4-4. 3Dプリンターとは何か
「……3Dプリンターで剣や盾を複製するのは、著作権侵害なのですよね?」
モーゼスのその言葉で、余は合点がいった。
旅の間、この発明者は悩んでいたのか――。
「モーゼスよ。創作者の務めは、新たなものを作り出すこと。その行為の違法性
「しかし――」
「余に任せるが良い。委員会に
真面目な気性を持つ、偉大なる創作者の存在を、余は知ることが出来た。
◆
良い案は即、実行に移すべきだ。
余は大音声で、王国兵に指示した。
「皆の者よく聞け! 武器と防具を入れ替えよ! 剣を攻撃に! 盾を防御に! 盾をかざして魔物の侵攻を防ぎ、剣の切っ先を敵の急所に突き刺せ!」
その指示が総軍に伝搬していく。
皆、一旦は動きが止まり。
武器防具を持ち替え。
そして、対応。
予想外の指示に応じる柔軟さも、王国兵が備えていることを遠見筒で目視し、余は安堵の息をついた。
この用途逆転は、劇的な効果をもたらした。
ジャイマンティに、ついに傷を負わせる事に成功した。
魔物の攻撃で、兵士は吹き飛ばされるが、盾が致命傷を防いだ。
こうなると、王国兵の「数」が効いてくる。
彼らは善戦し、魔物の進撃を減速させ、序々に停止せしめていた。
(……勝機!)
余の頭には、次の成算があった。
魔物が後退を始めたら距離を取り、遠隔魔法と投石で追い討つ。
混乱した魔物達に兵士を突撃させ、混乱を更に拡大。
これを交互に繰り返し、最終的に殲滅、あるいは撤退させる。
しかし――。
「伝令! 剣の攻撃すら効かぬ魔物が現れた模様! 西南西の方向!」
そうだ。
「魔王が居る」と、勇者が申していたではないか。
余の成算は、この瞬間に撃破された。
◆
魔王。
その見た目は、ジャイマンティと大差なかった。
違うのは、その眼力がより強いこと。顔立ちがスリムなこと。
――魔王は、『
突き刺そうとした剣が折れる。
盾ごとひしゃぐ、その怪力。
戦線は、再び崩壊の憂き目にあった。
奴は知性もあるようだ。余の本陣へと、確実に向かって来ていた。
(時間の余裕さえあれば……)
伝説の装備を、伝説の3Dプリンターで量産し、兵士に配給できていれば、勝機があったかもしない。
しかし、実行に移す時間が無い。
(何か、他に手は……)
伝説の剣、盾、鎧……。
剣と盾のように、用途に対するこだわりを捨てる……。
「はっ!」
天啓が閃いた。本陣を歩き回り、モーゼスを探した。
かの発明家は、旅の間に新作したと思しき、『改良版の小型3Dプリンター』を設定している最中だった。より大型の『始祖3Dプリンター』も、その隣に在った。
まるで大小のつづらのように、2つ並んだ3Dプリンター。
「モーゼス。その伝説の3Dプリンターで、伝説の小型3Dプリンターを
◆
余は、作戦の実行開始を告げる。
「撃て!」
と。
遠距離魔法部隊が、炎を飛ばす。孤を描いて飛び、大地を揺らす。
効かない事は織り込み済み。牽制で充分だ。
「第二射! 投石部隊! 撃て!」
投石機が、ぶぉんと音を立て起動する。
宙を舞う、無数の伝説の塊。すなわち。
伝説の3Dプリンターの複製物。
ズドドドド!
魔物を、種類問わずなぎ倒す。
3Dプリンターの本来の用途は、物を製作することにある。しかし――。
本来の用途にこだわる必要などないのだ!
何を国の目的とするのか。
手持ち
それこそが、重要なのだ。
「我が君。魔法粉の残量が。次の斉射で打ち止めです」
「あいわかった、トライク」
「魔王の居る付近! 狙いを定め、第三射! 撃て!」
三度目の放物線。
魔王へ向け飛翔する、数々の3Dプリンター。
ドドドオオオ!!
魔物の群れに、大きな穴があいた。
そこへ――。
「突進!」
勇者一行に、余は託した。
勇者やイレーヌを含む小隊が、魔王集団と接敵。
いまだ多くのスリーヲット、ジャイマンティが残存していた。
しかし――それは、余の折り込み済みである。
「
イレーヌが片手を上げると、彼女を中心に突風が吹き、渦を巻く。
多数の伝説の3Dプリンターが、青い光を放ち、風に乗り、ダンスを踊る。スリーヲットを、ジャイマンティを、ゴイン! ゴイン! と、打ち倒していく。
それは、新たな連携戦術『3Dプリンター
「後はまかせろ!」
勇者が跳躍する。
伝説の剣と盾を放り投げ――。
風に舞う3Dプリンターの1つに、両手を伸ばし――それを掴んだ。
「
伝説の鎧は素晴らしい。
天空に突如現れた雲。
轟音。
一筋の雷撃が、勇者が抱える3Dプリンターに落下。
火花。
雷にも耐える鎧。
その中の勇者の目に生気が。
バチバチと、空気を割く音。
「くらえええ!」
雷を纏った伝説の3Dプリンターが、
ごわあああん! ビリビリ!
伝説レベルの
いかな魔王とて。
ひとたまりもなく……倒れ伏す。
分水領とは、静かなものである。
この瞬間――。
戦の潮目は、完全に変わった。
……静から動へ。
「「「うおおおおおおおおお!」」」
士気上がる、王国兵たち。
そこから先は、余の采配すら必要ないであろう――。
「……ふふっ」
初めて、森田が笑う様子を、余は目撃した。
◆
城に戻って幾日かが過ぎた。
宮殿で祝宴が開かれた。
勝利の
「思う存分、飲んで騒いでくれ!」
「「「フィエロ王国万歳!」」」
喝采を背中で浴びつつ、余は宮殿から退出した。
行き先は、円卓の間。
委員会に、臨席するのだ。
・破壊された建物の修繕に、3Dプリンターをどう使うか?
・魔物をスキャンして新たな
・人体や生物や魔物の
・魔物は? 合成獣は? 生物は? 精神体は? どこからどこまでについて、
決めなければならない
『三白眼の貴公子』トライクは、円卓の間で、準備しているだろう。
あの著作権バカは、どう考えているだろうか?
「3Dプリンター自体の
とでも、言ってくるだろうか。
まぁ……オーバーノ教授にでも、議論は任せるつもりだが。
余には1つ、腹案があった。
もし仮に、3Dプリンターそのものが、著作物であったとして。
「
そう発言できる議論の流れに、なるだろうか?
余はそれを――。
ほんの少し、楽しみにしていた。
〈続く〉
(TIPS)
【台無し】
物事がすっかりだめになること。
3Dプリンターを投げないでぇーっ! (泣)
壊れるー! サージ対策ー!
と、台無しにしましたけど……。
結構大事な話が含まれておりまして……。
それは、「運用カバー」。
現世日本の著作権法は、条文数の割に判例も少なく、白黒はっきりしない「グレー」が多いのです。
なので、実際には運用カバーが。
利用規約。
契約書。
CCライセンス、同人マーク。
etc.
当事者同士の事前合意でクリアランスしてるわけですね。
(まぁ……だからこそ、わがまま利用規約だとか、当事者が条項読まずに損してるとか、そんな話も出てくるわけですが)
では、また次章で。
お見逃しあれ!
(著者注:この物語は異世界フィクションですう!)
(すいませんすいませんすいません)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます