2-3. 本当にセーフなのか?

 ゴルゴダ駅の惨劇の後。

 再び魔力列車に乗り込んで、職場最寄り駅への到着を待つ。


 息の臭いおっさんが、無理やり新聞を広げようとした。俺の頬に当たる。スマートにニュースを見れないおっさんだ。


 邪魔なので腕で払いのけたら、おっさんはムッとして「お前も断罪駅員に捕まったらどうだ? どうせ違法サイトでも見てるんだろ?」と言い、鼻で笑った。


 そのおっさんは、周りからの冷たい目に気づいたか、バツが悪そうに、新聞を小さく折り畳んだ。



(しかし……本当に大丈夫なのか?)



 ゴルゴダ駅で「アレ」を見た直後だ。

 怖くなった俺は、魔導機器スマートフォンを操作。『フリーコミックギルド』のQAページを読み始めた――。



(Q)『フリーコミックギルド』のマンガを読むのは、違法なのでは?

(A)安心してください。違法じゃありません現行法ではよ? 私的複製は『合法』だと、国も認めています。

  ー>ディストピア国著作権庁ホームページへ飛ぶ。


(Q)『フリーコミックギルド』自体が、違法なんじゃないですか?

(A)当サイトのサーバーには、漫画データを置いていません。

 著作権法の存在しない外国にある画像データに、読みやすいようにリンクを張っているだけです。快適なマンガライフをエンジョイしてくださいね!

  ー>ディストピア国著作権庁ホームページへ飛ぶ。



そっか本当に……よかったそうか?……)



 ふぅーっと息を吐いてしまう。

 気づけば、額に冷や汗と、脇にワキ汗をかいていた……。 



 ◆



 俺が職場に着いたのは、始業時間の、なんと3時間後。

 魔物たる雪は、魔力列車をも足止めした。


 ロッカーで、背広から金属鎧に着替え、アックスを持って外回りに向かう。


 女子社員チームの、とあるプロジェクトが、炎上しているらしい。

 雪で出社できない社員も居て、人手が足りず、「ヘルプに入れ」と、上長から直々にお達しがあった。


 ――仕事とはいえ、女の園に混じるなんて。緊張で、俺がまともに呼吸出来る保証はない。今のうちに空気を沢山吸っておこう。すーはー。


 急遽参加する、炎上中のソレは、『火の鳥フェニックス獲得プロジェクト』と呼ばれていた。

 火の鳥を捕まえて、砕いて粉末にし、『長寿薬』として売る計画だった。

 この薬。ディストピア国の薬事法を通すには、まだまだ時間がかかりそうで、商品化まで、遠い道のりが待っている。


 火の鳥は、火の粉を撒き散らしながら飛ぶ。

 だから、弓矢や魔法銃など、遠距離攻撃を悪口口撃の如く発射できる女子社員を中心にした、パーティ編成だったのだが。


 どうやら火の鳥が、追い詰めらると体当たりして来るらしく。

 文字通り、女子社員の装備服装が炎上している……と、上長からは聞いている。


 女子社員の服が燃えて、肌や下着が見えるかはともかくとして。

 ピンチの女子社員を助けたら、俺にもついに彼女が出来るかもしれない。

 

 水筒に水を入れた。アックスと、体当たり攻撃に備えた分厚い金属盾とを持って、会社所有の戦闘車へと飛び乗った。

 魔法で動く鋼鉄の車だ。頑丈さとパワーが信条の、ずんぐりとゴツいやつだ。

 雪で滑らないよう、天然ゴム製の車輪には、溝魔法グリプトが施されていた。


 乗ると、樽のような俺の体が、車体をぶゆんと揺らす。

 戦闘車の中にいるしもべ妖精が、ぶるぶると不平を言うが如く起き出して、車は発進可能状態になった。

「ぶっ飛ばすぜ! エノリ!」

 しもべ妖精が言う。パワータイプの妖精だけあって、威勢が良い。


 女子社員達も、遠距離武器を荷台に積んで、社用戦闘車に乗り込んでいた。彼女達のは、流線型の、速度重視タイプの車だった。


 ――当然ながら、俺の車に女子は乗り込んで来ない。今はそれで良い。


「ふん。俺とは違って女の子が遠距離タイプは助手席に機動力が命だからな居なくて寂しい

 心の内に隠した本音を、威勢の良い言葉でふっ飛ばした。


 戦闘車内部の正面中央に、四角い溝がある。

 そこに、俺の魔導機器スマートフォンをセット。

 

