第10話 ラウディの情報

「何だこのイカれた書類は!?」


 ラウディは書類を読み終わると、すぐさまレインに問いただす。


「君がおふざけで作った物じゃないよな?」


「ラウディ、そんなわけないだろ。純粋な目で見てみろ」


 そう言われても、真に受けることなど出来ないのがこの書類の特徴。ラウディはまた書類を読み直すが、目が泳いでいる。


「まず、何だこの責任者の名前は……」


 やはり、誰もがまず〝そこ〟に目が行く。

 リオンが、横から口篭って言う。


「〝アキレスケンザブロウゴエモンパ〟……ですかね」


「……。ここで、もう9割ほど読む気が失せたよ。内容はもっと受容しがたい物だったけど」


 ラウディが書類から目を離し、レインを見る。顔に厳格さを持って、


「レイン。お前はこれを読んだとき、いや、知ったとき、どう思った? ……どう捉えた?」


 と、問いた。レインは身体の向きを少しラウディの方へ動かし、答えた。


「やっと……その時代が来たんだな。って、思ったよ」


「レイン……。本当、なんだな……」


 二人は、真剣な眼差しで見つめ合う。リオンには、二人のその会話が何のことだか分からなかった。

 ……………。



「……さて、見せてもらおうか。ラウディ。プロミスの社内地図を」


 ラウディは、イスの足元に置いておいたアタッシュケースを、カウンターの上に置いた。そして鍵を開けると、中には赤い布と、その上にラミネート加工されたプロミス社内地図が3枚に分かれて入れてあった。ラウディはそれらをカウンターの上に出し、並べながら話す。


「1階から5階までは、同じ構造だ。玄関から入って、右側、左側に通路が伸びている。正面がすぐ受付で、受付の後ろは壁だ。……プロミス社を真上から見ると、ちょうど円の形になっている。さっき言った右側、左側の通路は、やがて一本道として繋がることになっている。その通路の脇に、それぞれ部屋が配置されてある。1階毎に、7部屋ある。受付の右横の階段から、2階に上がれるようになっていて、そのまた右横にはエレベーターがある。エレベーターはここともう一つ、円の対称にあたるところに一つある。5階から20階までは、円の真ん中を空けずに、普通のオフィスのように建てられている。5階からは、部屋が4つずつ、階段も4つ、エレベーターも4つずつあった。ただ、途中で、食堂やホールなどがある階もある。最上階は立ち入り禁止で入れなかったから、どうなっているかは分からない」


 リオンが不思議そうに聞く。


「あのビル、東京じゃ結構高い方なのに、階数少ないんですね」


 ラウディは静かに頷いて、また続ける。


「で、だ。レイン。お前が求めているのはこんなんじゃないだろう?」


「……」


 レインは、その問いかけをあまり気にもせず、並べられた地図を手に取って熟視している。

 ラウディは続けた。


「1階から5階まで、社内は円の真ん中を囲むような構造をしていた。でも、その上の階からは円全体に部屋や通路を配置している。……つまり、中庭のような存在が、通路の内側に出来ているんだ」


 レインの手が止まる。ゆっくりと顔を上げ、ラウディを神妙な面持ちで見る。


「当然、調べたさ! ……そして見つけたよ。思った通りそこには中庭があって、……そして、地下を見つけたんだ」


「まさか……」


「ああ、レインが探していた、……科学員たちの実験室さ!!」


 瞬間、レインはニヤケ出してしまった。ラウディの働きで、最高の収穫が得られたことに、心の中で静かに歓喜した。


「実験室は見つけたけど、内部は詳しく調べられなかったし、何をする所か分からなかったが、でもまさか、その地下でこのふざけた計画を立てていたなんてな……」


「ラウディ……でかした!!」


 レインは、報酬金が入っている封筒をジャケットのポケットから取り出し、ラウディに渡した。ラウディの目が、その封筒とレインの顔とを往来する。ハッ、とラウディは笑う。


「いけ好かねぇな。」


「……当然の報酬さ。また連絡する。リオン、帰るぞ」


「あっ、はいっ!」


 店を出て行くレインの元へとリオンはついて行く。

 リオンがドアを開け、店の中を振り返ると、座ったままのラウディが手を振って見送っていた。

 リオンはまた、深く会釈をした。

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