これが差です。

現場に出るようになってかれこれ半月だろうか?5月半ばのこと。


『こちらの黄色のお衣装などはいかがでしょうか?

明るく元気なお子様なので色合いなどもとてもお似合いだと思いますが』

「うーん…そうね。黄色は今まで着せたことが無かったから良いわね!

これも着るわ」


そう言って子供に着せるドレスを手にとるお母さん。

よし!これで一着分の営業が出来た。今の仕事は特にノルマとか売上はないし、自分がこうして営業をしたところで給料が変わるわけではない。

ただ、キャバ時代があったからこそ営業をするのは苦でもなんでもなかった。


「佐藤さん、よく頑張ってるね!」

仕事終わりにマネージャーからお褒めの言葉を頂いた。純粋に嬉しい。


『ありがとうございます』

「お客様からも、対応が良いって好評よ」

『本当ですか?ありがとうございます』

少しばかり話を盛ってるかもしれないけど、それでも昼職で評価をされたことで自分の居場所を見つけだせていると思った。


「あっ、これ先月の給料明細ね」

そう言って青色の紙を渡された。


『ありがとうございます』

それを受け取って、マネージャーに軽く頭を下げた。

実際、期待はしてない。先月は15日ほどしか出勤もしてないし…ただこっちも生活があるからお金にはシビアだ。


お店を出てから、自分の車に向かうと口開き式の給料明細をゆっくりと開いた。


真っ先に見たのは…

“総支給額 8万8000円”


まぢか!こんなもんなのか…5時間15日出勤にプラス交通費でこんなもん!?

せめて10万はもらえると思ってたんだけど…。


『はぁーっ…こんなんじゃカメレオのライブ行けないじゃん…』

それは心から出た本音。

同棲とは言え、一樹はずっと家に居るわけではないし…金銭面を口出す勇気も無い。

だから帰ってきてかも貯金を削り削り生活してきたけど。


これは、ちょっとマズイな。


頭では分かっていたよ。

水商売のようにはいかないことくらいは分かってたけどさ

いざ給料明細で現実を突きつけられると中々キツイものがある。


どうしよう…ね。

今までの生活レベルから下げたつもりだったんだ。

ネイルやエステだって、あまり行かなくなった。ネットショップもやめたし、タバコの量も減らしたし、コンビニで無駄な買い物もやめたはずなのに。


これから、ちゃんと生活していけるのかな?今以上に生活レベルを落とすとしたら、何を我慢したら良いんだろうね。


もう一つバイトかなんかを増やさなきゃ…けど、田舎で飲み屋のバイトなんて、今さら出来ない。それこそ、今までの給料と比較してその低さに嫌気がさして辞めるに決まってる。


一樹に相談をしよう。


【昼職になって一番驚いたこと…労働時間、労働内容に給料が見合ってない

こんなにこんなに頑張ったのに給料は雀の涙ほどなんだ。

けどこれが当たり前で、今までが以上だったんだ。そう今までと比べてはいけないんだ】


自分で自分に“比べることは間違い”そう何度も何度も言い聞かして、

心に出来た小さな闇をかき消そうとしたんだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る