6-2. 二つの戦い
m(_ _)m
エ、おはこびいただき、ありがとうございます。
花粉症でして。
くしゃみが止まらん。鼻水もじゅんじゅん出てね。
その状態で噺するってのは、お聞き苦しいでしょ?。
なのでアタシは、感性を眠らせる
くしゃみは収まったが、ねむーくなりますわな。いやほんと、大変だ。
さて。
ハケデン星の青年ウォザキが。
反抗期をスポーツに昇華した『サカラッティング』の全国大会で。
決勝へと向かったら。
『それは
――スポーツマンガのお約束を、台無しにするような展開だねェ。
決勝戦の相手は、御曹司の息子でして。
『キャロテー』っていう、逆三角形の、赤いにんじんみたいな体型の奴だった。
『反抗期のカリスマ』って二つ名まで持ってる、
でサ?
訴状でわかったんだけど、訴えてきたのは、キャロテーの、なんと父親だったんだな。
訴えられたウォザキはネ?
「母親への反抗は、フェアにやるべきだ!」
と、鼻息荒かった。
フッキャン先生っていう代理人を雇って、受けて立ったんだな。
丸くて、血色の良いピンク色の顔したフッキャン先生は、「訴訟に勝っても得るものは少ないよ?」と最初は渋った。
でもネ? 事情を聞いてさ。
「場外での妨害は社会正義に反する。スポーツという
――まぁプロだから、『タダで』でとはいかんがね?
ンー、でもそのへんは大丈夫。
ウォザキは、困ったときはいつも、母親の財布から
盗んだサイフで走り出したわけだ。ウォザキが。
裁判は、
フッキャン先生は、愛嬌のある丸い顔なのに、目だけは笑ってないんだな。
そして、……すごかった。
原告の言い出した『
そのココロはネ?
反抗期をスポーツに昇華するなんて、表現ではなく「アイデア」だと。
著作権法では、思想とかアイデアは独占させない。
誰もそのアイデアを使えなくなると、文化の発展に逆行しちまってマズイ。
だから、アイデアと表現とを
アイデアにすぎない『
――ってな具合にサ? フッキャン先生は、立板に水の如く、演説したんだな。誰しもその論の展開に聞き惚れた。
ところがネ?
相手が、『
雑であっても、個性があれば著作物。
そんなマンガを、なんと公証人にあずけておいて、『創作時を示す証拠』として、残しておいたんだな。
イヤ……おそろしい相手だよ。敵方のキャロテーと、その親は。
そんなこんなで、『著作物性』の論点では、勝ち目がキツくなった。
ウォザキは落ち込んで、大量のプリンをやけ食いした。
ってんで、第二の矢の出番。
フッキャン先生は、今度は『
相手の著作物に、たまたま似ててもセーフなんだな、コレが。
だってヨ?
著作権が守っているのは、
『たまたま似たものを作ったら、それが著作権侵害になる』
そんなディストピアになっちまうとサ、怖くて、自分の個性を表現なんて、できないわな?
だから、偶然の被りならセーフにしてるってわけだ。
マ、そんなことをサ?
フッキャン先生は、冷静に、心地良い、よく通る声で主張したんだよ。
そしたらサ?
敵方のキャロテー達は、
ご丁寧にもサ?
ウォザキが使ってるSNSアカウントで、「なにやってんのwww」ってコメントが、そのヘタクソなマンガの下に、投稿されてた。
いや……これはねェ……?
「
ウォザキは、依拠性の筋でも、苦しくなった。
落ち込んだねぇ……。
ウォザキは、逃亡事件を起こした。
フッキャン先生が何度電話しても、連絡がつかなくなった。
でネ?
そんなウォザキを見つけてくれたのは、彼の大学の同期の、とある女の子。
最近のサカラッティングで、10ポイントの得点を、ウォザキが何度もゲットしていた、ポニーテールに八本足の、絶賛片思い中の、可愛らしい女の子。
「ウォザキ君、練習で煮詰まると、いつもここに来てたから……」
お城から街を見下ろす、風の吹く高台でネ?
はじめてのキスなんかも経験して、ウォザキは一念発起した。
いつだって、どの星だってサ?
男を突き動かすのは、可愛い女の子なんだよ。
ソレは、著作権法で独占してはいけない、ありふれた恋心。
でもネ? 人の心を打つモノは、実はそんな、ありふれた部分に、根源があったりもしてナ? ハハハ。
ともあれ、依拠性の筋も通じなかった。
第三の矢である、『類似性』がポイントになってくる。
そもそも似てなきゃ、侵害じゃない。
著作物の表現上の『本質的な特徴』を、直接
でサ? ここがとにかく凄かった。
『表現が全然違う』とさ。
そんな、シンプルだけど王道な、フッキャン先生の、渾身の主張。
敵方のキャロテーがマンガの中でやってる、親への反抗はサ?
所詮は、ありふれた程度のものだった。
『
個性のないありふれた表現には著作物性もないから、そのありふれた部分を引き算して考えると、もう、全然似ていない。
――とまぁ、そんな演説を、フッキャン先生はしたわけだ。
その裁判を見ている、傍聴席の人だけでなくね? 動画サイトで裁判中継を視聴している、みんなへと向けて、染み込ませるように。
アノネ?
実際のところ。
裁判で争われた、ウォザキの反抗の実態はサ?
3Dプリンターで、母親の等身大人形を10個作成して、その人形をドミノ倒しにしながら、倒れ切る前に暴言を10個吐くっていう、極めて斬新なやつだったからねェ。
――そんな怪しげなサカラッティング、件のマンガの、どこにも描かれちゃいなかった。
で、結局。
「非類似だから、侵害ではない」と、ウォザキは勝訴を勝ち取った!
すごかったねぇ……。
ウォザキの行動が個性的だったのと。
フッキャン先生の活躍が、勝因だろうねェ。
判決言い渡しの瞬間。
ウォザキはサ? グッと立ち上がり、こぶしを数個ほど、
ンー、裁判所って、場所も場所だ。
大げさに喜ぶわけにゃぁ、いかなかったんだ。
あと……サ?
ウォザキが喜べない理由が、もう一個あってネ?
裁判沙汰で、アー、こう長い間、ドンパチやってる間に、サ? へくしっ。
肝心のね? サカラッティングの決勝戦はとっくに終わってて。
ウォザキは、準優勝だったとさ。
m(_ _)m
(TIPS)
【創作的な表現とは、個性の発揮のこと】
例えば、東京地裁平成11年1月29日判決参照
個性こそが肝! ここ、テストに出ます!
ただし、テスト自体がありません(笑)
【ありふれた部分が似ていても、非侵害】
たとえば、博士イラスト事件。
(東京地裁平成20年7月4日判決)
次回、最終話です。
本当にありがとうございます。
それでは……。
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