「次は、引越しの時に帰ってくるから」

そう言って、一樹は再び船に戻ってしまった。ここからはまた約一ヶ月会えなくなる。けど今回はあたしの引越しに合わせて休みの申請を出してくれたらしくて、3月の中ごろには戻ってくる。

一樹を見送った道を再び戻るときは、一人だった。あたし、今本当に独りぼっちだ…。

Russoを辞めたあの日は、一樹が居たから本当の意味で寂しさは感じてなかった

けどこうして“独り”になって、その言葉の意味を嫌ってくらいに思い知った。

…～♪～…

あっ、LINEだ。

スマホをスワイプしてLINEを開くと、色恋で引っ張り続けたお客様の１人であるトシちゃんからだった。

<ヒカルちゃん！ゆっくり休めてる？体も休めて欲しいけど俺とのデートも忘れないでね>

まだそんなこと言ってるの？バカな男。

お店を辞めた時点でもう今までのお客様には用無しだと言うのに、まだ自分が色恋をかけられていたことに気づいていないんだろうか？

トシちゃんをブロック削除。こうしてお客様を少しずつ切っていった。

もう、このオッサンどもと連絡をとらなくて済むだなんて、最高だわ

心の中で湧き上がる開放感。

ニートを満喫中、一人カラオケに一人焼肉、好きなDVDを好きな時間に好きなだけ見て、好きな時間に好きなだけ寝ると言う幸福感。

ただ、同じ店でお仕事をしていたキャストのタイムラインが更新されるたびに…

“今日は誰々と呑みました～”と言うのを見ると、心がチクリと痛んだ。

一瞬でもあのキラキラとした時間に戻りたいと思ったのは正直な気持ちだったな。

【私は、もうここにはいない人間？】

前を向かなきゃね。ちゃんと将来設計をしなきゃね。

そう思った頃、ようやく仕事探しを始める気になったんだ。“K市　事務”で検索をかけると…

“一般事務　時給800円　9時～17時”

嘘！？安くない？この求人作った人は何を考えてるの？

あたしは、スマホを二度見せずにはいられなかったが…他の求人を見て時給800円は田舎町ではましな方だったと言う事を理解した。

800円×7時間＝5600円！？生活の足しにもならないじゃん。

今までだったら、1時間で稼げた金額だし…。

水商売を辞めて初めて直面する壁？

【昼職の時給は思った以上に安い！】

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