夜空君、神様っていないよね……



「で、でも……」

「あ、もしかしてこの家が嫌?」

「ち、違うからねっ!」


むしろ居心地が良すぎて……とはいえない。


「なんて言うんだろ……ここに居たら、迷惑……かなぁって。」

「……ごめん、その結論に至った過程が理解できない。僕が『ここにいて』って言うんだからいいでしょ?」

「う……そうなんだけど……」


やばいやばいやばい。

このままじゃあ夜空君に押し切られて結局この家にお世話になることに……




……あれ?そういえば、どうしてこの家から出ようとしたんだろ……


「ね?じゃあここに居ればいいじゃん。というか、家事出来ないからってここに来たのに、どこに行くつもりだったの?」

「……考えてなかった……」

「やっぱり。千雪って、控えめに言ってアホだよね。」


ちょ!酷くない!?

控えめに言ってアホって!これでも結構頭いい高校入ってるんだけど!


「どこがっ!」

「行動は早いくせに後先考えないし、詰めが甘いところがあるし、あとは……」

「夜空君、もういいよ。わたしの負けで……」


これ以上言われたらわたしの心がボキボキに折れちゃう……


「わかったよ……もう少しここでお世話になるね。」

「うん。これからもよろしく。まあ、一生でもいいんだけどね。」

「んん!?」


え?ちょっと今、何ておっしゃいましたか?

いっしょ、一章?一升?

え?い、い、一生?


「なーんてね。冗談だよ。」

「で、ですよねー。」


何でだろう。冗談でよかったと思う自分と良くないと思う自分がいる……


「じゃあ、荷物上に戻そうか。千雪も手伝ってね。」

「うん、わかった!」

「で、そのあと千雪の家に行くから。」

「え?どうして?」

「だって、明後日から学校だよ?」

「…………ほえ?」

「ほえ?じゃなくて。本当だからね?もう八月終わるからね?」


う、嘘だよね?

そう思いながらスマホで今日の日付を見るけど……


……神様っていないんだと思う。



「やばい……」

「え!?まさか、千雪宿題が終わって……」

「夜空君と全然遊んでない……」

「うん。僕たちは帰宅部だから何の問題もないよね☆」


そうなんだけど!そうなんだけど!

夏休みだからこそっていうのもあるじゃん!?


「ああ~~!夏休みをやり直したい!」

「……今相当無理なこと言ってるって気が付いてる?」


そりゃあ気が付いていますとも。

認めたくないんだよ!


「はぁ……夜空君と同じクラスだったらいいのに……」

「いや、学年違うし。」

「はっ!わたしが留年すれば……」

「バカなこと言ってないで運ぶよ……って、重っ!!」


夜空君はそう言いながらもひょいっと荷物を持つ……けど、すぐに倒れる。


「夜空君っ!?」

「…………ずっと…………」

「ずっと?」


夜空君は上半身を起こしながら、自分の腕を見つめている。


「……ずっと引きこもってたせいで、筋力落ちてる……」

「あ……でも、見た感じ太ってはいないと思うよ?」


わたしがそう言うと、夜空君は自分の腕をつまむ。


「あ、柔らかくない。これ、筋肉と一緒に脂肪も落ちてる。というか、体脂肪率が変わらない状態で体重だけが落ちてる気がする……」

「夜空君、明日からはちゃんと食べて少しでもいいから動こうね?」


よく見るとただでさえ細い腕がさらに細いように……

うん。このままだと死んじゃいそう。




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