♂or♀?♀&♀?♂&♂?
私は完全にJさんの話を聞く側に徹していた。出来れば早く陽菜ちゃんの席に戻りたい。さきほどチラっと陽菜ちゃんを見ると、またしても悲しそうな目で遠くを見ていた。
「J君~来てたの~?」
私とJさんの会話を裂くように入ってきたのは、キャバ嬢?っぽい三人組。
これまた派手な雰囲気。
持ち物はヴィトンにシャネル、バーキンにエルメス、ディオール。
一目見ても分かるくらいにブランド物で埋め尽くされている彼女達…
Jさん同様、価値観の差を感じたもので…私は彼女達にJさんの隣を譲った。
少しだけ話を聞いていたが、まぁブランド品と美容整形の話題ばかり…
最近で言う所のインスタ女子?意識高い系女子?
「私、今度ヴィトンの新作買おうと思ってるの~これこれ」と、私の左隣に居る派手な女がJさんにスマホを見せている
「「可愛い!」」他の女共は声を合わせて賞賛している。
私はもはやどうでも良くて、画像を見る気さえもなかった。
そんなにブランド品の話が面白い?
ブランド品の話をすることで自分が高い女とでも思っているのだろうか?
それともブランド品を身につけることがお洒落だとでも思ってるのだろうか?
飛んだ勘違い女共だ。
実際、そんなに可愛いわけでもないのに。
話を聞いていると案の定、彼女たちは六本木のホステスだった。
Jさんが席を外した瞬間に…
「そのワンピース可愛い!何処のブランド?」と六本木自称No1だと言い張る女は私を見て聞いてきた。それが本心から出た本音なのか皮肉なのか分からないけども…
別に見栄を張る理由を自分の中で感じなかったから『夢展望の安物です』と謙虚かつ笑いながら答えた。
「夢展望ってプチプラで有名なショップだよね?…なんかごめんなさい。
20代であのショップで買い物する人って周りに、なかなかいないからビックリしちゃった」
自称No1の言葉に他の女共も、うんうんと頷いている。
…なんなの?嫌味なの?だったらもっと堂々と言えばいいよ。“そんな服しか着れないの?”ってさ。
そんな服と言っても、私は気に入って着ているわけで。
『ですよね…』
もはや圧倒されて言い返す気力は0に近かった。
「けど着こなしが上手だよね。安い服も高そうに見えるんだもの羨ましい」
自称六本木No1ホステスは、隣にいる同僚の女の子と顔を見合わせて口角を上げてる表情を見た瞬間に…
これは、やはり私をからかうための会話でしかなかったことに気づかされた。
『ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。
是非、お姉さん方も安い服でも高価に見えるような着こなしを心がけてみると良いですよ?男って案外ブランド品ばかりを身に付けてる女性に距離を置く人って多いですから』
そう吐き捨て、颯爽とその席を外した。
私の中で劣等感を感じたのは言うまでも無いし、感じなくても良いはずの屈辱を浴びたので非常に気分も居心地も悪かった。
別に彼女らにどう思われようが構わない。一生の内で、会うのは今回きりだろうし。
“六本木のホステス”もっと気品高そうなイメージを持っていたが…
私が偶然出会った六本木のホステスは、何かを勘違いしてる三十路間近の痛い女達。
Jさんとの会話でも感じていたけども、
六本木ホステスと会話をしたことで…
人を見下すことで優越感を得ているような人は本当に嫌だと実感した。
『ただいま~』
「美咲さん!大丈夫ですか?あっちで盛り上がってたんじゃ…」
陽菜ちゃんは申し訳無さそうに私を見ている。
『全然。戻ってきたくて来ちゃった。迷惑かな?』
「いえいえ!ありがとうございます」
私が戻ってきたことに寄って陽菜ちゃんと会話を再開。
お互いの人生観を、深く深く語り合った。
「美咲さんは女性には興味はありませんか?」
会話の流れで陽菜ちゃんは唐突に質問を投げてきた。その時の陽菜ちゃんの目は、瞳の奥から異性を感じさせていた。こんなことは人生で初めて。しかも異性ではなく同性に。
『まだ、経験はないかな…恋愛対象は男性だから』
変に気を持たせてしまうのは嫌だったからハッキリと言い切ると、少しばかり切ない表情で「美咲さんのような素敵な女性なら、きっと男性も放っておかないでしょうね」と放った。
その言葉にどんな意味が含まれていたのかは分からないが…私は一般人だ。何なら先ほど、自称六本木No1ホステスに貶される程の田舎者で安い女。
『それ言ったら、陽菜ちゃんだってよっぽど魅力的な女性だよ』
「私なんか、ただの不良品でしかなです」
“不良品”
それは今までの人生の中で決め付けてきたものではないだろうか?
