異世界に転生した俺だが、姉がブラコンすぎて困ってる

緑山 碧

第1話姉がブラコンすぎて困ってる

「はぁ....今日も退屈だなぁ....」


 高校二年生の夏、羽田康一は学校から帰宅し自分の部屋でゲームをしながらそう呟いた。


「このゲームも飽きてきたし、新しいのでも買いに行くか」


 そう言い、康一は家から2キロほど先にあるゲーム店へと向かった。


「うーん...良いやつなかったな...」


 そう呟き、帰り道にある信号を渡っているとき、どこからか


「あぶない!!」


 と聞こえてきた。康一がその声の方へと振り返ると、


 キキィィィィ.... ガッシャァァァン。


「大変だ、男の子が引かれたぞ!」

「誰か救急車!」「おいっ!大丈夫か!」


 意識が薄れていく中、いろんな人の声が聞こえてきた。


「あぁ、俺、死んだのか。」


 康一は、そのまま眠るように死んでいった....はずだった。


「おーい、聞こえとるかね?」


 ふと聞こえてきたのは、年老いたおじいさんの声だった。

 自分は死んでいるはずなのに何故声が聞こえてくるのだろう...

 不思議に思い、康一が目を開くと、そこには白い無地の布をまとったおじいさんがいた。


「おぉー、気がついたか。」


 なんなんだこのおじいさん。


「あなたは一体誰ですか?僕は死んだはずですが...。」

「確かにお主は一度死んだ。だが訳あってお主を生き返らそうと思っておる。」


 生き返ることができるのか?


「それは本当ですか?でもなんで?」

「実はお主がおった世界とはまた違い、科学ではなく魔法が発達した世界に転生してもらおうと思っておるのじゃ。そこではかなり昔に魔王が侵略してきて、その魔王を勇者が倒したのじゃが、魔王が死ぬ直前にモンスターが永遠に湧き出てくるようこの世界に魔法を放ったのじゃ。」


 魔王、ひどいな。


「今ではそのモンスターを倒して生活しているものもおるが、倒しても倒しても出てきて、そのせいで命を落とす人もどんどん増えてきとるんじゃ。」

「そんな時、高校生のお主が事故で死に、魂がさまよっておったところをわしが見つけ、特別な能力を持たせてこの世界に転生させ、どうにかこの状況を変えてもらおうと思ったのじゃ。」


 そうだったのか。これは喜んでいいのかわからんな。


「ところで、さっきおっしゃっていた特別な能力とは何ですか?」


 特別な能力がもらえるとかまるでゲームみたいだな。


「実はその特別な能力と言うのは、お主が決めるんじゃ。」


 俺が決めていいの?まじで?


「そういうことですか。わかりました。」


 康一は軽快な口調でそう答えた。

 すると神様は、


「ちなみにじゃが、向こうの世界で死んだ場合、今回のように生き返ることは出来んぞ。それでもいいのか?」


 一度死んだのにもう一度生き返ることができるんだ。これ以上何も望まないさ。


「ええ、かまいませんよ。」

「そうかそうか。よしわかった。」


 どうやら神様も了承してくれたようだ。


「さて、どんな能力が欲しいか決まったかの?」

「欲しい能力か...なにがあるかな?」


 ほしい能力と言われてもなかなか思いつかない。


「例えばじゃが、全てを破壊する魔法や、どんな攻撃からも身を守る防御魔法なんかでもいいぞ。」


 へぇ、チートじみた能力でもいいのか。


「じゃあ、相手の技をコピーする能力でお願いします。」

「よし、良かろう。」


 意外とあっさりOKくれたな。


「それじゃあ、その能力とプラスで色々特典をつけといてやろう。」

「特典?特典というのは何ですか?」

「それは転生してからのお楽しみじゃ。」


 そんなこと言われたら気になって仕方がない。


「それじゃあ始めるぞ。」

「フンッ!ハァァァァァァ!」


 すると急にあたりが光につつまれ、意識が薄れていった。


 ◇


「おき....さい。」


 誰だろう、声が聞こえる


「ノア、起きなさい。」

「う....うーん...」

「やっと起きたわね、ノア。」

「ここは.....?」


 目を開けるとそこには綺麗な女の人がいて、俺のことを「ノア」と呼んでいる。どうやら本当に転生したらしい。


「あら、寝ぼけてるのかしら?じゃあ、お姉ちゃんが目覚めのチューを....」

「起きる!もう起きるからチューはやめて!」

「もうー、照れ屋さんなんだから。」


 どうやらこの女の人は俺の姉であり、ユキノ・グリム・ヴァーツェルトといい、俺はノア・グリム・ヴァーツェルトという名前らしい。それから少し時間はかかったが、色々なことがわかった。この世界はネメルビア、そして、この国がゼラセルド王国で、俺がいるのはこの王国の端っこの方にある小さな町、

