僕たちは天才になれない

餅つき

第1話 授賞式

 肌寒い1月の半ば、週刊ヤングシャンプーによる新人賞授賞式が都内の某ホテルにて開催された。

 たくさんの著名人や編集者さんが集まるなか、年齢22歳、寝癖のついた髪の毛にしわくちゃの黒いスーツをまとった、冴えない顔で佇んでいる岩城 敬斗という男の姿がそこにはある。

 俺は17歳の時にこの新人賞を受賞し高校生にして漫画家になり、その後も勢いは止まらず3つの大賞を手にした。ちなみにデビュー作(新人賞作品)の発行部数は、現在5800万部を突破していて、月間ランキングでは8ヵ月連続1位を獲得している。 

 色々な賞を獲得しているわけだが、どうもこの壇上に立つと緊張してしまう。

 緊張をほぐすために手に人と書いて飲み込むという方法があるのだが、実際効果があるのかは分からない、そこで当時俺が行った策としては緊張する原因から意識を背けることだ、特にアニメの面白いシーンだとかは結構有効的だ。

 そんなことを思っている間にも司会者は順序よく話を進めて、本日の俺にとって最大の難所に突入する。

「では早速先生方からお祝いの言葉をいただきましょう」

 司会者の言葉と同時に隣にいる編集長へとマイクがながされる。

今回の新人賞は俺が作家審査員を担当している。当然作品に対してコメントをするのだが正直この作品の内容を覚えていないと言うか普通すぎて印象にないと言うか、要は何を言おうか悩んでいるということなんだが、これが難所である理由なのだが――

「次は岩城先生お願いします」

 え、もう俺の番か、ここは厳しめにコメントすることによって……いや、編集長は褒めていたしホントはというか実際は俺がこの物語をわかっていないだけかもしれないから、ここはべた褒めでいこう!!


 10分後


「審査員の方々ありがとうございました、ご着席下さい」

 司会者がそう言い終わると編集長から順に席へと戻る。

 席についた俺は「ふぅ」とため息をついた

 なんとか難所を切り抜けることに成功した結局褒めて正解だったな、もうここからは自由だから――

「兄さん、私約束どおり受賞しました」彼女は笑顔でそう言った。

 聞き覚えのある透き通った声に金髪ロングでスタイルも良い、さらに顔も整っている一般的な理想の女の子て感じだけど確か今回の新人賞を受賞した人?

「え、っと確か黒羽リリアさんでしたよね、おめでとうございます。ところで何かようですか?」

 多分間違いだろう、俺のことを「兄さん」て呼ぶ人なんて……妹ですら呼ばないのに

「兄さん、忘れてないですよね? 中学生の頃約束しましたよ。漫画家になった暁には二人で暮らすってね!!」と彼女は笑顔でこちらを見ている。

俺はそんなこと知らないというラノベ主人公的スキルも無いため、しっかりと思い出してしまう、名前と容姿でなんとなく察しはついていたがいたるところが成長を遂げていて正直驚いている。

 数年ぶりの再会でほんの少し嬉しい気もするが、「兄さん」と呼ぶ癖はあの頃と変わっていないのでプラマイゼロだ。

 それにしても俺でさえ忘れかけていた約束をよくもまぁ覚えていたこと

 でもあの約束は冗談半分って訳でもなかったような気がするし、ちなみにリリアには冗談も通じないからな……

 現実的な理由だったら引き下がってくれるだろうか? 

 別に美少女との同居は嫌じゃないが、リリアには会わせたくない奴が俺の家に住んでるからな、こうなったら現実的な理由を突きだして諦めさせるしか方法がない!

「でも親の許可とかも必要じゃないかな? 18歳のリリーでもさすがに……さ?」

 よし、親の許可作戦これは効いたんじゃないか!

「あーぁ、それなら大丈夫です。親には編集部の近い東京に兄さん(俺)が住んでるから一緒に暮らすことにしましたって言ったらそれなら心配いらないわねって」

「いやいや、全然大丈夫じゃないから一応、いや男だから俺は!!」

 俺は健全な男の子なんですけど、さらになんで妙な信頼感を得てんだよ! もう親には話がついてるってことかやっぱり段階を飛ばしまくっている。

「だから兄さん明日には引っ越しの荷物が届くと思いますので、私もやりますがよかったら手伝ってもらいませんか?」と聞いてきたが何故かリリアの笑顔に圧されている気がする……。

 ここで負けてしまってはダメだ、家には会ってはならない人がいるんだ! 

 けれどそれは想像の話でもある、要は会ったらヤバい展開いや修羅場になりそうということなんだ、これをリリアが乗り越えられるかが問題視されているわけで……

「唐突だがリリアが俺の家に来て女が居たらどうする?」勘違いはしないでほしい、あくまで彼女とかそういうのではなくただの女の同居人ということで理解してくれ

 するとリリアは呆れた表情を浮かべ「仮にそういうことがあったとしてもそれは兄さんの彼女ではないでしょうし、別に問題ないです」とまぁここまで動じないということは、この問題はクリアしたということでいいのか? 俺の彼女ではないと見抜かれてるところが少し傷ついたんだが

 そのあとリリアは「結局兄さんの家に住んでいいのですか?」と聞いてきたが断る理由もなく、しょうがなく、仕方なくOKしてやった。

 するとリリアは数秒ぶりに笑顔を見せた。

 もう修羅場になったとしても仕方がない俺は警告したんだ! そう脳内で呟いたあと、さっきの返事を返した。

 正直リリアの父さんには親父が世話になっているしこれも俺への好感度を上げる一つのいい機会だろう

「じゃあ、私はこの辺で、挨拶周りしないといけないのでじゃあまた明日兄さんの家で会いましょう」そう言うとリリアは手を振りながら別のテーブルに移動した、俺も一応手を振り返す。

 リリアと会って数分くらいだが、だいぶスタミナを消費した気がする、知り合いといっても久しぶりに会ったことだしやはり俺の女性への苦手意識は直っていない

 今日は晩飯いらないってあいつに言っちゃったしな、家でカップラーメン食べるのも不健康だしこの会場で済ませるしかなさそうだな


その後彼の食いっプリにより一名を除き多くの人が引くことになった

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