上から目線な人達


『陽菜ちゃんは彼氏は居るの?』

とりあえず辺り触りない会話で陽菜ちゃんと言う人間を探ってみることにしたが…私の質問に陽菜ちゃんは首を大きく横に振った。


「男の人が苦手で」

『そうなんだ』

「恥ずかしい話…19年間で彼氏がいたことはありません」


意外。とも思ったけど…彼女が放つ異様なオーラの理由が何となく分かった気がした。


『単刀直入に聞くけど、恋愛対象は女の子なのかな?』

オブラートに包んで会話をするというのは、自分にとって疲れるものだと気づいたのでお酒の勢いで陽菜ちゃんに質問を投げると…


陽菜ちゃんは、私から視線を外した。あっ、これはマズイことを聞いてしまったか。


『ごめんね。こんなんこと今日会ったばっかりの人に話したくないよね…』

さすがにデリカシーが無さ過ぎたことを反省。


「いえいえ、こんなにストレートに聞かれたのは初めてだったので、少しドキっとしちゃって…美咲さんは引きませんか?あたしがレズビアンでも。」

倒置法を上手く持ち要りながら、私に問いかける陽菜ちゃん。どうやら怒ってるわけではなかったようだ。


『引かないよ。むしろもっと陽菜ちゃんの話を聞かせてほしいな』

私の言葉一つ一つに、大きく反応し目を見開く陽菜ちゃん。


「美咲さんは不思議な人ですね」

『そんなことないでしょ。それ言ったら陽菜ちゃんだって不思議ちゃんだよ?』

「良く言われます。だから友達も出来なくて…人との関わり方が分からなくて」

『んじゃ、せっかくこうやって出会えたんだから友達になってください』


話せば話すほどに陽菜ちゃんと言う人間に興味や好奇心が沸いて仕方なかった。この子と友達になってみたいなと思ってしまった。


陽菜ちゃんは、自信なさげに「私も美咲さんと友達になりたいです」と言ってくれた。

きっと今日限りの付き合いになるのかもしれないけど…その後もお互いのことを話したりして、2時間ほど話しただろうか?その間もちょいちょいお店には、見たことのある芸能人が訪れたりもしたが…話に夢中になっていた。


どうやら陽菜ちゃんは、かなりのお嬢様だということが分かった。

だけど、家庭環境を聞くと複雑なようで…

両親から愛情と言う愛情を受けたことがないんだと言うことも話からは伝わってきた。


今までお付き合いした女性は、二人。

さすがに恋愛の話題は、どう触れたら良いのか分からなかったが普通の恋愛トークのように話す陽菜ちゃんを見ていて…好きになるのが異性か同性かの違いだけで、他人を想う気持ちには何ら違和感を感じなかった。



「美咲ちゃん、ちょっと良いかな?」と高光さんに呼ばれてやむ終えず一旦、その席を外した。


高光さんについていったボックス席。その目線の先には、某有名アーティストのJさん(仮名)がいる。

これはこれは…また一気に緊張感が高まる。


「この子、東北っ子の美咲ちゃん。音楽好きみたいだから仲良くしてあげて」と高光さんが私を紹介してくれて、私はペコリと頭を下げた。


「こんなに可愛い子、東北に居るんだ~どうぞ座って座って」

Jさんからそう言われて、私はその席に腰を下ろした。


『初めまして。ご一緒に失礼いたします』

ってここはキャバクラか!と、と、とりあえず乾杯。


「美咲ちゃん、本当に可愛いね。どう?芸能界とか興味ない?」

げっ、芸能界!?それは社交辞令?


『とんでもないです。私なんて何処にでもいる一般人ですから』

「そうかな?さっきから可愛くて目が離せなかったんだよね。芸能界じゃなくても高級クラブとかさ…可能性ならいくらでもあるよ?」

口説かれてます…しかも今までとは違った質の口説き方で。


『いえいえ、自分なんかただの田舎者ですから』

「そう?けど、ここに居る奴はだいたい皆田舎者だよ。

そこでカラオケ歌ってる奴、今じゃ化粧品メーカーの社長だけど上京してきた時は津軽弁って言うんだっけ?何言ってのか全然わかんなかったし」

『それが今では社長だなんて、とても努力されたんですね…素敵です』

「努力っつーのか、分かんないけど」


ここに居る人全員…住んでる世界が違いすぎる。

芸能人か社長か起業家、もしくは大手企業の役職についてるようハイスペックなセレブしかいなんだもの。


そこそこ私も人間を見てきているせいか…なんとなく話し方や話の内容や素振りでわかってしまうことがある。


Jさんは内心“こんな下級な小娘と話しても得られるものはない”そう思っているのだろう?その証拠にやたらとJさんは上から目線で物を話し「美咲ちゃんもこっち側の人間になりなよ」なんて言うんだもの。



芸能人

政治家

起業家

大企業の社長



本当は、こういう素晴らしい人の話はまともに聞くべきなんだろう…ゴマをするべきなんだろう。

だが、ひねくれ者の私は、Jさんのことを知りたいとも話を聞きたいとも思わなかった。


そもそも“こっち側の人間”って、それ何よ?

他人を見下すような人間になれってこと?


【その人の価値観の中で他人をランク付けし、態度や物言いを変えるなんてちっぽけだ】

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