お金が欲しい


「コンビニで働くのは不服か?」

『いや…そうじゃないけど。

やっぱりプライドって捨てきれないじゃん』


夕飯を食べながら、一樹にシフトが減ったこととコンビニのことを話した。


「本当は俺が全部やってやれたら良いんだろうけどごめんな」

『謝らないでよ。別に責めてるつもりは無いし…あたしの金銭感覚が水商売時代のまま、抜け切れていないのが一番の原因なんだし』


一樹は悪くない。悪くないんだけど…こういう時は正直責めたくもなる。私があのまま水商売を続けていれば、あのまま良い暮らしが出来たんじゃないかって。

言葉ではフォローを入れたつもりだけど、態度や表情は隠しきれてなかったのか一樹は申し訳なさそうだ。


「けどこれからもライブとかは行くんだろ?その分の小遣い稼ぎだと思えば前向きにコンビニのこと考えられない?」


“自分の分は自分でどうにかしろ”

そう言われたような気がして、変に腹が立つ。

別に、一樹がどうにかしてくれるなんてこっちも思っていないし、今までだって自分の分のお金は自分でどうにかしてきた。


けど水商売をやっていた過去と昼職の現在では収入の差がありすぎるんだよ。

それを少しでも一樹には分かってもらいたいものだ。


『まぁ…ワガママ言ってられないしね』


「なんか怒ってる?」

『別に怒ってないけど』


怒ってないは嘘かもしれない。ふつふつとお腹の中でやりきれない怒りは湧いている。

ただそれを一樹にぶつけたところでお金が空から降ってくるわけでもないし…


この際、話を聞きに行くだけでもコンビニに行ってみようか。スキマ時間で働きたいということも話してみよう。


【結局は、同棲したって赤の他人】



展開は早いもので、2日後には例のコンビニを訪れていた。


「お母さんから話を聞いていたよ。週に2日くらい出れるんだよね?」

『はい。今違う仕事もしているので』

オーナーさんは、私もなんとなく顔見知りだったからか特に緊張することもなく淡々と話すことが出来た。


「そっかそっか。多くて週に3日は厳しいかな?」

『3日であれば出れます』


…こんなところでお人よしが出てしまう。

断れない性格はいつまで経っても治せないもの。けど現実的に週3日なら出れなくも無い。


「すごく助かるよ。今、朝の9時から1時までの時間帯に人が不足していて、その時間はどう?」

朝の9時!?逆算すれば…起床するのは、7時半くらいか…なかなか早いな。

けど1時までなら帰ってから昼寝出来るし良いかも。


『その時間帯でお願いします。ただレジは未経験なのですが…』

「あぁそれなら大丈夫。3日あれば覚えられるよ!」

『はぁ…っ』

「レジなんてそんな難しいものじゃないし」


えっ、そう?公共料金とかインターネット支払いとかチケットの発行とか、あぁいうのも覚えるんだよね?難しそうだな。


「最初はどんな仕事も覚えるのは大変なものだよ」


あまりに私が心配そうな表情を浮かべていたからか、オーナーさんは笑顔でそう言った。


『そうですね』

「とりあえず、もう一つ働いてるんだよね?そっちの職場ともちゃんと話したら、また教えて」

『分かりました』


たしかに…まだ、カメラスタジオの方には話をしていないしね。明日出勤した時にでも話そう。


【私がコンビニで働くなんて、ずいぶんと落ちたものだ。

この時はぶっちゃけそう思ったよ…これでも半年前までNo1キャバ嬢だよ?

なんて、私はまだ高飛車なままで。


けどやっぱり世の中お金なんだよ。そして自分を守れるのも自分しか居ないんだ。】

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