第13話 リオン can…

 リオン・スノウ班


「ラウディさんの作った地図によると……」


 リオンは、ラウディから貰った地図を広げる。指をなぞらせ、今自分のいる位置を探る。1階の受付の前、薄暗闇の中に、リオンとスノウの2人は立っていた。


「……おじさん? 早く指示出してよ、ボク、地図とかよく分かんないから」


「待ってな」


 リオンの指は、1階のドーナツ状の地図の下の方から、上の方へと移ってゆく。今の位置からちょうど半周した場所、そこに中庭への入口があるとリオンは聞いていた。


「この受付から二手に別れて、半周したところで合流しよう。見張りとかには気をつけて」


「んっ、はーい」


 リオンは、左、スノウは、右へと走り出す。

 道中、災難があると思われたが、2人は意外と、なんなく合流出来てしまった。そして、その2人が落ちあった通路の横に、一つのドアが立会人のように居合わせる。


『関係者以外立ち入り禁止』


 リオンの目に、赤い枠に書かれたその文字が映った。

 リオンは確信する。このドアが、中庭に続くモノだということを。


「開けてみよ……」


「絶対鍵かかってるよね」


「……」


 リオンは、またもやるせない気持ちになった。

 ドアが開くか、確認してもいいじゃん。鍵掛かってるって、決めつけるのも分かるけど。開くかもしんないじゃん。と、心の片隅で、少年リオンが叫ぶ。大人のリオンはその本心をそっとなだめて、「そうだな……重要な場所だからな……」と、スノウに返事をした。

 2人は、膠着状態に陥る。静かに息を潜めて、どれくらいの時間が経っただろう。

 リオンは冷や汗をかき始める。レインとの大仕事。ミスは許されないと誰が言った訳でもないのに。リオンは、自分で自分に圧力をかけていた。


 突然、リオンは目を見開く。目の中が、青色に輝き始めた。その眩しさに、スノウは目を細めた。


「お、おい! どうしたんだ? おじさん!」


「……来る」


「え?」


「ここに、人が来る」


 リオンには何かが見えていた。最初は下を向き、次に天井を見上げる。


「……うっ!」


「おじさん!?」


 途端に、リオンは強く目を閉じて、頭を抑え、壁に倒れ掛かった。獣のような呻き声を出している。


「おじさん、場所を移るぞ!? 人が来るんだろ!?」


「ああ、レインさんたちじゃ……ない……」


 スノウはリオンに肩を貸し、その場を離れる。リオンを壁に持たれかけて座らせると、スノウは質問し始めた。


「見えたって、なにが?」


「……はァ、『ルート』だ。」


「『ルート』?」


「はァ……ふぅー……。俺の、能力みたいなものだ。人の行く道、それと、取る行動が読める。それが、誰によってされるのかもだ。……エレベーターから、おそらく警備員が出てくる。俺の足下に、奴の『ルート』の線が引かれていた。」


「……!!?」


 スノウには、予想もしなかった出来事だった。音で誰か来るか分かったとか、そういうものだと考えていた。彼を小馬鹿にしていた自分を、スノウは少し嫌悪した。

 スノウは立ち上がる。


「リオン……、ここで休んでて」


「ん、……あぁ」


 スノウが、エレベーターの方へと走り出す。

 リオンの遠くで、チーンという音と同時に、根太い、「うぉっ!?」という声がする。


 ドスッ! バタァンッ!!


 重々しい音が、通路に反響した。


 タッタッタッ。


 スノウが無邪気に、楽しそうに走って、リオンの元へ戻ってきた。


「リオンの言う通りだったよ! 警備員がいた!」


 腰を下ろしているリオンに、スノウは膝を曲げて顔を覗いてきた。満面の笑みである。


「あと、これ! じゃん!!」


 スノウはリオンの目前に、一つの鍵を突き出す。


「これ……は?」


「……地下室の鍵だよ……」


「お……おぉっ!?」


「リオン、休む暇ないよ。レインに迷惑かけちゃうから」


 スノウはリオンに手を差し出した。リオンも気を入れ直して、その手を取った。

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