先輩、そう簡単に騙せると思ったら大間違いだよ?




――ボスッ!


先輩の振った木の棒は、目標物であるスイカに当たらず、砂に叩きつけられる。


「あぁ……外したかぁ……」

「千雪さん。そりゃあそうですよ。お兄ちゃんが絶妙なタイミングで変な指示出してましたから。」

「大翔も似たようなことしてたし、仕方ないよ。」


落ち込む先輩を会長と咲が励ます様子を、僕と大翔さんは二人で見ていた。


「大翔さん、賭けをしませんか?」

「賭け?」

「次、先輩と咲が僕にスイカ割りをやらせようとするか、それ以外かです。ちなみに僕は僕がやらされる方に賭けます。」

「それは良いけど、何を賭けるの?」

「『夕飯の買い出しに行ったときに持つ荷物を相手に押し付ける権利』です。」

「乗った。じゃあ僕はそれ以外に一票。」

「成立ですね。」


僕らが話を終えても、まだ二人は先輩を励ましていた。

咲が先輩に耳打ちをすると、一瞬で先輩が元気になったのがわかる。

元気になった先輩は、咲を抱えながらそのままのテンションでこちらに向かってくる。


「ねえねえ夜空君。次のスイカ割りは夜空君がやってよ!」

「お兄ちゃん。私もそれがいいと思う。千雪さんを騙した罪滅ぼしということで。」

「大翔さん、僕の勝ちのようですね。」


僕がそう言うと、大翔さんは悔しそうな顔で「仕方ない」と言った


「ん?何の勝負?」

「こっちの話。いいよ、スイカ割りやってあげる。」


僕はそう言うと立ち上がって、先輩から棒を受け取る。

目隠しをされて、視界が真っ暗になる。


「じゃあ、夜空君スタート!十回まわってね!」


僕は言われた通りに十回まわる。


「右だよ!右!」

「いや、僕は左だと思うよ。」

「お兄ちゃん!真っすぐが正解!」

「え?斜め右前じゃないの?」


見事に全員の意見が違う。

でも、僕をそう簡単に騙せると思ったら大間違い。


僕はその場で回れ右をすると、まっすぐ歩き始める。


一歩…二歩……


「よ、夜空君!?指示全無視!?」

「お兄ちゃん!そっちじゃない!」


二人がそう言うのも聞かずに、僕はそのまま十歩分前に出て、大きく棒を振りかぶると……


――パァン!


スイカに当てた。


「っと。こんなもんかな?」


僕がそう言って皆のほうを見ると、咲以外が全員うなだれていた。


「どうしたの?」

「賭けに負けたからこうなってるんですよ。」

「へえ。何を賭けたの?」


僕がそう言うと、咲は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「それは、『夕食の買い出しに行ったときに持つ荷物をなくす権利』です。」

「咲、僕らって本当に兄妹だよね。」

「? そうに決まってるじゃん。」

「ふふっ。そりゃあね。負ける勝負はしない・・・・・・・・・ところとかね。」

「ああ、確かにそうですね。お兄ちゃんも何か大翔さんと賭けしたの?」

「したよ。『夕飯の買い出しに行ったときに持つ荷物を相手に押し付ける権利』を

賭けたからね。」

「あ、確かに私たち兄弟だね。」

「でしょ?」


僕はそう言うと、咲の頭を撫でた。



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