勝者と敗者



「お父さん。」


千雪がいつになく真剣な口調で話し始めた。


「よくわからない男の子と娘が暮らすって聞いて、動揺する気持ちも、心配する気持ちも分かるし、お父さんの言ってることも分かる。

 けどね、いまあるわたしと夜空君の関係は、わたしが心から望んだもので、自分の命ぐらい大事なものなの。」

「……たかが高校生の付き合いでなにを言うか。」

「うん。確かにわたしも夜空君もまだまだ子供で、知らないことばっかりだよ。今だって、夜空君とお父さんが言い合ってるのに何もできなかった。

 でもね、一人で困ってた時に見捨てないでくれたのは夜空君だったの。優しくしてくれたのは夜空君だったの。美味しい料理を作ってくれたのは夜空君だったの。好きになったのは夜空君だったの。

 お願い。わたし・・・を信じて。」


そう、はっきりと告げる千雪は、いつもの雰囲気とは違ってて。

でも、間違いなく僕の彼女で、大好きな人だった。

だからこそ、心からの叫びだってわかったし、それが僕の胸を熱くする。

恋も、愛も、悪いもんじゃないね。




そのまま、誰も何も言わない時間が続く。




「雄造くん。」


そう、春子さんの声が静まり返ったリビングによく響く。

千雪のお父さんの名前、雄造って言うんだ……


「私たちが付き合い始めてすぐに高校生の雄造くんが私の親に会って、何て言ったか覚えてる?

『絶対に幸せにします』って言ったの。」

「うっ。」

「それで、私のお父さんは信じてくれたでしょ?なんでそんなに信じてあげないの?

 雄造君もわかってるんでしょ?夜空君があの頃の雄造君よりちゃんと色々考えたうえで言ってるって。千雪のことを考えてるってわかってるんでしょ?」


……なんか春子さんからすごい評価をいただいている気がする。

って言うか、お母さんってどこの家でも強い存在なんだな……


「夜空君もごめんなさいね。うちの夫が変なこと言って。」

「いえ、そんなことは……」

「待て!俺は認めないぞ!」

「あら。前に『俺は千雪の言うことは全部信じる!男に二言はない!』って叫んだのは誰だったかしら?千雪の事信じてあげなくていいの?」


うん。お母さんは強い……

こうして、雄造さんは奥さんにとどめを刺されて、泣く泣く許可をくれることになった。

……それは良いんだけど、向こうから僕への印象は最悪だろうなぁ……








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