不思議な女の子
9月28日、私は東京を訪れていた。
「待っていたよ」
『高光さんお久しぶりです!』
「相変わらず元気そうじゃないか」
『はい』
高光さんはキャバ時代のお客様で都内在住のとある企業で社長をされている。
身にまとうスーツや小物は気品の高さを伺わせていた。
「ご飯は食べてきたかな?」
『新幹線で食べてきました』
「そうか。んじゃ行こうか」
キャバ時代のお客様は、ほぼ全員切ったが高光さんは切らなかった理由がある。
この人は私に恋愛感情を持っていない。何せこの人は男性が好きで所謂ゲイだから。
そして、真剣にお付き合いされてる方もいるらしい。
私が東京にライブで訪れると、毎回高光さんは、とある飲み屋に連れていってくれる。そこは、芸能人行きつけの飲み屋。
過去二回程、芸能人と呑む機会もあったけど…
紹介されたところで何を会話したら良いのかも分からない。
今回は29日のライブの為に都内に出てきたんだが、高光さんと予定が会ったので…またしても、例の飲み屋に行くことになった。
東京と言うのはいつ来ても人で溢れ返っていて騒がしい。そして、此処…六本木は外人さんが多い。街の賑わいや騒音が雑音に聞こえる人も居るだろうけど、私にとっては心地が良い。
そして、到着。例の飲み屋。会員制のバー。
先程も軽く説明を挟んだが、お客様の大半は芸能人か大企業の社長や役職についてる人や…何をしてるのかは知らないが、やたら金がある人ばかり。
お店に入ると「東北っ子連れてきたよ~」と高光さんは私を周りに紹介してくれた。
すでに目の前には、前回もお会いしたことがある某アーティストさんもいる。
私は『お久しぶりです』と頭を下げると某アーティストさんは「おいでおいで、一緒に呑もうよ」と手招いてくれた。恐縮ですわ。
周りは当たり前に知らない人ばかりで、テレビで見たことのある方もいるせいか緊張感が増して人見知りを発揮してしまう。
ここの飲み屋は皆様が想像するようなお洒落なバーとかでは無く…クラブとスナックを足して割ったような雰囲気。
辺りを一周見渡すと女性客は一見して何処のブランドか分かる服を着ている。
私と言えば夢展望で買ったワンピースを身に纏っているわけで…別に夢展望だって何だって自分が気に入って着ているものだから良いのだが、格差は目に見えてわかってしまう。
某アーティストの周辺には、お高そうな女性が群がっていてとても近づけないので乾杯を交わした後はカウンター席で高光さんと呑んでいた。
すると高光さんは、どこぞの社長に話しかけられている様子で私はカウンターに一人きりになっていまい…かなりの気まずさ。
んんんっ?あの子も一人なのかな?
ボックス席に黒髪の女の子が姿勢を正して遠くを見ていた。パッと見…モデルさんのような容姿を持ち合わせている。
このような場だからこそ、モデルさんがいる可能性は大いに考えられる。
だが、見るからにつまらなそうな表情を浮かべていた。
しばらく彼女を見ていたが誰と話す様子も伺えず…ずっと一点を見つめている。
こんなに周りはガヤガヤとしているのに、自分と同じくらいに彼女も場違いに思えて仕方ない。
痺れをきらしたのと、そんな彼女に変に興味を持ってしまい…
『初めまして』
気づけば、話しかけていた。
すると彼女は、パチくりとした大きな目を見開いて私を見た。
「えっと…あっ、初めまして…私に話しかけてくれてますか?」
声のトーンの低さからは自信のなさを感じる。
『はい。すいません。良ければ一緒に呑みませんか?』
「私なんかで良ければ…」
『良かったです…私こういうところに慣れていなくて』
「私もです」
お互いに連れがいることは分かったが、そのお連れさんはどちらに行ってしまったんだろうか。
『お連れさんは?』
「ここの従業員で…あの人です。私友達があのお姉さんしかいなくて、社会見学だってここに連れて来られて」
彼女は、カウンターに居るお姉さんを指差した。
社会見学でこのお店に連れて来られたなんて随分とハードルが高いな。
二言目で“友達がいない”と聞いて…闇が深そうにも思えた。
今一彼女の状況は判断が出来ないが少し話してみた雰囲気は悪くは無い。若干、コミュニケーション能力は欠けていそうだが。別に問題は無さそうだ。
それよりも、彼女が放つ異様なオーラ。これは一体何なんだろう?
その後、お互いに自己紹介を交わして分かったことは、彼女の名前は陽菜ちゃん。年齢は19歳の大学生で西麻布に在住らしい。モデルさんという予想は外れた。
そして私は彼女の特徴に一つ気づいた…陽菜ちゃんは、人の顔をジッと見る癖があるようだ。それも一瞬たりとも目を反らしたりしない。
それは何処か初対面である私の顔色を伺うかのようにも見える。
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