第3話 オタクの前世Part2

その日も……いや、その日は特に凄く落ち込んでいた。


「あーあー、またやっちゃった……」


今日の失敗は私だけでなく、上まで出て来て大事になった。


お客さんにひたすら頭下げて、罵声を浴びせられ、また後で帰る前に上司と先輩と言う鬼に罵声と念を浴びせられ、泣くに泣けず、ただひたすら帰ったあとに待ち構える期待に、我慢していた。


しかし、帰り道の夜。


一人になると『馬鹿やったな……』とか『なんで何も出来ないんだろ』とか、ぐちゃぐちゃした思考しかなくて、拭い切れない涙が溢れていた。


「葵くぅん……秋人くん……」


いつしか癖になっている、自身の押しの名を小さく呼ぶ。


誰も知らないから、知られたくないから。


この時の私は『乙女ゲーム』というのにハマっていて、傷ついた心にはキャラの暖かな言葉が……表情が、酷く染み渡っていた。


「あ、そういえば……」


ふと思い出したのは、今オタクの中で超絶人気の乙女ゲーム『ルルと秘密の学園』。

主人公のルルが、とある学園を舞台に攻略キャラと恋愛をするっていう王道ゲーム。

莫大な人気により、スマホンにアプリケーションを出すのだという。


勿論、原作ゲームは攻略済みさっ!


そして、肝心の攻略キャラは皆イケメン!

中でも一番人気の《音羽 翼》はクーデレ眼鏡で、世のおねー様方からの票が高い!


ちなみに私も翼君派である。


あのキレイなグラフィックのENDで、「アンタが幸せになれるように俺が傍でみてる」って…!

ほぼプロポーズだよ!


「これは忘れてはいけないなっ!インスットォールゥッ!」


先程の涙はどこへやら、さっそくスマホンを取り出しワクワクと起動させる。


新しいゲームや漫画を開く感覚は、いつまでも私をワクワクさせる。


「ポチッとなう!」


某アニメの言葉と共に、私は横目でトラックのライトを見ていた。

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