お昼にお仕事をして変わったこと。
『佐藤美咲です。よろしくお願いします』
「美咲ちゃんね、お母さんからお話聞いていたよ!才川裕子です。これから、よろしくね」
コンビニ初日、挨拶を交わすと裕子さんは愛想よく笑った。
想定年齢50歳前後かな?
自分の母親のことをどうやら知っているらしい。母親は、この町では結構顔が広いようだ。とりあえず私は得意の笑顔を振り撒く。
まず最初に朝礼と言うものを行う。
…こういうのは初めて。
「今日は初日だから研修用のDVD見ようか」
オーナーは、研修用DVDをセットし再生ボタンを押した。
二時間半程だろうか?それを座って見てるだけ。
そこからは、レジに立った。
立ったと言っても未経験だから最初は裕子さんの横で商品の袋詰めの作業。
それで初日は終了。
それから、数日…品だしと揚げ物作り、悪戦苦闘したのは、やはりレジ。
コンビニの業務は意外に多く。覚えることの多さにぶっちゃけ引いた…
この仕事って、こんな大変なの!?
つい最近までバカにしていたことを本当に申し訳なく思う。
ただでさえ出勤日数が少ないのだから、いち早く覚えなきゃ…と気持ちを震い立たせて仕事に励んだ。
「美咲ちゃんは仕事覚えが早いっけぇ、本当に助かってだよ」
裕子さんは得意の訛りを加えて、褒めてくれたのは7日目の出勤の仕事終わりだった。
『いえいえ、まだまだ覚えることがたくさんあると思うので今後もご指導よろしくお願いします』と、笑った。
こんなことを自分で言うと自意識過剰かもしれないが私は仕事に真面目な方だ。時給が安いとは言え手抜きをするということは、性格上許せない。
けど裕子さんのお褒めの言葉は素直に嬉しい。
『今日ね、裕子さんに褒められたんだ~仕事覚えが早いってさ!』
「へぇ~さすがじゃん」
ご飯を食べながら、今日の出来事を一樹に話す。
『なんか、嬉しかったなぁ』
「美咲って、水商売の頃からそうだけど仕事熱心な方だよな」
『そう?全然でしょ』
「いや、俺と出会ってなかったら美咲は起業してたかもよ?」
一樹は至って真面目な表情でそんなことを口に出すものだから、笑いが込み上げた。
『ないない!あたしが起業なんて』
「そうかなぁ。今のところ美咲は仕事が出来るイメージだわ。
っか美咲が男だったら俺よりは間違いなく出来るタイプだったと思うしね」
『大袈裟だって!』
私の何処を見て、そんな風に言ってるのかは理解出来ないが…
毒舌な一樹が私を評価してくれたことで、幸せがちょっぴり込み上げる。
あぁ…そういえば今さらだけど、こんな風に一樹と毎晩一緒に夕飯を食べていることも“幸せ”なんだよね。
一樹とは付き合いが長くてあまり考えたこともなかったけど…水商売の頃、決まって夜は同伴と仕事の繰り返しで一緒に夕飯を食べるなんて月に数回だったんだもの。
夜職から昼職にシフトチェンジをして、失ったものは多いけど…
夜はこうして一樹と一緒にバラエティ番組を見ながら食卓を囲む。
そして11時を過ぎれば寝床につく。これって、当たり前の日常のようで当たり前じゃないよね。
朝の9時くらいまで毎日呑んでいた頃、千鳥足でフラフラと街中を歩き…すれ違う出勤前のOLを見て
“今から出勤とかダルそう。私には絶対無理~”
なんて思っていたけどさ。
考えてみたら、私は今早起きをして一樹に持たせるお弁当を作り見送ってから今度は自分の出勤の準備をして職場に向かって仕事をしてる。
一年前なら考えられなかったと思う…けど、今それが出来ている。
シンドイことは多いけど、これって少しは成長出来てる証拠なのかもしれない。
そう言えば前は月1で風邪引いたり貧血で倒れかけていたのに、しばらく風邪も引いていないし貧血も無い。
【水商売を辞めて気づくこと気づかされること。それは悪いこともあるし、良いこともある。けど…私はお昼のお仕事に切り替えてから、体がすごく元気になった。
自分が求めていなくても、体は昼に働き夜に寝ることを求めていたんだね】
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