第12話 プロミス社侵入作戦

「この作戦の目的は、プロミス社地下内部の把握、及び、対地球契約についての情報の入手を目的とする。それ以外の身勝手な行動は厳禁とする。


 各人員の役割について


 レイン・ラウディ

 →最上階から地下潜入までをルートとした動き。情報収集が目的。


 リオン・スノウ

 →1階から潜入し、地下への出入口確保。


 恭子

 →外で見張りを続け、随時、状況を連絡。


 サニ

 →近くの海で釣り。


 作戦実行は明日の夜11時とする。

 各自、自分の役割を把握した上での準備をすること。


 ーーーー以上。」



 レインが打ったそのメールの文面を、片手に持ったスマホから見るサニ。そのもう片方の手には、釣竿が握られていた。

 サニは、今までに無いくらいの不満に満ちた形相であった。


「おかしいよ、これ絶対。何? 釣りって。意味無いよこんなの……!!」


 ブツブツ愚痴をこぼしながら、夜の港の堤防に座り込む。後ろを向くと、高くそびえ立つプロミス社が見ることができる。

 サニは3000円の、2メートル程ある釣竿を乱暴に振っていた。ここに来る前レインは、サニが買ったこの釣竿を手に取り、ベタベタと触ったあと、「あっ、いいね(笑)」とだけ言い残して、自分の持ち場につきに行った。

 サニは今、非常に苛立っている。


「早く終わんないかな……」


 サニは、灯台に照らされる海の向こうの地平線を、ただただ眺めているのであった……。



 レイン・ラウディ班


「こちら、ラウディ。屋上に到着。どうぞ」


「はーい! 分かったよラウディ!」


「分かったよ、じゃない。スノウ、そっちの状況はどうなんだ?」



 リオン・スノウ班


「入口の警報は全部壊したし、一人いた係員も眠らせたよ。」


「……!」


 リオンは度肝を抜かれていた。

 この日、リオンは初対面の、スノウと名乗る小学生のような少年と行動することになっていた。その少年はプロミス社に入るやいなや、入口の警備員を速業で倒し、倒れた警備員の上にあぐらをかいて座ったのだ。監視カメラも、リオンが遅れて入った時には壊されていた。

 彼は一体何者なんだ……!?

 リオンは口をあんぐりと開く。


「あっ、じゃあまた後で合流ね、気をつけて~」


 スノウは無線機の電源を切る。


「き、君は一体……?」


 リオンは、その少年に恐る恐る聞いてみる。


「シベリア生まれのただの少年さ」


 スノウは答え、立ち上がり、リオンの方へ歩み寄る。


「両親がいなくってね……ある日雪山で遭難していたら、レインに会ったんだ」


 スノウは軽く、流暢に話したが、リオンにはあまりにも唐突で重すぎる話だった。リオンは、少年がレインに会うまでの生活がどのようなものだったのか、不憫に想像してしまった。


「レインはボクのお父さんみたいな人さ! ボクの業は全部レインに教えられた……」


 スノウは、おもむろに自分の手を見つめる。彼の手はその年相応の可愛らしい手ではなく、年季の入った、ごつくて頼もしい立派な手であった。

 突としてスノウはリオンを睨む。


「てか、おじさんのせいでこんなに焦っちゃったんだからね? プロミス社に着くまで、なんでこんなにも迷うのさ!?」


「えっ……! あっ、ごめん……」


「レインもこんな弟子貰って大変だよねえ。おじさん、何を教わってきたの? 身体能力も知能も、ボクより低そうだし」


 リオンはグウの音も出ない。リオンは、屈辱を味わうと同時に、そりゃレインさんに長年育てられた人には敵わないよ、とも思った。


「まあいいよ。足、引っ張んないでね」


「わ、分かった」



 レイン・ラウディ班


「さて……」


 ラウディは無線機の電源を切る。

 黒いジャケットに身を包んだ男二人が、プロミス社の屋上にひっそりと佇んでいる。


「さすがに高ぇな、ここは」


 ラウディが、屋上からの街の景色を凝望する。


「ラウディ、長居は出来ない。早く準備しろ」


「はいよ」


 レインとラウディは、持ってきたリュックや鞄の中から武器を取り出し、黒いジャケットの中に隠していく。


「最初から気を引き締めて行くぞ。立ち入り禁止だった、最上階から……」


 ラウディは、レインのその言葉を強く了解した。

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