ボルロというところに、姉と2人で住んでいるらしい。

 俺は羽田康一の時の記憶と、ノア・グリム・ヴァーツェルトとして生きてきた記憶もある。だからこの光景も見慣れたことなのだ。


「ねぇーちゃん、いつも言ってるだろ。起きたらチューしようとするのやめろって。」


 そしてもうひとつ分かったことがある。ユキノは....極度のブラコンなのだ。羽田康一としての記憶もあるためこんな綺麗な人にキスを迫られるのは嬉しいのだが、ノアとしてはあまり好ましくないらしい。


「相変わらずノアは可愛いなぁー」

「もう、ほんといい加減にしてくれよ。」

「それよりもー、昨日も夜遅くまで頑張ってたみたいだけど、魔法は使えるようになったの?」


 どうやらおれが転生するまでは魔法が使えなかったらしい。だが、俺は神様にコピーの能力を貰ってるから今は魔法が使るが、«相手の魔法をコピーする能力»なんて言ってもいいのだろうか?


「い、いやぁ、まだ使えないなぁ....」

「そっかー、でも気にせずにこれからも練習がんばってね。お姉ちゃん、ずっと応援してるから。」

「ありがと、姉ちゃん。」


 とりあえずなにか機会があるまで黙っておくことにしたが、隠してるということに少し罪悪感を覚える。


 ◇


「それじゃあ私は仕事に行ってくるね」

「待ってよ姉ちゃん。今日こそ俺も連れてってよ。」

「ダメよもう少し我慢しなさい。ノアが16歳になったらギルドに入って正式に私とチームを組むまでは危なすぎて連れていけないわ。」


 この世界にはギルドという冒険者を集める集会所がある。ギルド登録をした冒険者はギルド内のボードに貼ってある依頼書から好きな依頼を選び、依頼をクリアすることで報酬をもらってお金を稼いだり、ランクを上げたりする。ランクが上がるとより難易度の高い依頼を受けることが出来るが、その分クリアが難しくなる。その代わり報酬も増えるし、依頼の難易度が高いほどランクが上がりやすい。そしてギルドに入るには規定があり、年齢が16歳以上であること、最低一つ魔法後使えること、などがある。俺は魔法は使えるが、年が14歳だからまだ入れない。


「ちぇっ、あーあ早く16歳にならないかなぁー。」

「そう慌てないの、もうすぐじゃない。」

「まぁ、そうだけど...うん、もう少し我慢するよ。」


 こればかりは仕方ない。


「偉い!さすが私の弟。帰ったらチューしてあげるね♡」

「それはいい!」


 流石にこの年での姉からのキスは恥ずかしい。


「うーん、いけずー。じゃあ行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。」


 そう言ってユキノは仕事に出かけた。

 あーは言ったが、やはり我慢出来ない。

 結局、こっそり着いてくことにした。


「えーと、どこに行ったのかなぁ....あっ、いたいた。」


 どうやらモンスターと戦っているらしい。


「姉ちゃん1人に対し、ゴブリン10体か。少し多い気がするけど、姉ちゃんなら行けるな。」


 実際、敵の数はどんどん減ってきている。そんなに苦戦している様子もないし、このくらいなら余裕なのだろう。


「やっぱり姉ちゃんは強いなー。」


 そんなことを思いながら見ていると、


「グオォォォォ!」


 敵をすべて倒した直後に、今まで倒してきたゴブリンのふた回りも大きいゴブリンが出てきた。大きな斧を持ち、体は鎧で包まれている。


「どうやらボスモンスターっぽいけど、姉ちゃんなら楽勝だろ。」


 しかし、そんな思いとは裏腹にユキノに疲れが見えてきた。あのゴブリン、一撃一撃が重いのにもかかわらず、見た目の割に素早い動きをするのだ。ユキノも攻撃をよけるので精一杯らしい。


