夜空君、なんかごめんね?



「深夜、大丈夫?」

「…………」


涼多君が夜空君にそんな心配の声を投げかけるけど、夜空君の反応は薄い。

うん。絶対大丈夫じゃないね。


「夜空君、なんかごめんね?」

「…………」


わたしがそう話しかけても、夜空君は言葉を発しなかった。

でも、反応はした。


無意識かもしれないけど、ふっと柔らかく、今までで一番やさしく微笑んでくれた。


そのあと、夜空君は電池が切れたみたいに寝てしまう。


わたしが布団を掛けながら、涼多君を見ると目を見開いてこっちを見ていた。


「ん?どうしたの?」

「……いや、深夜が笑うなんてとこ、見たことなかったから……」

「ん?そうなの?結構笑うよ?さっきみたいな感じじゃないけど。」


わたしがそう言うと、涼多君は何かを考え込んでしまう。


どうしたんだろ?そんなに笑わなかったのかな?

そう思ったけど、なんか違うことで悩んでいるように見える。

それが恋人にはわかるのか、風花ちゃんは何かを涼多君に耳打ちする。

涼多君はそれを聞いて風花ちゃんを止めようとするけど、止まらずにこっちに来る。


「ねえ、千雪ちゃんって、深夜様のことが好きなの?」


え?なんでそんなに直球?


「うん。好きだよ。」


わたしがそう言うと、風花ちゃんの後ろで涼多君がむせていた。大丈夫かな?


「じゃあ、何で付き合わないの?たぶんおーけーしてくれるよ?だって、どう見たって両思いだもん。」

「え?つ、付き合う?」


ちょ、ちょっと待って!

何?付き合うって何?


確かに夜空君のことが恋愛的に好きだけど、そんなこと考えたこともなかったよ!


「で、でも、今みたいに一緒に居られれば満足だし……」

「甘い、甘すぎるよ千雪ちゃん!こんな優良物件、おさえとかないとほかの女に取られちゃうよ!?それでもいいの!?」

「よ、よくないけど……そんなの考えたこともなかったというか……」


だって、夜空君そう言うの興味なさそうだし、夜空君と一緒に居れば本当にそれで……


「甘すぎるよ!他の人と付き合ったら、今みたいにはできないんだよ?それでもいいの?」

「よ、よくないよ!!」

「でしょ?じゃあ付き合っちゃいなよ。告白しちゃいなよ。」

「でも、自信ないし……」

「だったら、先に既成事実をつくっちゃえばいいよ。キス、したくない?」

「ふえっ!?」


き、き、き、き、キスぅ!?


わたしは思わず下を向く。

すると、視界の端に入ったのは、すやすやと寝ている夜空君の顔。

その端正な顔立ち……

これがとっても近くにあったら?


「う、うわああぁぁぁあああああああ!!」


わたしは恥ずかしくなってその場で身悶える。


「無理無理無理無理!したいけど、恥ずかしいよ!百回は死ねるもん!」

「大げさすぎるよ。それに、したいとは思ったんでしょ?じゃあ、あと一歩だよ!少しのきっかけがあれば大丈夫だって!」

「……それが難しいんだよぉ……」


そもそも、何がどうなったらそんな状況になるの?

きっかけって何?


「千雪ちゃんはヘタレすぎ!もっと楽に考えればいいの!好きなんでしょ?なら、きっかけなんか何でもいいんだよ。不意に顔が近づいたでも、転んだ拍子にでも、何かのお礼でも。その気になれば問題ない!」

「あるよ!!」


わたしがそう言っても、結局聞いてもらえず、「ガンバ!」という言葉を残して帰ってしまった。


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