夜職引退までの話



「ヒカル~!本当に3年間お疲れ様!」


店長、オーナー、ボーイさんは、約3年間このお店のNo.1を張っていた私“ヒカル”を、盛大に見送ってくれた。


『ありがとうございます』

「困ったことがあったら、いつでも戻ってきて!」


オーナーは笑顔でそう言ってくれた。それは何処か満更でもない表情だった。

オーナーの言葉は心底嬉しいと思った。


私は夜の仕事を辞めたくて辞めたわけではないんだもの。“水商売”は、自分的には結構向いていたんじゃないかな?って思うの。

高卒で地元のK町から車で二時間程の、M市に就職し独り暮らしが始まって。

地方では有るけど、田舎育ちの私にとってM市は都会に見えていて、全てが新鮮でキラキラしていて…


けど実際は、高卒で一般事務の仕事の給料は手取り15万程だった。理想と現実のギャップ。


ーなんだ、これ?何処にもお金が足りない!生活できない!このままじゃ生活難になってしまう!!ー


すぐさまスマホで“M市 高時給”とグーグル先生で検索をかけて検索結果に出てきたのは“キャバクラ”と“デリヘル”だったっけな。

デリヘルは…ちょっと自信がなかったのと性病が怖かったので、選択肢からは外れた。


そして、あっけなく飛び込んだ夜の世界。当時の貯金残高は約5万弱だった。7年で働いたお店は、二件。

一件目はM市で、そこそこ有名なキャバクラでそれはそれは人間関係がギクシャクとしたものだった。結果、そこでも短期ながらNo1になった。

どうして辞めたか?って、オーナーがお店のお金を持ち逃げし給料未払いのままお店が閉店したからだ。


二件目は、今日までお世話になった“Club Russo”一つ前に働いていたお店よりは小さかったが、高級クラブだけあってそこそこ質の良いお店だった。入店1年もしない内にNo1になった私は…仕事でどんなお客様に当たろうが嫌なことがあろうが、不思議とキツイと思わなかった。


“お金があるから”

何不自由ない生活に満足していたんだ。



「結婚を前提に同棲をしてほしい」


地元のK町に住む6年前からの付き合いである彼氏の一樹にプロポーズされたのは、今から半年前のことだったな。もちろん悩んだし、たくさん考えた。

“25歳”と言う年齢が、気持ちを焦らせたんだ。


だから私は、またあの田舎に戻ることにした。No1の“ヒカル”を捨てて1から人生をやり直す覚悟を決めたんだ。

元からポジティブ思考だったせいか、不思議と恐れは無かった。


ただ心に誓ったことは一つ。

《簡単には夜の世界には戻らない》


1月31日、私はClub Russoを卒業し…ただの“佐藤美咲”に戻った。

当時の貯金残高、210万。


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