再び田舎へ…
いよいよ…この日が訪れた。
午前中に荷物の移動を業者にお願いし、大家さんに立ち会ってもらって約4年住んだマンションの一室にお別れを告げた。
「もうここに来ることもないんだな」
『うん…ちょっと寂しいね』
空っぽになった部屋を見渡す一樹、表には出さないけど実際は複雑な心境の自分。
「新しい家で思い出たくさん作ろうな」
『うん』
「さて、行くか」
『そうだね』
私の胸中を空気感で察したのか、明るい声のトーンで話しかける一樹に右手を引かれて玄関のドアをゆっくりと閉じた。
思えば、この町に来て最初に住んだアパートは駅からも街からも離れている不便なボロアパートだったっけ。キャバ嬢での地位や収入が上がって最終的には、駅からも街中からも徒歩5分。そこそこ良いマンションに住むことが出来た。
田舎育ちの私にとっての、ちょっぴり都会であるこの街での生活はすごく刺激的で幸せなものだったと胸を張って言えるよ。
一樹の運転するエクストレイルは、街中を潜り抜け気づけば山道に差し掛かっていた。それを窓越しに見ていると一樹は言葉を放った。
「未練はあるか?」
『未練は…少しはあるかな。
けどこれからの生活が楽しみだから』
一樹の質問に少しばかり本音がポロリと出てしまう。けど、それ以上はグッと堪える。すると、私の手の甲に一樹の掌が重なり「俺も同じ」と呟いた。
車で二時間、あっという間に山と海しかないK町へ辿りつく…
あぁ…来ちゃった。私がもっとも嫌いとする地元。
本当、相変わらず何もないなぁ。
…なんて、そんなのずっと分かっていたことなのにね。
そこから数日で引越しの片付けも落ち着き、住民票をM市からK町に移して再び私はK町の住民に戻った。
ここまで来たら、本当に戻ることが出来ないんだと改めて実感する。
「今日の夕飯は何?」
『なんでしょうね~こっちのことは気にしなくて良いから、ビールでも呑みながら待っててよ』
「はーい」
私がキッチンに立ち、包丁を持ってることが不安なのか一樹は何度も心配してキッチンを訪れる。そんなに心配される程、私は料理が出来ないわけでもないのにね。
っか、この爪じゃ料理しづらいな…長いスカルプネイルが邪魔をして上手く調理が出来ない。
んんんっ?っか、これからネイルはどうすれば良いのかな?
この辺にネイルサロンなんてあったっけ?
そろそろオフもしたいからサロンには行かなきゃいけないんだけど。
得意料理のハンバーグを焼きながら、片手でスマホを操作し近辺でネイルサロンを探してはみると、車で40分かかる隣町に一件あることが分かった。
今までだったら…歩きで5分だったんだけどなぁ。
【愛する彼と共に生きていきたいと思ったけど…
いざ、田舎に引越してそのギャップは思った以上に苦しいものだと再確認した】
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