第14話 サンダー

 レイン・ラウディ班



 プロミス社最上階。極秘な部屋だけが並ぶ階に2人、息を殺して潜入する。レインが先に、そしてラウディは後ろからついていく。横に並ぶと二人ぐらいしか通れなさそうな、幅の狭い廊下を進んでゆく。窓から顔を覗かせる満月が、その真っ暗な階ごと、2人を照らしていた。

 2人は、「社長室」と書かれている扉の前まで来た。レインが、後ろにいるラウディにアイコンタクトを取る。ラウディの顔は、しきりに険しい顔つきになった。レインは黒い手袋でそのドアノブを捻る。そして、顔の半分をドアから覗かせて、中の様子を窺った。……おかしい。そう感じたレインの顔が歪む。


「おい、レイン。どうした?」


 ラウディは小声で聞いて、その部屋の入口の前まで身体を伸ばした。


「……!! おいバカっ! そこまで出るなっ!!」


 レインが慌てる。

 社長室の奥、社長がいつも座っているであろう椅子に、誰かがいる。椅子は後ろを向いていて、頭が背もたれの部分からしか見えていなかったが、人が座っていることは、誰にでも分かるものだった。ラウディも、それを確認出来た。

 ゆっくりと、椅子は回り出す。ラウディの後ろの窓の月光が、その人物の正体を明かしていく。

 ラウディは、目を疑った。



「やあ、御機嫌よう、レイン一行」


 ズバアァァンッ!!!


 稲妻が、その人物の手から放たれた。ラウディは、紙一重でそれを躱す。


 ガシャアアン!!


 その稲妻は、ラウディの後ろにあった窓を割った。


「クソっ! やっぱり〝サンダー〟か!!」


 稲妻を見たレインは確信した。社長室の椅子に座っていた人物は、『サンダー』。サンダー刑事だった。


「ああ! でもっ、何故ここがっ!?」


「知らんっ! 今すぐ武器を外せ!! ラウディ!!」


 2人はその社長室から逃げ出した。コートの中から武器を捨て、廊下をドタドタと荒々しく駆け抜ける。その後を、サンダーは追いかけていった。


 サンダー。職業は刑事。担当する事件は主に、〝レイン〟に関するものだった。レインを追い続けて早8年。レインも彼の存在を認知しており、警戒している。世界を転々とするレインを、サンダーはしつこく追い続けていた。

 最初は、レインはあまり気にしていなかった。敵じゃない、と思っていたからだ。そこら辺の刑事と同じ力量だ、と甘く見ていたのだ。

 だが彼は違った。


 ズバアァン!!


 稲妻は休むこと無く、プロミス社の中でレイン達を追い続ける。武器を捨ててしまったレイン達は、ただ下の階へと逃げて行くことしか出来ない。……サンダーに金属武器は通用しない。稲妻の通路を、逆に作ってしまうのだ。


「逃げても無駄だ。もうお前らを包囲する準備は出来ている」


 サンダーの、低い、渋い声が廊下に響く。


「おい! レイン! 奴を追い払えよ!! お前なら出来るだろ!?」


 ラウディが逃げながら、レインに問いかけた。


「生憎、今日は攻撃的な物を持ち合わせてない……! 全てアジトだ!」


「そんなぁ……!」


「だが……この窮地から脱却することは、十分に出来るぞ……?」



 レイン達が逃げ込んだのは、ある階の行き止まり。もう、サンダーの足音もすぐそこまで来ていた。引き返せない。


「はァ……! 終わりだ……」


 不敵な笑みを浮かべたサンダーが、手を2人の前にかざす。


 ズバアァァンッ!!


 サンダーは満悦に浸りながら手を下ろす。……いない。さっきまでそこにいた、標的の2人はいなくなっていた。

 サンダーはその2人が立っていた場所まで駆けつける。ふと、通路の横に目をやると、割れている窓があった。サンダーは慌ててその窓から顔を出し、下を覗いた。とても、人が飛び降りたらひとたまりもない高さだった。


「……クソ……!」


 サンダーはその場から離れ、下の階に向かって走り出した。無線機を取り出し、部下に連絡を入れる。


「至急、計画通りプロミス社を包囲しろ」


「はっ!」


 ーーーー

「だから、レイン、早く引き上げないと駄目よ」


「分かった」


 ブツッーーーー。


「案の定、警察が動き出している。早く終わらせよう」


「ふーむ……。あっ、レイン、これ、探してた物じゃね?」


「……! でかしたぞラウディ! ……やっぱり、


 社長室は情報が豊富だなあ……」

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