MISSION 死人の復活

第18話 【ACT〇】とある墓地にて

 風化した墓碑を見つめて、彼は唇を噛んだ。風化しすぎて、もはやそれから埋葬された人物の名を読み取る事すら難しかった。辛うじて読めたのは、『安らかな永久の眠りを、神よ、彼に与えたまえ』と言う最後の文章だった。

「……僕は、そうか、死んだのか……」

やがて、彼は誰に聞かせるともなく、そう呟いた。

「そうだ」黒い蓬髪の、不気味な男がその背後で皮肉そうに言う。「そして世界は動き続けた。 時代のうねりに突き動かされて、変わってしまった。 もはやこの世界はかつてテメエのいたじゃあ無い。 言い換えりゃテメエがいなくても、世界は勝手に変わったって事だ」

「……」

「あの時代も楽しかったなあ。 異端審問裁判で人間が魔族を片端から殺して行った。 宗教が無ければ生きていけないほど弱い人間共が、恐怖のあまりに思考を停止させ、必死になって魔族を殺して行った。 それに対抗してとは言え、魔族もまるで暴君のように人間を殺すために力を振るった。 あの時代は、弱い事が罪だと叫ばれた時代だった。 どいつもこいつも愚者だった。 ……いや、今になってもなお、それは変わっちゃいねえ。 相も変わらず人間は愚かで魔族は馬鹿だ。 救いようなどどこにも何も無い」 

「僕も異端審問官の誰も彼もが愚かだったと言うのか……?」

男に彼は訊ねた。男は心底呆れかえった声で、

「疑う心、たとえ相手が唯一絶対の神であったとしても疑ってかかる心を失った連中を、馬鹿とか愚かとか呼ばずに何と呼ぶ? 疑う事は正しい事だ。 何の疑いも無く信じるなんて俺に言わせりゃとんでもない精神薄弱だ」

「……」彼は、黙っていたが、口を開いた。「僕は……何故、この時代のこの時によみがえらされたんだ?」

「俺に聞くな、ムールムールに聞け。 まあヤツでもこう答えるしか無いだろうな、『偶然ですぞ』って。 そうさ、最初は偶然だ。 そして全ては何かのための必然に変じていく。 だがそれまでテメエが持ちこたえられるかどうかは、俺の知った事じゃあねえなあ」

男は邪悪な笑みをたたえている。そして、言った。

「さあ、どうする? 

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