数十年前、ある川にかかっている鉄橋のアーチの……歩道ではなくアーチそのものの……上を実際に歩いて渡った人物がいた。私がいる県の県庁所在都市を流れる川の一つで、橋はそれなりに大きい。新聞沙汰になり、以来その橋のアーチには鉄条網つきのバリケードがつけられた。 本作を読むまで、その行為は単なる悪ふざけだと思っていた。しかし、数十年越しに考察の手がかりが得られた。私もまた、時々心の中でアーチを登る。
眼鏡をかけた彼と老人。鉄橋の真新しさと錆び付いた現在。時の流れ、邂逅、思ひ出。懐かしさと今を見失った自分を思うならば見ていただきたい。