第23話 人格4-①

 ジリリリリリリ

 カチッ


「朝だあああああああ!!!」


 僕は腕を上げ、勢い良くベッドから飛び上がった。部屋を出て、階段をリズム良く降り、一階の洗面台へと飛びつく。

 僕は『喜』。いっつもハッピーで、元気満点少年! 学校に行くのが毎日楽しみなんだ!

 あ……毎日、なのかな……。なんだか僕、本当は毎日学校に行ってないみたいなんだ。日付を確認すると、いつも日が飛んでいる。僕に、学校を休んだなんて記憶は無い。なのに、どうして……?

 前に、病院の精神科に診てもらったことがあった。流石にいつもハッピーな僕でも、少し緊張した。でも、その時は何の問題も無いと言われた。だから、僕の頭がおかしくなった、なんてことは無い筈なんだけどなあ……。

 僕は朝食のコロッケにかぶりつく。うん、やっぱり美味い。向かいに座る母さんの顔もいつも通り、にこやかだ。

 平和だ。僕はこの生活の一つ一つの場面を、とても幸せに感じている。


「続いてのニュースです。昨日、深夜二時頃、化学会社『プロミス』の下請け会社である『カワゴエ・コーポレーション』に、霧雨レインが侵入しました」


 ……また、霧雨レインだ。僕はテレビの画面を睨んだ。ハッピーな僕でも、彼のことは知っている。何てったって、彼は超の付く大悪党だから。


「警察の捜査によりますと、霧雨レインは、『プロミス』についての重要な資料書類を一部、窃盗した疑い。霧雨レインの行方は、今も捜索中です。……今回の事件について、『プロミス』の社長、田中甚五郎氏はーーーー」


『彼は我が社にとって、場合によっては大きな損害をしかねない、それ程大きな情報を盗んで行きました。許されることではありません。早く自分の罪を


 カチッーーーーーーーー。』


「あっ」


「え?」


 僕はチャンネルを変えていた。霧雨レインの報道に、嫌気がさしたからだ。でもその瞬間、母さんが声を上げた。


「変えない方が良かった?」


「……いや? 別に、そんなんじゃないけど」


 何だ? どうした母さん。ま、いいや。神経質にはなりたくないし。母さんはそっとしておこう。

 僕は学校に行く準備をして、玄関で靴を履く。チラと横を見ると、色々な小道具が詰め込まれた、大きな段ボール箱が目に入った。

 何だ? これ?


「母さーん! これ何ー?」


 僕の言葉を聞きつけて、母さんがリビングから廊下にひょいと顔を出す。


「ああ、文化祭の劇の小道具よ」


「文化祭……あ~!」


 なるほど。母さん、用意してくれたのか。気前が良すぎるなあ。

 僕は時間に余裕があったので、箱に入っていた剣やら盾やらを手に取って、そのカッコ良さに見とれていた。

 不意に、視界の端で何か変な物が見えた。


「ん?」


 段ボール箱の底に、銃があった。僕はそれを、手を伸ばして取ってみた。

 こんなの、劇で使う予定あったっけ?

 僕がマジマジとその銃を見ていると、


「なーんだこれ」


 母さんがいつの間にか横で、僕が持っていた銃を取り上げた。


「メモに書いてないモン混ぜちゃったみたい。ごめんね、透ちゃん」


 僕が呆気に取られていると、母さんは銃口を僕に向けて、「バーン」と、撃つフリをした。

 そうして、銃を持ってリビングの方へと帰る母さんの背中から、僕は目を離せずにいた。

 何だろう…………なんか、変だな。


 ま、いっか。ちっぽけな事でいちいちツマづいていちゃ、駄目だからな。

 僕は若干、いつもより重く感じた玄関の扉を開け、学校に向かった。

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