新しい目標


『はぁ~』


貯金通帳を見ながらため息が漏れる。

2つ掛け持ちして、結果。

前よりも生活は良くなったんだけどね…

思ったよりは、全然貯金が出来てないなぁ。


しかも再来月は車検もあるし…諭吉様が空を飛んでいく。


「またため息か?」


一樹は呆れながら、鋭いツッコミを入れてきた。


『ため息つきたくもなるよ。まっ!明るいことを考えないとやっていけないよね』

「んじゃ、気晴らしに結婚指輪でも見に行く?」

『結婚指輪!?』


思いがけぬ一樹の誘いに…聞き返すほど驚いた。


「高いのを買ってやれるかは分かんないけど」

『良い良い!今はお互いに貯金しよ?

これから何が起きるか分かんないんだから』

「そうだけど…同じものを二人で持ちたいじゃん」


何それ、ちょっと可愛い。


『気持ちだけで十分だから!ありがとうね』

「美咲ってそこまで欲がなかったっけ?」


欲?私と言う人間は、もっと貪欲だった。けど最近欲と言うものが消滅しかけてる。


近頃の私と言えば、仕事に家事、空いた時間はもっぱら小説を考えている。

某携帯小説投稿サイトではお陰さまで日間ランキング四位まで浮上することが出来て。


さすがに、その日は1日ニヤつきが止まらなかったことを覚えている。

小説で上位を目指せば目指すほどに勉強がしたくなった。色んな小説が読みたくなったし、読んだし。その度に悔しくなって新しいアイデアを考えてみたり…


今の時代は、どんな小説がウケるのかな?って。

キャバ時代はお客様が求める言葉を考え、それを口に出したりしていたお陰で、語彙力とコミュニケーション能力だけは少しばかり長けている自信がある。

とは言え、文章力には欠けているし、読者が何を求めて小説を読むのかは考えれば考えるほど分からなかった。


“ただ恋愛小説は、絶対にバットエンドでは終わらせたくない”これはモットー。


恋愛につまづいてしまってる人に、もう一度恋愛をしたいと思ってもらえるような小説を書きたくて仕方なかった。


小説を書くことが、今じゃ自分にとって生きる気力にもなっている。


結局のところキャバ嬢の経験なんてたかが知れているし、あの頃は本気で精一杯だったけども…今思えば、もっと社会を勉強をするべきだったと後悔もしている。


そして小説を書けば書くほどに、どんどんのめり込んでしまって…あれだけ美容やお洒落が好きだったはずなのに。


前よりもそこまで興味がなくなった。


“自分の小説を出版してもらいたい”それが今の小さな目標になっている。


あらあら、話がだいぶズレてしまっている…

とにかく人間は目標や夢を持つことで向上心を強く持てるし、人との関わりを大事にしたくなるものらしい。それはお金では買えない。


お金で買えるものなら、きっと今の貯金を全てはたいてでも買っている。


それが小説に生かせるなら最高じゃないか。意味合いは違えど相変わらず貪欲ではある。


けどその貪欲さが今まではお金と物だったのが、今は人生経験と人との繋がりに変わっていただけの話。


そして、初もっともっと色んなことを知りたいと人生で初めて思った。

目先の結婚指輪よりも今は、もっと自分を高めていきたいよ。


『指輪はもう少し後で良いかな…』



【小説を書いてることは誰にも言えなかった。

自分の夢が、さだまっていなかったから…ただただガムシャラに新しい小説のストーリーばかりを考えていた。ただただ突っ走ってるだけだった】

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