9発:はじまったかと思ったらおわってた件

   ※   ※   ※   ※   ※



――はじまりの街



「やっと着いたね、颯汰そうたさん!」


「――…」


 ――ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ……

 ここまで、5、6時間歩いた。

 歩いて歩いて歩きっぱなし。

 都会生まれ都会育ち、ついでにひきニートのこの俺が、こんなにも長時間歩くのは拷問のそれに等しい。

 おまけにこの幼女神ロリがみ、10分も歩かねーうちに疲れたと駄々こねて、すぐに俺におんぶしろとぬかしてきやがった。

 暴力ロリは断るとすぐに殴ってくるからしぶしぶOKしたものの、はじまりの街がこんなに遠くだとは思ってもみなかった。

 幼女神ロリがみに、まだか、と尋ねるたび、もう少し、と答えられたもんだから歩き続けてみたものの、おまえのもう少しは、なげぇーんだよ!

 田舎モンか、おまえはッ!


 それにしてもだ――

 でけぇーーー!!

 なんてスケールのでけぇー町なんだ、ココは!

 はじまりの街、とか云うもんだから、てっきり村に毛の生えた程度のしょっぱい集落かと思っていたが、思いっくそ巨大な城塞都市な上、何層にもわたる町並み。

 こりゃ下手したら、100万人以上住んでんじゃねーか、ってくれ~の規模だぞ!

 港町なもんだから船はたくさんあるし、巨大な神殿から王宮、異常に高い塔、見事な水道建築物、人工の泉、山から森まで町の中に内包している。

 人波でごった返し、祭でも開催されてるんじゃないか、ってくらいにぎわっている。

 本当にここって、はじまりの街、なのか??


「ハートちゃん様、ココってはじまりの街であってますよね?なんか、やけにでっかい町、っつーか、都市なんですけどォ…」


「座標はココで間違いないのデス。確かに、みょう、デスね~?

 大体、ドコの世界でも、はじまりの街は、、って相場なんデスけどねぇ?」


 おいおい、、とか云ってやんなよ。

 他の世界の住民に失礼だろ。

 そもそも、俺は異世界のことなんか知らねーから、どの程度が平均的なはじまりの街なのか、なんて分からねーって~の。


「街の住民に尋ねてみてはいかがデスか~?」


「え?なんて?」


「ココは、はじまりの街、デスかーって」


「おいおい、そんな尋ねかた、あるのかよ」


「はじめて訪れた街で、そこの住人に話し掛けるのは、基本中の基本、デスよ!」


「いや、だからッ、それってゲームだから!」


「こまけーことは気にすんなーデス!」


 まぁ、仕方ない。

 確かに、コミュニケーションの1つも取らんと話にならん。

 さすがに、はじまりの街ですか、って尋ねるわけにゃいかねーが、なんらかの情報仕入れておかねーと、なんもできね~わ。

 うーん、結構、めんどーなのね、転生って。


 街中を行き交う人々は世話しなくしている。

 生活。

 そう、彼らには彼らの生活リズムがある。

 いきなり、余所よそからやってきた異世界人が、そのリズムに乗るのは難しい。

 さて、どうしたもんか――


 ――ん?

 城塞都市の巨大な城門の前で、街中に入ってくる連中をキョロキョロと見回している女が一人。

 元の現実世界リアルガチでは、見ず知らずの女性に声を掛ける、なんてハードル高いマネしたことねーが、今の俺はだけは女そのもの。

 下手に男に声かけて、アッー!、な目に遭ったりしたら怖ろしいんで、ここはひとつ、彼女に声を掛けてみるか。


「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですがー…」


「!?はいッ?なんでしょうか??」


「…えーと、この町って、なんという名なのでしょうか?」


「――ここは、“はじまり”の街にして“さいご”の街『ザイオン』です」


 わおっ!

 欲しい情報、いきなり入った!

 にしても、すげーな。

 テンプレートなセリフ、ガチで云うんだな?

 この人、NPCじゃないよね?

 ちゃんと、生きてるよね??


 ――あれ?

 はじまりの街、はまぁいい。

 さいごの街、ってなんだ?

 どーゆーこと?


「…あの~、はじまりの街なのに、さいごの街ってのは、どういう意味ですか?」


「ああ、この町は、魔王討伐のための最初にして最後の砦なんです。

 魔王討伐に乗り出す皆さんはまず、この町に訪れ、最終的に討伐に向かうさいにもここから出征するんです」


 サラッと凄いこと聞いちまった。

 やっぱいるのか、魔王!

 ファンタジックな世界には、ほぼ確実にいるよな、魔王。

 暑い時期にく、謎の虫、と同じくらい高確率で存在するよな、魔王って。


 そんなことより――

 はじめに訪れ、且つ、出征にも使われる、ってどういうことなの?

 普通……ふつーってのもおかしな話だが、魔王退治の最後に使われる町ってのは、魔王の居城に近いセーブポイントなワケだ。

 はじめに訪れる町、ようはスタート地点と最終目的地が一緒、ってのは考えにくいんだが?


「なぜ、魔王征伐に挑む方達が最初にここを訪れ、最後の出征にもここを使うんですか?」


「あぁ、ちょっと着いて来てください」


 ――え?

 ドコに?

 すたすたと城門の外、つまり、町の外へと向かって歩き出す女。

 意味も分からず彼女の後を着いて行く。

 開け放たれた城門をくぐり、跳ね橋を通ってお堀を越え、ここを目指して俺達がやってきた街道に向かう。

 また、戻るのか?

 もう、歩くのイヤなんですけど…


をご覧ください」


「あれ??」


 彼女が指差した方向には、巨大な河、いや、湖なのか海なのか、とにかく、水面を越えた向こう岸、その遠望えんぼうかすみがかった建築物の影がうっすらと見える。


はなんです?」


「はい、が魔王の居城です」


「――ちかッ!!!」



 ――予想を超え、思いのほか、魔王の城は近かった…

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