第2話新しい仲間に困ってる

「くそーっ!こんなのやってられっかぁぁぁっ!」


 町の近くの森の中でそんな声が響いた。


 俺がギルドに入り、ユキノとチームを組んで早2ヶ月、ギルドランクはEまで上がった。


 ギルドランクにはSからFまであり、それぞれ自分のギルドランクか、ひとつ上のランクの依頼を受けることが出来る(ちなみにユキノのギルドランクはBである。)

 俺たちは今、森の中の木の根元に咲く、ある珍しい花を採取する依頼をこなしている最中だ。


「木の根元に咲くって、森に木がどんだけあると思ってんだ」

「そう文句ばっか言わないの。これも正式な依頼なんだから」


 そんなユキノの一言に反論したいノアだったが、手伝ってもらっているため何も言えないのだった。


「はぁぁ、もう疲れた。一旦休憩にしようよ」

「分かった。じゃあ、そろそろお昼ご飯にしようか」


 太陽が真上に登り、時間的にもちょうどお腹が空いた頃だった。


「やったー。今日の昼ごはんは何?」

「ふふふ。今日はサンドイッチを作ってきたのよ」

「サンドイッチかー、美味しそうだな」


 実際、ユキノの作った料理はどれも絶品なのだ。そんなユキノが作ったサンドイッチは美味しいに決まっている。


「それじゃあ、いただきます。あむっ」


 口の中に広がる豚肉の香ばしい香りと肉汁、それを優しく包み込むレタスのシャキシャキ感に、チーズの滑らかさ。

 あまりの美味しさに手が止まらない。

 すると、


「うぐっ!んっ......んっ!」


 ノアは、サンドイッチを勢いよく詰め込みすぎて喉を詰まらせた。


「あらあら、はいこれ。もうちょっとゆっくり食べなさいよ」

「だって姉ちゃんのサンドイッチが美味すぎるんだもん」

「うふふ、ありがとう」


 昼ごはんを済ませたノア達は再び花探しを再開した。

 そして、日も暮れかかったある時、


「見つけたっ!姉ちゃん、見つけたよ」

「あら、本当。これで依頼達成ね」


 何とか花を見つけたノア達は、ギルドに戻り報告をすませまた。見つけた花を渡し、報酬を受け取ったノア達は途中、市場で晩御飯のおかずを買って家に帰った。


「今日もお疲れ様」

「うん。手伝ってくれてありがとね」

「いいのよ。私達はチームなんだから」


 ユキノと俺はチームを組んでいる。だから、ユキノが受けれる依頼でも俺は受けることが出来ない。そのため、ユキノに俺の依頼の手伝いをしてもらっている。


「姉ちゃんさぁ、俺の依頼の手伝ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり自分のランクにあった依頼をしたいよね?」


 ノアは自分がユキノの足を引っ張っているのではないかと不安な気持ちだったのだ。


「そんなことないわ。私はノアと一緒にいられるだけで嬉しいの。だから、そんなこと気にしないでいいのよ」


 ノアは嬉しかった。ノア自身も雪乃といられるだけでうれしいのだから。


「ありがとう姉ちゃん。なら俺は、一日でも早く姉ちゃんに追いつけるように頑張るよ」

「うん、頑張ってね」


 この日ノアはユキノのためにも、明日から受ける依頼をさらに頑張っていこうと心に誓った。


      ◇


 翌日、ノアとユキノはいつものようにギルドで依頼ボードで依頼を探そうとしていると、そこに一人の女の子が困った様子で依頼ボードを見つめていた。


「姉ちゃん、あの娘なんか困ってない?」

「あらほんと、少し話を聞いてみましょ。」


 そういい、ノア達は女の子のもとへ向かって行った。


「どうかしたのか?なにか困ってるなら手を貸すけど」

「ほんとうですか?ありがとうございます」


 話を聞くところによると、この娘の名前はサエラ・ウェルト・メッシーナといい、年は俺と同じ16歳で昨日冒険者になったばかりらしい。今日はじめて依頼を受けようとしたのだが、勝手がわからずどうすればいいのかわからなかったらしい。


「それじゃあ、良かったら私たちと一緒に依頼を受けない?」

「いいんですか?」

「いいのよ。丁度私たちも受けようとしてた所だし。ねっ?ノアもいいでしょ?」


 ナイスアイデアだ。俺も困ってる人を見過ごすわけにわいかないしな。


「うん。俺はかまわないよ」

「......っ!ありがとうございますっ!」


 こうして、サエラと依頼を受けることになった。

 今日受けた依頼は村の近くに出没するという下級モンスターの討伐である。


「下級モンスターって一体どんなモンスターがでるんですか?」

「ゴブリンやトリガエルとかがでて来るらしいわよ」


 ゴブリンと以前でてきた奴と同じ種類で、トリガエルは羽が生えたカエルみたいな見た目をしているのだが、こいつの肉はかなりおいしい。今回の依頼では討伐が目的なので、倒したトリガエルはギルドに連れて行けば解体して、貰えるそうなのだ。


