

 長い間、心配をかけて悪かったけれど、俺も一人前の男だ。


 そうしたら。

 エプロン姿の母親は、目ぇにうっすら涙を溜めて、「そう、そう……。おめでとう」と泣くんだよ。


 ウォザキも、つられてウルッと来ながらも、「ありがとう」って素直に答えた。


 そしたらその母親。

 涙をキッっと抑えてサ。

 

 八本の足のうちの、何本かを息子の肩にポーンと置いて、こう言った。


「それはそうとアンタ。あたしの財布から、お金ズイブンパクったでしょう? そろそろ返してちょうだいな?」




m(_ _)m






<了>

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