 念を込めて、画面をタップ。


 ハント対象の火の鳥は、幻獣タイプに分類される。

 その、もやのようなファントム見える化マッピングして、画面に表示する探索魔法ファントマを、しもべ妖精に命じて展開させる。魔力バッテリーマナッテリーは充分。


 テズーカ地区か。

 意外と近くにいるぞ。火の鳥が。

 

 これなら、多少の残業程度でなんとか狩れそうだ。

 俺は裸足になった右足で、念を込めつつ、アクセルを踏んだ。


 キュロロロ! ガッ!

 スリップしていた車輪が、地面を噛む。

「ぐう!」

 急激な加速度。


 フロント溝にはめた魔導機器スマートフォン。起動している魔導アプリは地図を表示する。その地図上に、幻獣の位置を示す光点が。


 その光点を覆い隠すように――。

 広告バナーが、シャッと、横からスライドして表示された。


(ちっ。このタイミングで広告かよ)


 俺は広告を消そうと手を伸ばす。

 しかし逆に、誤って、念入り念を込めたタップしてしまった広告バナー。


 小さい魔法陣の、時計周りエフェクトと共に、広告の内容が展開され――。

 

『マルヤマ書店 今月の新刊!』

 と、画面に表示された――。






(TIPS)

では?】

<ダウンロード>

 私的ダウンロードについては、違法ではありません。

 著30条で、私的複製はセーフ。

 ただ、画像はともかく、「動画」や「音声」の情を知ったダウンロードはダメです。(著30条1項3号)



<サーバに蓄積する行為は?>

 サーバに入れてたら、侵害でしょうね……。送信可能化。(著23条1項、2条1項九の五)


 マンガ海賊版は、出版社さん視点だと、めっちゃ困る存在と思われます。

「正規ルートで読んで! 商売でやってんだから! 作者にもお金還元しなきゃいけないんだから!」と、声を大にして言いたいはず。

 また、そのマンガの創作に無関係な人が、フリーライド的に儲ける。その行為を、「ズルいだろ!」と思う人も多いかもしれません。

(どこからどこまでが駄目なフリーライドなんだ? という疑問も生まれるけれど)



<国またぎの処理が難しい>

 ただね……? 

「国は日本だけじゃない」って所がネックになってきまして……。


 ベルヌ条約5条2項

(2)(前略)保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、


 ね?


 扱いがなんですよね……。


 外国にサーバーがあり、そこにデータを入れておいたとする。

 それを「日本の著作権法で」違法だと実際に訴追……できるかなぁ?

(ここについては、7.でもう少し触れます)


 そりゃ……権利者側は、「読む人の良心次第です!」と言いたくなるでしょうね……。


 でも逆の立場だと「違法じゃないなら読むよ。得だし」ってのが人情。


 じゃあ、法のシステムとして、どう対応しましょう?



『データは国をまたいじゃうけど、法律は簡単に国をまたげない』

 ここです。対応が難しいとこ。


 条約結べるなら、また違う話になるかもですが……。

 

 ――で、結局今は、どんな話が進んでるかというと。 


 「海外サイトはアクセスブロックじゃ!」

 「海外に悪質なリンク張ってるサイトリーチサイトを、違法化しちまおう!」


 ってのが、検討されている模様。


「権利が国毎に別なら、日本の中で把握できる行為で、規制かけよう」って筋ですな。


 いろいろ難しいみたいです。


 例えば、貴方が、法律を作る担当だったとします。

「いいリンクサイトと、悪いリンクサイトとを切り分ける、定義の文章、作って?」

 って頼まれたら、うまく作れますか? みたいな。


 ここを、国はどうクリアするのか。

 筆者は、そこが気になってます。

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