夜空君、顔が……



「どういうことですか?」

「実は、わたしが夜空君に、き、き……キス、しちゃって。」

「は?」


心の底からの疑問の声に答えるために、わたしは説明を始める。


「……わたし、夜空君と付き合うとか全く考えてなくて、ただもっと一緒に居たいって思ってたんだけど、友達がね、付き合っちゃえとか言ってきて……」

「変に意識してしまったと?」


察しが良い咲ちゃんに、わたしは頷いて返す。


「で?それがどうしてキスからの引きこもりになるんですか?」

「次の日、夜空君が起きて、わたし変に意識しちゃって、顔も合わせられなかったから、逃げちゃったの。でも、夜空君が何故か追っかけてきて、わたしは自分の部屋に行こうとしたんだけど、階段から落ちちゃって。そしたら、夜空君が受け止めてくれたんだけど……その……顔が、近くて……」

「で?」

「心の中で、キスしてもいいじゃんって。そしたら、止められなくなっちゃって。」

「キスしたと。」


わたしはただ頷く。


「そしたら、夜空君が逃げちゃって、地下室に引きこもってでなくなっちゃって、わたし、色々したんだけど、駄目で……わたしのせいで……」


そう話しているうちに、目が熱くなってくる。


罪悪感。


それに今にも押しつぶされてしまいそうで。


「それから、出てこないというわけですか……」

「うん……どうしたら、いいかな?」

「知りませんよ。私だってお兄ちゃんが引きこもったなんて経験初め……って、ちょっと待ってください!それ、お兄ちゃん生きてますよね!?ちゃんとご飯食べてますよね!?」

「う、うん。なんか、朝起きるとテーブルの上にラップかかった状態でおいてあったり、いつの間にか飲み物が減ってたり……」

「……じゃあ大丈夫ですね。とりあえず生きてはいます。でも……」


咲ちゃんは考え込むように、口元に手を当てる。


「どうしてお兄ちゃんは千雪さんから逃げたんだろ……」


それはただの呟きだった。

でも、わたしはそれの答えを知っている。


「夜空君、わたしなんかにキスされて嫌だったんだよ。」


わたしがそう言うと、咲ちゃんは驚いたような顔で見てくる。


「え?それはないと思いますよ?」

「な、なんで?でも……」

「だって、キスされるのが嫌なら、抱き着かれるのも嫌でしょう?でも、千雪さんを家に泊めています。一人になりたいなら、千雪さんを追い出せばいいのにそれをしないんですよ?しかも、ちゃんと千雪さんのご飯を作っていますし。」

「でも、それは夜空君が優しいからで……」

「それはないですね。」


わたしの言葉を、咲ちゃんはバッサリと斬る。


「だって、お兄ちゃんって他人にすごく厳しいので。」



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