八つ当たり
翌日カメラスタジオの方に掛け持ちの件を話すとマネージャーから「ごめんね。人件費削減であまりシフト入れられなくなったから…掛け持ちしなきゃいけんくなったんだよね」と言われた。
そうか…こっちはこっちで大変だったんだ。それならなお更、掛け持ちを選んで良かったのかも。
シフトを再度変更してもらい…しばらくは土日だけの出勤で7時間勤務に切り替えてもらうこととなり、コンビニの方にも話を通して月曜から水曜日にシフトを入れてもらうことで話がまとまった。
そうなるといくらくらいだ…?それでも10万程だろう。まぁ7万よりは全然ましか。
そう言い聞かせていないとやっていられないくらい。
…~♪~…
香織ちゃんからの連絡だ。あの飲み会以降、ちょいちょい連絡を取り合ってる。
『はいはーい』
「昨日、お店を飛びました」
飛ぶとは業界用語の一つで、連絡もなしに突然お店を辞めることだ。
私は香織ちゃんに損をさせたくなくて、日払いを出来る限りもらって給料日以降すぐに飛ぶように言っていた。
『店から連絡来てる?』
「来てますけど無視してます。なんか店長から、家に押しかけるぞ的な連絡来たんですよ」
『あぁ~そういうのただの脅しだから大丈夫だよ。いざとなったら、警察呼びますよ?って言えば奴らは引くって』
「ですよね!」
くだらないお店に限って、この手の脅しをかけてくるものだ。実際、そんなことをすればお店ごと潰される可能性だってあるのだから…お店側は相当なことが無ければ、キャストの家を押しかけることなどはしない。損をするのはお店側だもの。
『とりあえずRussoの方の店長には話してあるから、LINEしてみてね』
「ありがとうございます」
その電話が終わった後…一瞬だけ、キャバを出来る環境に居る香織ちゃんが心底羨ましいと思った。
私だって、M市に戻ってキャバ嬢に戻れるなら今すぐにでもそうしたいんだもの。
人を羨んでも仕方ないか…自分が今置かれた環境で出来る限りのことをやるしかない。
やめやめ、次は何のライブに行くか考えよう。
目先の目標がないと頑張る気力が起きそうにもないわ。
「今の香織ちゃんから?」
横でお酒を呑みながら問う一樹。
『あぁ、なんかお店辞めれたみたい』
「へぇ~それでRussoに移籍するって?」
『うん。そんな話だよ』
「龍弥にバレたら、どうするんだろうな」
『そしたら、あたしがフォローするよ』
水商売をすることを選んでジュエルでバイトを始めたのは香織ちゃんだ。
けどRussoを紹介したのは私。だから、そこに少なからずの責任が生じることは分かっている。
「龍弥可哀想だな。実の姉と彼女に嘘つかれてたって知ったら相当悲しむぞ」
『それは無責任でしょ?養えない男が彼女のやってる仕事をとやかく言う権利なんてないし』
その言葉を放ってしまった瞬間に、不穏な空気が流れた。
「それって、俺に向けて言ってる?」
『そんなつもりないよ』
「当て付けっぽく聞こえたから」
本当にそんなつもりは無いんだ。結局こういう生き方を選んだのは自分。
『そう聞こえたってことは少なからず自分に反省点があるからじゃないの?』
こんなのただの八つ当たりだ。私は今言った言葉を撤回したくて、すぐに『ごめん。』と呟いたが、一樹は口を閉ざしたままだった。
テレビの音がやけに響く…
「…苦労させたくて、こっちに帰ってきてほしいって言ったわけじゃないんだけどな」
その言葉は、とても悲しく聞こえた。
『んじゃ考えが甘かったんじゃない?』
「甘かった?」
『あたしは帰ってくる前から、K町での暮らしは絶対にキツイと思ってたし
いずれにしてもお金に困る日がくると思ってたよ』
「いや、実際そこまで困ってないだろ?何なら普通に同棲してるカップルよりは良い暮らししてる方だぞ?」
『今はね。あたしも仕事出来るし収入があるから
けどお互いに貯金をすり減らしてることに変わりはないじゃん』
「何が言いたいわけ?」
一樹は眉を潜めた。表情からは怒りが伝わってくる。
もうこれ以上はやめよう。こんなの八つ当たりでしかない。私も一樹も仕事をしているんだ。それで良いじゃない。
『もう良い。この話は終わりにしよ』
どうも納得していない表情を浮かべているが、お金の喧嘩ほど情けないものはない。
本当は、本当は、同棲する前はちょっと一樹に期待していたのかもしれない。
もしかしたら小遣い稼ぎのパートで生活が出来るとか。
予想外に同棲はお金がかかるから、結局掛け持ちになってしまったけど…
【そうか。本当のお金持ちと結婚でもしない限りパートでのんびり暮らすなんて
今のご時世出来るわけがないんだ】
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