第30話 悪夢から逃れた日②
放課後。
俺はまた鮫島兄弟に、生徒会室に来るように言われた。
「失礼します」
「あっ、透さん、こんにちは」
翔は、奥の机でパソコンをいじりながら挨拶を返してきた。
「あれ、将雅は?」
「多分もうすぐで来ると思います」
「ふーん」と俺は相槌を打って、部屋の入口近くの椅子に腰掛ける。
まだ来てないのか。俺、結構遅く来てしまったと思ったんだが。
ソワソワしながらふと部屋を見回すと、ガラクタが大量に詰め込まれた段ボール箱が目に入った。
「翔、この箱……何だ?」
翔は手を止めて、パソコンの横から顔を覗かせる。
「ああ、ウチのクラスの作業用道具ですね。ノコギリとか見えるでしょう?」
……なるほど。やっぱり、皆文化祭に力入れ始めてるなぁ。
「まあ、全部俺が借りてきたんだけどな」
突然、後ろから低い声がした。振り返ると、相変わらず熊のようにでかい図体の将雅が立っていた。
「びっくりした~、将雅かよ。驚かせんな」
「あ? お前が勝手に驚いたんだろ」
将雅の言葉には微かに微笑が含まれていた。
「あ、兄ちゃん、その件はありがと」
「ん、おう」
将雅は俺の横の椅子に座った。
「取り敢えず、今日は何も無かったぞ」
「え、ほんと!?」
将雅は腕を組みながらそう話し、翔は安堵の表情を浮かべて、上ずった声を出した。
「何も無かったって?」
俺は将雅に聞く。
「さっき学校の周辺を見て廻ってきた。見落としが無い限り、今日は変なことは起きてない」
「……万が一に、見落とした可能性は?」
俺は一人で行動した将雅に不満をぶつける。
「あー……下手したらあるかもしれねぇが、ほら、あれ変なキツい臭いするだろ? もし何かあったら気付くと思うんだよな。あの臭いが今日はしなかった」
俺は下唇を突き出しながらも頷いた。まあ、納得できる言い分だ。
俺の不満は二つあった。本当に異変は見られなかったのかという不満と、折角今日、俺は二日連続でこの身体を乗っ取れたので、捜査をする気満々でいたこと。
捜査する手間を、将雅に先に省かれた俺は少しふてくされた。
「まあでも、良かったじゃん! 何も無いことが一番だよ!」
翔が俺の気持ちをフォローする。もちろん、無意識なんだろうと思うが。
翔はそう言いながら席を立ち、俺と将雅にホッチキスで留められた二枚のプリントを渡してきた。
「兄ちゃんから聞いた情報を整理してまとめてみた。問題ないよね?」
俺は手元の資料に視線を落とす。理科室の壁、花壇、倒れた木。現場の写真に加えて発見日時、犯行推定時刻、色々な人の証言がそのプリントに印刷されていた。まったく、翔の仕事の速さにはアッパレだ。
「……うん、問題ないと思う。よし……今日はこれだけだな」
……え?
「そうだね。今日は何も起きてないからこれで解散かな」
おいおいおい。本気で言ってるのか? 今日俺は、本当に何もせずに一日を終えるのか?
「これから文化祭の準備も忙しくなるしな。……まあ、文化祭が始まる前にはこの事件は片付けておきたいんだが……。とりあえず透、今日は休みだ。これで解散しよう」
ポンポン、と将雅は俺の背中を叩くと、資料を持って生徒会室から去っていった。
俺は肩を落とし、うなだれた。そうか。こんな日もあるのか……。残念だが仕方ない。怒っても、仕方ない。
俺は靴を床に擦らせながら部屋を出た。
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