「このままじゃあいくら姉ちゃんでもいつかはやられてしまう。」

「助けに行かないと!」


 そう言いノアは駆け出した。途中、

 カキィィィン という金属音が聞こえてきた。多分持ってた剣が折れた音だろう。


「このままだと間に合わない。もっとスピードをあげないと。」


 ノアはさらにスピードをあげた。その時、ノアは自分に起こっている異変に気づく。


「こんなに早く走ってるのに、全然疲れない....?」


 どうやらこれが神様の言っていた『特典』らしい。基礎身体能力が上がっている。


「ありがとう神様。おかげで間に合いそうだ。」


 そのままノアはユキノの元へと向かった。

 着いてみるとゴブリンが斧を振り上げ今にもユリエに攻撃しそうだった。


「危ないっ!姉ちゃんっ!」


 ドゴォォォン


 ノアはおもっいっきりゴブリンを殴り、吹き飛ばした。。ゴブリンは体制を崩しそのままうしろに倒れた。


「ノア、何してるの!来ちゃいけないってあれほど言ったのに。」


 やっぱり怒られた。


「ごめん姉ちゃん。でも、今俺が来てなかったら姉ちゃん危なかったよ。」


 実際、あと少し遅れていたらユキノはやられていた。


「それはそうだけど....でも、これからどうするつもりなの?」

「まぁ、任せて。姉ちゃんは今のうちに離れたところの移動して休んでて。」


 実は何も考えていないなんて言えない。


「わかった。でも危なくなったらすぐ逃げるのよ。」

「もちろん分かってるよ。」


 とは言ったが、もちろん逃げる気は無い。


「今逃げたら、あいつは確実に姉ちゃんを狙うだろう。そんなことはさせない。」


 起き上がってきたゴブリンはかなり怒っていた。もう少しの所を邪魔されたのだから。あの女よりもまずお前を殺してやろう、そんな目をしていた。


「来いよデカブツ。お前の相手は俺だ!」


「グアァァァァ」


 雄叫びとともに武器を構え突進してきた。そしてノアめがけてその大きな斧を思いっきり振りかぶった。しかし、ノアはそれをヒラリとかわしてみせた。ノアの身体能力の方が1枚上手らしい。


「おいおい、そんなのろい動きじゃ俺は殺せねぇぜ。」


 そしてノアは攻撃してできたゴブリンのスキをつき、持っていた小刀で攻撃をした。

 ザシュッ 鈍い音とともにゴブリンの体から血が吹き出てきた。


「グギャアァァァァァァ」


 ゴブリンが悲鳴をあげた。


「おいおいこの程度でやられるわけないよなぁ。」


 すると、ゴブリンの左手が光出した。次第にその光は赤くなっていき、大きくな炎になっていった。そのままゴブリンは左手の炎をこちらに目がけて投げつけてきた。


「へぇ、魔法を使うのか。じゃあ神様からもらったこの力、お前で試させてもらうぜ。」


 ノアの右目が白く光出し、そのまま右手を向かってくる炎に向けて叫んだ、


「かの技を我がものに! 『模倣する世界パーフェクトコピー』」


 すると、ノアの右手に炎が吸い込まれていった。そしてノアの頭に電気の走るような感覚が襲った。


「どうやら魔法をコピーできたみたいだな。この魔法のことがどんどん頭に流れこんでくる。」

「よし、遠慮なく使わしてもらうぜ 『フレイムボール』!」


 ノアの右手から炎が放たれ、ゴブリンに直撃した。


「ギュオォォ....ォォォ...」 バダアァァァン


 大きな音とともにゴブリンは倒れていった。


「ふぅ、なんとか倒せたな。魔法もきちんと発動できたし、上出来じゃないか?」


 初めてやったが思いのほか上手くいった。

 そこに影から見てたユキノが駆け寄ってきた。


「ノア、大丈夫?どこか怪我してない?」

「大丈夫だよ。どこも怪我してない。」


相当心配していたらしい。


「良かった。それと、今のって...魔法なの?ノア、あなた魔法が使えるようになったの?」


 驚いてる様子だ。無理もない、今まで使えなかった魔法が急に使えるようになったんだから。


「う...うん。俺もとっさに出来たことだからびっくりしてるけど、ちゃんと使えるようになったみたい。」


 本当はもっと前から使えたなんて言えない。


「やったじゃない。ノアもやっと魔法が使えるようになったのね。これであと二年待てばあなたもギルドに入れるわね。」


 姉は心の底から喜んでくれているようだ。


「それでノア、あなたもの魔法はどの属性の魔法なの?」


 魔法の属性?魔法に属性があるの?


