先輩、まるで……




おかしい。


おかしい。


なんだろう?


何で?


千雪、何で?


何でキスをしたんだ?



地下室のソファーに座って、僕は頭の中でそう繰り返す。

そんな中、ふと思いついたことがあった。


僕は震える手でパソコンの電源を入れる。

暫くして立ち上がったパソコンを操作して、前に作っていた曲のファイルを開く。


「消してなかった……」


ゆっくりとマウスを動かして、『新曲(予定)』とある場所をクリックし、再生をする。





とある出来事で傷を負った少年が、悲しいことから目を背ける。

でも、その少年の友人である少女はいつまでも少年に話しかける。

やがて少年は心を開き、少女に恋をする。

そんな歌だった。






「……え?」



聞き終わった僕は愕然とした。

その歌は、僕の歌であって僕の歌じゃない。

これは、僕が作った僕の為の歌だ。直感的にそう思った。


そして、この曲を創ったのは……


「千雪に、作曲を見せていた時……」


僕はぐしゃぐしゃと頭を掻く。

どうしてこのタイミングでこれを聞いてしまったのだろう。


「これじゃあまるで……」


僕がその少年みたいじゃないか。








僕が『星空深夜』として歌を歌い始めたのは、ある出来事がきっかけ。


星空深夜とは、『あの日』よりも前から僕が使っていた名前だ。

その時から、僕のイラストは一定数見てくれる人がいて、それで満足だった。

でも、とあることが起きて、僕は暫く何もする気が起きなくなって、イラストすら描かなかった。

それから暫くしてからのこと。

夜、ふとどこからか歌声が聞こえてきた。

僕はそれがとても気になって、声のする方に行った。

そこにいたのは、車椅子の咲だった。

僕はそこから立ち去ろうとしたけど、その前に咲から呼び止められてしまった。


『お兄ちゃん、私なら気にしてないから。だから、前のお兄ちゃんでいて。絵が上手で、歌声がきれいで、優しい。好きなことをしているお兄ちゃんが好きだから。』


泣きたかった。

だって、僕はもう変わってしまったのだから。

それがたまらなく悲しくて。


そのあと、久々にイラストを描いた。

それを見た咲は大喜びして、嬉しそうだった。

歌を歌った。

咲は、一緒に楽しそうに歌った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る