初めて聞いた声2
頬を触られる感覚で、意識が現実世界に引き戻される。
慌てて周りを見ると、もう今日の授業は終わったのかみんなが鞄を持っていたり、鞄に荷物を入れていたり……
そして、わたしの頬を抓った犯人の恵果ちゃんは前の席の椅子を百八十度回して、わたしと向かい合うように座っていた。
「ねえ、千雪。今日もおかしいよ?」
「いや、『今日も』って何!?わたしおかしくないよ!?」
恵果ちゃんに心当たりのないことを言われて思わず声が大きくなってしまう。
「だってさ、昨日告白を断った相手と次の日には普通に会話しようとしたり、明らかに冗談だってわかることを信じたり、密室に連れ込まれそうになっても焦らなかったり……そのたびに私たちがフォローしてるんだよ?それで変じゃないって言える?」
「……言えません。」
日頃から迷惑をかけまくっていたことを改めて実感させられるのは結構心にダメージが入る……
本当に迷惑かけまくっててごめんなさい……
「で、なんで今日はおかしいの?」
「ごめん。何のことかわからない。」
「今日の千雪は、先生から当てられてるのに無視したり、昼ご飯食べるときに箸の持つ方とものを掴む方を逆にしてたり、体育の時間何もないところで二回もこけたし……」
「え!?体育の時間転んだこと以外は今初めて知ったよ!!」
放課後まで気が付かなかったなんて、わたし認知症の疑いがあるのでは?
まあ、認知症じゃないのはわかってるんだけどね……
理由は、たぶん朝に聞いた……
「あの子かなぁ……」
「え?何?恋でもした?」
「してないよ!」
話したこともない相手に恋なんかしてるわけないじゃん!!
「ただ、朝に聞いた声が忘れられなくて……」
「声?」
「うん。声。男の子だったんだけど、とっても安心する声で……」
「もしかして、朝にあたしが秋川ちゃんと尾行したあの子?」
「「いつの間に!!?」」
急に話に割り込んできた春香ちゃんはわたしの机にお尻を乗せると、体を捻って話をする体制をとった。
「そんなことはどうでもいいじゃん。で、あたしの推測合ってる?」
「う、うん。」
「そっかぁ、やっぱりそうだったんだぁ~」
「何々?何してきたの?」
その話に興味を持った恵果ちゃんが、春香ちゃんにそう尋ねる。
そこに好奇心持たなくてもいいんじゃないかな!?
「朝、前を梅田君が歩いてたんだけど、その横に知らない男の子がいたんだよね。で、気になったから秋川ちゃんと二人で近づいてみたら、すっごいイケメンだったって話。」
「へぇ、春香がイケメンだって言うくらいだから相当イケメンなんだね。そりゃあ千雪も惚れるわな。」
「だから惚れてないって!声がなんか……ぐっと来ただけで。」
声がよかっただけだから、これは断じて恋などではない!はず。
「ふーん。そう言えば、そのイケメンの情報入手してきたんだよね。聞く?」
「「聞く!」」
何故か恵果ちゃんと声が被る。
って言うか、反射的に情報を求めてしまった自分が恥ずかしい……
「りょーかい。えっと、名前は深星夜空。クラスは1の3で、梅田君との関係は不明だけど、出身の中学が一緒で、二人とも生徒会に入ってたらしい。既に大勢の女子が彼の情報を求めて話しかけてるんだけど、いつの間にか逆に質問をされてて情報を聞き出せないんだって。」
「謎のイケメン高校生……いいね!」
「恵果ちゃん。それはよくわからない。」
「何で!!?」
恵果ちゃんってよくわからない価値観を持っていると思うんだよね。
いつだったか、「〇△君は絶対受けだわ~」とか言ってたし。
「何でよ!!謎の美男子とか定番すぎるでしょ!!まさに二次元!!」
「いや、その子は三次元なんじゃないかなぁ?」
「そんなことは良いの!!」
「その話題は危険だから、二人とも帰ろう。」
春香ちゃん!ナイス!
この話は永遠に平行線をたどりそうだと思ってたところなんだよ!!
「じゃ、帰ろっか。」
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