第24話 人格4-②
学校に着き、教室の自分の席に落ち着くと、早速親友の俊介が話しかけてきた。
「なあなあ、透、これ欲しくね?」
そう言って俊介が見せてきたのはカタログ本のひとページ。そこから、「開運!」とか、「身に着けるだけで!」などのとてもあやしい決まり文句が目に入った。
誰でも分かる。オカルトグッズだ。
俊介は、一言で言うと馬鹿だ。初めて見たものにはすぐ飛びつき、必ず一度はハマる。そしていつの間にか興味を失くす飽き性だ。
その性格自体、別にいい。だが、周りの人を巻き込んでほしくない、というのが俺の素直な望みだった。
しかも今回はよりにもよってオカルトグッズ……。勘弁してくれ……。ハッピーな俺でも、折れる時は折れるぞ?
「いやあ、俺は……興味無いかな」
「えー! なんで? 欲しくないのこれ、普通に」
「うん。欲しくない。普通に」
「じゃあ、買わないの?」
「買うわけねえだろ、一人で買ってこい」
「きっとそう言うと……思ってました!」
ドンッ
俊介は僕の机の上に、ビニール袋に包まれた何かを乗せてきた。
嘘だろ? まさか……
「買ってきました!」
買っていた。俊介はもう、購入済みだった。
僕は一瞬あきれかけたが、なんとか気を取り直して、ビニール袋からグッズを取り出す俊介の手をただただじっと見つめる。
「これ俺の分。とるなよ」
そう言って袋から高さ三十センチ程の埴輪を出す俊介。なんだコイツ。
「はい、透にはこれをあげる」
「……ブレスレット?」
俊介がくれたのは、虹色のブレスレットだった。色とりどりのガラスの玉が、紐によって繋げられている。
僕は、俊介の話にひとまず乗ってみることにした。
「これ、効果は?」
「えーと確か……時間の使い方が効率的になる! だったかな」
「は?」
あやうく吹き出しそうになる。喉の奥でそれをグッと堪えて、理解不能な俊介の言葉を聞き返す。
「え……何、自分の意識が変わるってこと?」
「うん。多分。というか、最近そういうの結構流行ってるんだよ。片付けが上手くなるとか、優柔不断じゃなくなる、とか」
「へえ」
僕は適当に返事をして、そのブレスレットを袋に戻そうとした。だがやっぱり俊介は、「ダメ」と言って僕の手元に落ち着かせる。こうなったら、もう俊介は何も聞いてくれない。
僕は渋々と、そのブレスレットをズボンのポケットの中に突っ込んだ。
「よう、おはよう」
低く張りのある声で挨拶してきたのは、同じクラスの浜川廉太(はまかわ れんた)。長身で、おまけにガタイもいい、バスケ部の奴。俊介と同様、よくつるむ親友だ。
「あっ、廉太、昨日どうなった?」
俊介はニヤケながら、廉太をからかう。
何だ? 昨日?
「いや、マジでやばかった」
廉太は顔を手で覆って、重だるく言葉を返す。
「え? 何? 昨日何かあったの?」
僕は二人の話題が分からなかったので、聞いてみた。
「いや、廉太昨日、松坂先生の担当場所での掃除が始まったんだよ。で……松坂先生、めちゃくちゃ潔癖症だから……」
俊介はそこまで言うと、「ブフッ」と笑って顔をしわくちゃにする。
「いやあ俺、雑巾係だったから死ぬかと思った」
「てか、透も見ただろ? 廉太が必死になって雑巾がけしてる姿」
「ん、あ、ああ……」
「ほんと、あれ毎日とか助けてくれ……!」
担任の松坂先生が潔癖症なのは、知ってる。だが僕にはその俊介の言う、激務に耐える廉太の姿というものが記憶に無かった。
時折、いや、ほとんど毎日、こんな不思議な現象に襲われる。自分の記憶と現実がうまく合致せず、その瞬間思考にブレーキが掛かる。
一体何が起きている? 僕は、本当に正常なのだろうか?
「透さん、いる?」
腹に響くような声で、自分は名前を呼ばれた。聞き覚えのある声だ。
途端に緊張して背筋が伸びる。「はいっ」と、大きな返事をしたが、声は若干震えていた。
声の主は、生徒会長の鮫島 翔(さめじま かける)だった。教室の外で、小さく手招きしている。
僕は自分の席を立ち、彼の元へ向かう。
「ど、どうしたの?」
「明日の放課後、生徒会室に来て欲しいんです」
「また……何かあったの?」
「詳しい話は、明日に……」
「ん、そっか、分かった」
明日の待ち合わせだけをして、翔くんは去っていった。
翔くん。彼は今の生徒会長。彼は二年生なのに、僕は彼の前だとつい体がこわばってしまう。それは、彼の兄、そして同級生でもある鮫島将雅(さめじま しょうが)が原因だろう。
将雅も、以前まで生徒会長を務めていた。可愛らしい翔くんとは違って、彼は『秩序が全て』というような奴で、怒る時は言語道断。殺されるかと思うほどである(僕は経験済)。
彼ら兄弟は揃って頭が良い。リーダーシップも抜群だ。学校内で、インテリ兄弟の異名も付けられている。
……そんな彼らと、僕はある事件をキッカケに関係を持つことになった。その事件から、彼らは僕の才能を買って、定期的に事件解決の依頼を僕にするようになっていったのだ。とてもとても、恐れ多いものなのだが。
翔。明日。放課後。多分、事件。
僕は席に戻って、それらの単語を頭で反復させながらじっと、手を見つめた。
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