8発:よし、イクぜ、メイク・アップ!

「画面はしにリップスティックみたいな図柄のアプリあるデスよね?」


「んー、あっ!この弾丸みたいなヤツかな?」


「そうそう、デス!それをダブルタップして開くのデス」


 云われるがまま、そのアイコンをダブルタップ。

 ん?

 なんだこりゃ?

 ただの手鏡ミラーアプリじゃねーのか、これ?


「開いてみたんだけど、ただのミラーアプリじゃね?」


「その鏡を覗き込み、さいこーに姿を念じてみてください、なのデス」


 メイクがどろどろと落ちた、まぎれもないおっさんがに写っている。

 む~、メイクが落ちると、こんなにもキモく見えるもんなのか。

 うっすらヒゲも伸びてるじゃねーか。

 なんつーか――

 小汚こぎたねぇーつらだな、こいつは。

 あっ、これ、俺か!


 最高に可愛い姿、だっけか?

 なんだ、そりゃ?

 すっげぇ~女の子でも、イメージしてみっか。


「はい、ハートちゃん様、念じたよー」


「念じましたデスか?それじゃ~、念じたまま、下にある『変身ボタン』をタップするのデス!」


 変身ボタン?

 送信ボタンじゃなく?

 誤字じゃねーのか、コレ?

 ま、いっか。

 そりゃ!

 ――ポチッ、

 、とな。


Makeメイク Upアップ!』


 えっ!?

 なに、この電子起動音?

 どゆコト?


 うおっ、まぶしっ!

 鏡がっ、鏡が急に輝きはじめやがった!


 ピーピロリーローリ~…――

 はいィっ!?

 笛の


 ――デンデンデンデデーン!デンデンデンデデーーン!デン、デン、デンッ!デン、デン、デンッ!

 えっ!えっ!

 なになになにっ!

 なんなの、このBGM!?

 ――テッテテーッ、テテテッ!テッテテーッ、テテテッ!テッテテーッ、テテテッテーテーッ!

 なんと心地良い疾走感、そして、爽快感!

 ヴァイオリンの音がロック調のメロディを奏で、実に気分がいい。

 まさにっ、処刑用BGM、に相応ふさわしい!

 いやいやいやっ、処刑しちゃダメだろ。

 それにしても、コレは一体!?


 めくるめく光と音のファンタジーが強烈に幻想的な視角化を伴い、俺の体をぐるぐると包み込む。

 なんて、暖かな光なんだ…

 ――キュピィーーーン!

 やがて、光の粒子が収束したかと思うと、今度は一気に爆発するかのように、周囲に爆散、光の筋を四方八方にき、き消えた。

 一体全体、ナニが起こったっていうんだ!


颯汰そうたさん、ゴッホの鏡を覗いてごらんなさいデス」


「あっ?ああ……こッ、はッッッ!!!」


「ソレが今のあなたデス」


「か、かっ、きっ、きゃっ、きゃわいいぃぃぃぃ!!!!」


 鏡アプリに写し出された俺は、恐るべき可愛さに変貌へんぼうしていた。


「そのアプリは、変身メイクアプリなのデス。イメージしたカワイイ、キレイ、ステキな姿をそのまま具現化し、アプリユーザーに提供、変身をもたらす驚異の創造、いえ、想像アプリなのデス」


 なんて可愛さなんだ、俺はッ!

 軽くぷよった腹も引っ込み、若い頃のような細身のすっきりボディになってる。

 心なしか、体も軽いッ!

 それにしてもっ。

 美少女過ぎて、

 鼻血でそーだ!


 はッ!

 ま、さ、か…

 ミニスカートの中に手を突っ込む。

 ――ぽにゅ。

 アレ?

 !!

 あれ?あれ?あれれ?

 女体化、したワケじゃねーのか!?


「……えーと、ハートちゃん様…俺、男のまんま、なんですけど?」


「そりゃそーデスよ。超越界プレーローマレベル0なんデスから、体の構造まで変化させることはできないデスよ」


「…えーと、つまり…?」


「はい、颯汰そうたさんは、男性、デス」


 まぁ、こんな可愛い子が女の子のはずがないッ、よな!

 いや、――

 違うちがう!

 そこじゃないんだ、問題はっ!


「おいおいおいおいッ!それじゃあ、なーンも解決してねぇ~じゃねーーかッ!!」


「えぇ?カワイクなったんだから、イイじゃないデスか?」


「いやいやいやっ、男がこんな格好してる、ってのがマズイんだってヴァ!

 いくらかわいくたって、男のまんまじゃヤバイって」


「そーゆーもんなのデスかぁ?」


「当たり前だろ!

 ハッ!そーだ。こんなすっげー魔法が使えるんなら、服くらい、パッと出すことできるんじゃないか?」


 曇った表情を浮かべ、幼女神ロリがみは首を横に振る。


は無理デス。超越界プレーローマレベル0では、服とかそういった物体を創り出すことはできませーん、なのデス」


「えぇっ!?こンな、がっつり顔かたち、ボディラインまで変更、っつーか整形チックなことまで出来たのに、服も出せないのかよっ!」


「変身メイクアプリは、ユーザーの意思をユーザー自身に当てめるだけですから、そんなにレベルの高いものではないのデス。

 ですが、服を出すとか服を作るとかって云うのは、無から有を創り出し、自分自身ならざるモノに干渉し、且つ、ソレを固定化、恒久化するという多少、手の込んだ芸当なのデス。

 レベル0の無能野郎には、ぜってぇームリなのデス!」


 おまえも今は、レベル0、だろーが!

 まったく、今ひとつ、使えねぇーなコレ。

 ま、取り敢えず、かわいい男の娘にはなれたようだがな。


「――それに…」


「それに??」


「最初っから服とか作れたり出来てしまうと、転生初期で最強装備とかいきなり作っちゃうチート野郎が出てくる可能性があるのデス!

 不正チート野郎は、赦さねぇーのデス!!」


「…それな!」

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