先輩、何の話?



声がして、先輩はすごい勢いで振り返った。

見ると、そこには天輝がニッと笑みを浮かべて立っていた。


「夜空にはそれ以上の回答を望めないぞ。少なくとも今は、な。」

「そ、そうですか?ちなみになんでですか?」


いや、なに?それ以上の回答って。

二人は何の話をしているんだろう。

っていうか、先輩の敬語って似合わないな。


「こいつには色々足りねえんだよ。」

「た、足りない?」

「ああ、根本的に足りてねえんだ。」

「何が、ですか?」

「……もうわかってるんじゃねえのか?」


何故か、天輝が少し鋭い目で先輩にそう問いかける。


「……わかってる。のかもしれないですね。でも、確信はないです。」


先輩はいつになく真剣な顔をしている。


「ねえ、二人とも、何の話?」


僕は、気が付くとそう聞いていた。


「ああ、俺はお前と話そうと思ってきたんだった。悪いけど秋川さん。話はあとでな。先に戻っておいてくれ。」

「わかりました。じゃあ、夜空君。先戻ってるね。」


そう言うと先輩は駆け足で中に戻っていく。


「じゃあ、少し大事な話をしようぜ。」


天輝はそう言うと、先ほど先輩がいた位置に移動し、手すりに背中を預ける。


「大事な話?何のことかな。」

「嘘つけ。分かってんだろ。」

「どうだろうね。」


僕はそう言うと、天輝と同じように体重を手すりに預ける。


「………お前、秋川さんが好きか?」

「なんでそんなこと聞くのかわからないな。まあ、好きなんだと思うよ。」

「………変わってねえな。」

「人はそう簡単に変わらないんだよ。僕は『あの日』から変われてない。」

「そう言うだろうと思ってたよ。」


天輝はそう言うと、はぁっとため息をつく。


「その好きは、likeか?loveか?」

「さあね。どっちでもいいでしょ?」


僕がそう返すと、天輝はまたため息をつく。


「いい加減はっきりしろよ。本当は分からないんだろ?好きの違いが。」

「なんでそう思ったの?」

「お前は、道端の猫を可愛いと思うのと、妹を可愛いと思う気持ち、何も変わらないだろ?」


僕はその発言に首をかしげる。


「何が違うの?」


本当にわからない。

かわいいものはかわいいし、好きなものは好きだ。

何が違うの?


「ほら。何も分かってない。お前は何も知らないんだよ。」

「む。その言い方はむかつくな。天輝よりかは色々知ってるよ。」

「はっ。知識はな?お前は、もっと根本的なことが足りねえ。」

「本気で何言ってんのかわからないんだけどな。」


僕がそう言うと、天輝は「はんっ」と鼻を鳴らす。


「お前は、なんでいつまでも閉じこもってんだよ。」


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