高卒の現実


「仕事探しは進んでるの?」

『全然だよ。っか時給安すぎて先々が不安なんだけど…』


ここは知り合いが経営する飲み屋のカウンター、右隣にはK町からわざわざ私に会いに来てくれた聡美がいる。

マスターの智君は先ほどから私達の話にちょいちょいコメントをしながらお酒を作っている。


「一応狙ってるところは有るの?」

『事務系かな~』

「美咲ちゃんが事務!?出来るの!?」


智君は目を丸くして私を見ていた。


『失礼だな~こう見えてもキャバ嬢やる前は事務やってたんだから』

「まぢで?相当意外!」


「みーちゃん何気に簿記とか持ってるよね?」

『一応ね、今のところ持ち腐れ状態だけど』

「んで?何処か面接受けるの?」

『うーん…気になるところはあるんだけど時給800円だし、ちょっと考え中かな?』


あたしはタバコを咥え、ライターで火をつけて一呼吸…


「そこそこ時給良くない?手に職があるわけでもないし、最終学歴が高卒だし?

それが普通くらいの時給でしょ?ねぇ智君はどう思う?」

「普通じゃね?」


…えっ?この二人、まぢで言ってるの?

今度はあたしが目を丸くせずには居られなかった。


『嘘でしょ?昼職でも時給1000円くらいが当たり前じゃないの!?』


「みーちゃん、考えてみてよ。あんな田舎でそんな企業があると思う?

あったらウチだってそこに転職するよ」


半ば呆れ気味に諭す聡美。


「時給の話は置いといて、履歴書どうすんだよ?キャバやってた頃のことは書けねぇし…空白のところ突かれたら終わりだぞ?」

『うわっ…!!そうだよね』


私は何てバカなんだろうか。

そんなこと考えてもいなかった…今さらだけど、本気でどうしよう?


「もうさ~K町でスナックでもやっちゃえば?」

『あたしが経営者!?無理無理!!』


聡美の提案…実は、あたしも考えたことがあったが。初期費用とか、そんなお金無いし。ましてやK町の人口は2000人も満たないのに、そんなところでお店をやっても上手くいくわけがない。


「地味に働くしかないって、ウチらみたいな高卒は特にね」



【どうやら水商売は履歴書に書けないらしい

どうやら高卒で時給800円は普通らしい】


さて、どうする私。その後も昼職の現実を聞かされ、心にわき上がる不安はより一層強くなった。

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