「ごめん。よく分からないんだ。どうやれば分かるの?」


 どうやって知るのかユキノに聞いてみた。


「魔法にはそれぞれ火、水、風、土、無の五つの属性があり、すべての魔法はこの中のいずれかの属性から派生しているの。」

「魔法の属性を知るには魔法を使用した際、体のどこかが光るのは体験したからわかると思うけど、その光の色で区別するのよ。」

「じゃあ、僕の魔法は白く光ってたんだけど、これは無属性魔法でいいの?」


「え...?」


 なんだ?驚いた顔して。何か変なことでも言ったか?


「無属性の魔法ってのはめったに見られるものじゃないの。それこそ、この世界に数えられるくらい程しかいないんじゃないかってくらい。」


 まさか転生の時に神様にもらった魔法がそんなにすごいものだなんて。流石にチートすぎるかもとは思っていたが、これほどまでとは。


「つまりあなたはとてもすごい魔法が使えるようになったってこと。やっと魔法が使えるようになったと思えば、無属性魔法だなんてさすがノアね!」

「あ..はは、そう?ありがとう。僕も嬉しいよ。」


 嬉しいことには嬉しいのだがここまで大きくなるとは。


 ◇


 俺たちは村に帰り、ギルドでクエストクリアの報告をし、俺が魔法を使えるようになったこと、その魔法が無属性魔法だったことをギルドの受付嬢に話した。


「あらまぁノアくん、魔法が使えるようになったの。しかも無属性なんて、すごいわねぇ。」

「ありがとうございます。」

「でも、正直あんまり自覚がなくて。」

「いえいえ、本当に素晴らしいことですよ。知っての通り、無属性魔法は希少なもので国でもとても重宝されているんですよ。」


 そうなのか、これはいいこと聞いた。


「国で重宝されているって言うのは具体的にどういうものなんですか?」

「そうですね、例えばきちんと国に申請すれば、武器や道具を買う料金の減らすことが出来たり、ほかの領地への入国料の免除などがあるの。」

「そうなんですか。ではすぐにでも申請をお願いできますか?」

「それはいいけど、その場合国を挙げての大規模討伐の際に、国から強制的に出頭命令が出され、すぐに戦地へ行かないといないの。だからこういうのはいけないんだけどもノアくん、あなたには申請をして欲しくないの。」


 そうなのか。確かに料金の減額や入国料免除はいいことだけど、ユキノのためにもあまり危ないことは出来ない。


「わかりました。姉ちゃんのためにも申請はしないでおきます。」

「そう、良かった。じゃあ申請はやめておくわ。その代わり、無闇に魔法のことを話したり、使ったりしないこと。もし国にバレたりすればさっき言ったように無理やり戦地へ行かせられるわよ。」


 これじゃ迂闊に魔法を使えないな。


「わかりました。ほんとに危ない時以外は使わないようにします。」

「ほんとに気をつけるのよ」


 程なくして俺たちはギルドをでた。


「まさか無属性魔法一つに国がここまで必死とは。」

「ほんとに気をつけるのよ。私、ノアと離れ離れなんて嫌よ。」


 それは俺も同じ気持ちである。


「もちろん分かってるよ。俺も姉ちゃんと、離れ離れは嫌だし。」

「うふふ、うれしいこと言ってくれるじゃない。」


 そんな素直に喜ばれると、少し恥ずかしい。


「俺はいつまでも姉ちゃんと一緒だよ。」


 ノアは頬を赤らめて言った。


「じゃあ、約束ね。」

「うん、約束。」


 そんな約束をし、俺たちは家に帰った。


 それから2年後、俺は16歳になった。

ギルドに正式に登録し、ユキノとチームを組むことが出来た。




















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