あれから三年と一ヶ月が経った。

 僕はとある東京の企業に就職し、その近くのアパートに住んでいた。就職してから二年が経ち、ようやく仕事もある程度こなせるようになってきたところだ。まだまだ未熟ではあるが、これからも頑張っていかなければならない。

「疲れたー」

 どうしようか。最近また弁当率が高くなっているし、そろそろ自炊をした方がいい気もする。それに部屋もかなり散らかってきている。

「あーあ、しっかり者の彼女がいればなー」

 そんなことを棒読み気味につぶやきながらアパートの階段を上る。階段で女性とすれ違う。「こんばんは」「こんばんはー」決めた。今日はレトルトカレーにしよう。少なくとも弁当ではない。自炊でもないけど。

「せん……せい?」

 後ろから信じられないものを見たような声が聞こえる。

 ん? 『先生』?

 階段の登り途中で僕は振り向く。女性もまた振り向いてこちらを凝視していた。

 恐らく身長は僕よりも高いだろう。大学生だろうか、その顔はとても整っていて、前よりも綺麗だった。でも、目元はあのときと変わらない。

「先生……ですよね? あたしのこと、覚えてますか」

 その声は、絞り出すようにゆっくりと発せられ、少し震えていた。

 もちろん。覚えてるよ。

 忘れるわけがない。

 君と話した時間は短かったけど、それでも僕の大切な思い出だから。

 僕は君に恋をしていたから。

 だから、覚えているよ。

「久しぶり、あゆみちゃん」

 あの日終わった僕の恋は、また、動き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る