『そんなことないでしょ…
陽菜ちゃんしか持ってないマイノリティって、陽菜ちゃんにしか持ってないマジョリティでもあるよね。だから不良品だなんて言わないでよ』
陽菜ちゃんと話していると…カメレオの“♂or♀”が脳内再生されてしまう。今この歌詞の通りのことを私は発言したわけで…。そこに一つも嘘は無い。
「美咲さん…それ以上は…本当に心が持たなくなりそうです」と再び頬をピンクに染める陽菜ちゃん。普通の女の子じゃんか。
ー同性愛か異性愛かの違いなんて「利き腕」の違いと同じー
そう言ってあげたかったけど…それはさすがに無責任だと思ったから口を閉ざした。
「私、また美咲さんに会いたいです。連絡先を聞いても良いですか?」
帰り際、陽菜ちゃんにそう言われて…特に断る理由もなかったので私は陽菜ちゃんと連絡先を交換した。私が帰ろうとすると陽菜ちゃんも「私も帰ります」と言った。
最後は、ここに連れて来てくれた高光さんに見送られ陽菜ちゃんと六本木の夜道を一緒に歩いた。つるとんたんの前で急に陽菜ちゃんは足を止めた。
「嫌だったら良いんですけど」
『ん?』
「抱きしめても良いですか?」
陽菜ちゃんに視線を向けると彼女は顔を赤くしていた。私は、初めて同性に“怖い”と言う感情を持った。
それは初対面の男性とセックスをするとは違った感情。これ以上この子と一緒に居たら、心を持っていかれてしまうと思ったから…
『構わないけど…』
その言葉を放った次の瞬間に165センチ程の陽菜ちゃんは、154センチの私の体を包み込むよう抱きしめた。ちょうど陽菜ちゃんの豊満なバストが私の顔に触れて…なんだか不思議な気分。
同性に抱きしめられたのは、初めて。
とりあえず私は彼女の背中に腕を回したが…レズビアンと聞いていた手前、変に心臓が高鳴った。
「ごめんなさい。また会って下さい」耳元で呟く彼女の声がだんだん男性から言われてるようにも聞こえて仕方ない。
そしてゆっくり体が離れた。
『また機会があったら会おうね。けどごめん…あたしは男が好きだから』
それは若干自分に言い聞かせていた。このままじゃ私は心が揺れそう。
「知ってます」
『ありがとうね。また必ず会おう!』
「はい。また会いましょうね」
彼女と次があるかは分からないが…別れを惜しむように私と陽菜ちゃんは離れた。
【世の中色んな人がいる。今日だけでも色んな人と出会った。
中でも陽菜ちゃんとの出会いは25年生きてきた中でもトップクラスに入る程の衝撃を受けた。
そして、自慢話や自分の栄光やブランド品の話ばかりをする人間よりも…
私は陽菜ちゃんとの出会いと話した時間のほうがよっぽど価値を感じた。
名ばかりが売れてる人間を大事にするのでは無く…自分にとって関わってて心地良いなって思う人は大事にしよう】
あの子の人生観を小説にした方が、自分が書くよりもよっぽど勉強になりそうだ。
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