「さあ、じゃんじゃん倒していっぱい持ってカエルわよ。カエルだけに(笑)」

「おおぉ」

「いやいや、そんなに上手くないから」

「てへっ☆」


 と、ダジャレなんかを言いつつ、俺達は討伐に励んだ。

 昼ごろには依頼を終わったので、そのまま今日倒したトリガエルの肉で、一緒に昼ごはんを食べる事になった。


「今日はありがとうございました。お二人のおかげで依頼達成できました」

「いいのよ。サエラちゃんと一緒だったからこんなに早く終われたのよ」

「そうだよ。だから遠慮なんかせずに食べなって」


 サエラがいてくれたおかげでスムーズに討伐ができた。もしサエラがいなかったら今よりもかなり遅くに終わっていただろう。


「それじゃあ、いただきます」

「私たちもいただきましょう」


 あむっ! これはっ!外はパリッとしていて、中はとてもジューシーに出来上がっている。弾力がしっかりしているのに肉汁があふれ出てくる。味は鶏肉とは違い、むしろ牛肉に近い。


「これ、とてもおいしいです」

「ほんとね。これならいくらでも食べられる気がするわ」


 ノア達は、更に盛り付けられていた肉を1つ、また1つと食べ進め、食べ終わる頃にはとても満足そうな笑みを浮かべていた。

 そんな時、サエラが申し訳なさそうな顔で、


「あの、もし良かったら何ですけど、明日も一緒に依頼手伝ってくれませんか?」

「俺は別にかまわないけど、姉ちゃんはどうなの?」

「もちろんよ!今日、サエラちゃんと依頼やって、とても楽しかったもの」


 2人がそう答えると、


「ありがとうございますっ!それでは、明日もよろしくおねがいします」


 サエラは嬉しそうに答えた。この日からノアとユキノとサエラの3人で依頼をこなすようになった。

 そして何回か一緒に依頼をこなし、サエラのギルドランクがノアと同じEに上がったので、お祝いをしようという話になった。そして、そのお祝いに向けてノアとユキノが準備をしてるとき、ノアがユキノにある事を尋ねた。


「あのさぁ姉ちゃん、俺、サエラも俺たちのチームに入れようと思ってるんだけど、どうかな?」


 というのも、これまで一緒に依頼をこなしたきてが、その度に「いつかこの関係が終わり、一緒に依頼をやらなくなった時、サエラは1人でやっていけるのだろうか?」という思いがあったのだ。

 だからノアは考えた。自分たちのチームに入ればこれからも一緒にやっていけると。しかし、それと同時にもう1つ不安があった。


「もともとは、俺たち姉弟で一緒にやって行くためにチームを組んだわけだから、俺だけの考えでチームに入れていいのかわからなかったんだ。」


 そう、ユキノがサエラをチームに入れることに反対するわけがないとわかっているが、それでももしかしたらダメなんじゃないかと考えてしまっていたのだ。

 そんなノアの考えに対しユキノは、


「そんなの、いいに決まってるじゃないっ!それとも、私が断るとでも思ったの?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、俺が勝手に考えてた事だし、これはやっぱり、チームの問題だから少し不安があったというか.....」

「そんなこと気にしなくても良かったのに。それは、ノアが自分で考えて出した答えなんでしょ?なら、私は反対しないわ」


 そんなユキノの言葉に、ノアは安心した。

「やっぱり俺の姉ちゃんは最高の姉ちゃんだ!」とノアは心のなかで思った。


「それに、私も同じこと考えてたの。ノアが言ってこなかったら、私のほうから言うつもりだったの」

「そうだったのっ!?」


 実はユキノもノアと同じことを考えながら今までやってきたのだった。


「じゃあさ、今日サエラのお祝いをする時にこの話をしようよ。一種のサプライズとして」

「いいわね!サエラちゃん喜んでくれるといいわね」

「うんっ!きっと喜んでくれるよっ!」


 そして夜になり、サエラのお祝いパーティ-が始まった。


「あのっ、今日は私のためにこんなお祝いをしてくださり、ありがとうございますっ!」

「そんなにかしこまらなくてもいいから、今日はサエラちゃんのお祝いなんだから、いっぱい楽しんで」

「そうだよ。サエラに喜んでもらおうと準備したんだから、今日ぐらい楽にしてもいいんだよ」

「それじゃあお言葉に甘えて、今日はめいっぱい楽しまさせていただきます」


 パーティーは大いに盛り上がった。ユキノがノアの小さい頃の話ばかりするものだからとても恥ずかしかったが、サエラが楽しんでいる顔を見ると、とても安心した。

 そして、時間が経ち夜も遅くなりサエラがそろそろ帰らないといけないと言うので最後に昼にユキノと話し合ったことをサエラに言った。


「実は今日、姉ちゃんと話し合って、もしサエラが良かったらの話なんだけど、俺たちのチームに入らないか?」


 ノアは不安な気持ちを抱いたままサエラに聞いた。

 するサエラは


「.......っ!いいんですか?私なんかがお2人のチームに入っても?」


 サエラは眼に涙を浮かべながら答えた。


「むしろ大歓迎よ。もちろんサエラちゃんが良ければなんだけど」

「ほんとにいいんですか?」

「いいって言ってるだろ?それとも嫌なのか?」

「そんなごどないでずっ!よろじぐっ......おねがいじばすっ!」


 サエラは泣き崩れながら答えた。

 翌日、ギルドで申請を行い、サエラが正式に俺たちのパーティーに加わった。


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