第二部:第三章 ラスボスVS徹!

俺は机を跳ね上げながら転校生――ブラスにそっくりな元ラスボスに向かって叫んだ。

「ふっ、偶然だな融合者よ」

「何が偶然だ!? 思いっきり故意だろうがこの無表情生命体がぁぁぁ!!」

「ぴゃあああああああっ!? ご、ごめんなさい、ごめんなさい! やっぱり先生が悪いんです! 地球が回転してるのも太陽が暑いのもセミが七日で死んでしまうのも全部先生が悪いんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

「大自然とは大きく出ましたね!? いや、そんな場合じゃねぇ!」

俺はブラスタの首根っこを掴まえて教室を飛び出した。

後ろからは「竜ヶ崎がまた転校生を拉致したぞ!」「みんな、この日の為の特訓を思い出すんだ! 具体的には人体の急所を!!」「徹さん、私も行きます!」

などと、深く考えるのはとても怖い声が聞こえたが、今はとにかく無視して俺は手短な空き教室に飛び込んだ。

「一体、何してるんだテメェは!?」

「もちろん、悪役だ」

誰もいない空き教室で思いっきり顔を近づけて凄む俺に、しかしブラスタはいつもの無表情で平然と答える。

「そして何故かと問われれば転校してきたからだ、融合者よ。悪役がヒーローのいる学校に謎の転校生としてやってくるのはお約束だろう」

「タダ飯喰らいの居候が何を言ってんだ! あと宇宙の高校からでも転校してきたっていうのか、アア!?」

早口のあまり巻き舌気味になりながら詰め寄る。だが、ブラスタは「まぁ、落ち着け」などと言いながら俺の肩を叩いた。

「良く聞け、融合者よ。これは我々にも理由があってのことだ。決して冗談などではない」

「冗談のほうが遥かにありがたかったけどな……っ!」

「いいか、我々は前回、全てを賭けた最終決戦に破れた。そしてここ数週間は新たなるアジトに潜伏していた」

「人の家を勝手にアジトにするんじゃねぇよ」

「そこで我々は第二期に備えて様々な準備を行っていた。具体的には新しいシルエットの構想や衣装のバージョンアップ、悪役らしい台詞のパターンと決めポーズの練習などだ。だが……ある時、我々は重大な事実に気付いたのだ」

「事実……?」

俺が尋ねると、ブラスタはじっとこちらを見つめた。そしてどこか真理を得たような瞳でこう叫ぶ。


「一人は――暇だと!!」


「…………」

「母と融合者は朝早くでかけてしまうし、融合者の姉も昼ごろには大学とやらへと出かけてしまう。撮り溜めておいた特撮もアニメももはや全て消化してしまった」

「…………で?」

「我々は新たなる暇つぶし……もとい、悪事を行うために次のプランへと移ることにした。そう、かつて母が正義の味方として行ったことと同じ学校への潜入を」

「どうしてそうなるんだよ!?」

「決まっているだろう、融合者よ。新たなる悪事を行うための布石だ。以前の我々は自らだけで事を起こそうとした。しかしそれではみんなが出番を欲しがって会議が先に進まない……もとい、手軽に使える駒が足りなかったのだ。故に我々はこの学校を裏から支配し、生徒会や不良たちを手軽に使える駒として育成することにしたのだ」

「駒って……具体的には?」

「そうだな、まずは学校にいる不良の統率から始めるとしよう。彼らを取り込んで常に学校に来るようにさせ、生徒会長に立候補し手実験を握り、ゆくゆくは教員達の個人情報である悩みなどを聞いて彼らのストレスを解消してやろうと思っている。クックック、我々がいなければ安心して学園生活を送れないようにしてやるのだ」

無表情ながら熱っぽい声でブラスタが語る。

その話を一応、最後まで聞いた俺は大きく息を吐いた。そして、にこりと多分俺の人生の中で一番といえる笑顔をその顔に浮かべて。


「帰れ。今すぐに」


と、外を指差した。

「何故だ、融合者よ」

「心底わけがわからねぇって視線を向けるんじゃねぇよ!? いいか、俺の私生活はどこかの正義馬鹿とワル者馬鹿で手一杯だ、お前に構ってる余裕は無い!」

「ふっ……甘いな融合者よ。正義の都合を考える悪がどこにいる」

ギリギリと歯と胃を鳴らして叫ぶ俺に、しかしブラスタはどこか小馬鹿にしたような視線を向けた。

……そうかそうか。そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ。

「おい、ブラスタ。最終通告だ。今すぐ家に帰って大人しく昨日借りたDVDでも見てろ」

「あれは昨日の夜中、母と三度ほどマラソンした。やはり光の巨人は素晴らしいな、欲を言えば闇に堕ちた巨人がもっと活躍するシリーズがあれば最高なのだが」

「つまり、俺の言う事を聞くつもりは無いと」

「そう言っているだろう」

「そうか。なら俺もお前の都合は考えねぇ……明日からお前の分のおやつはなしだ」

「なっ……!?」

その瞬間――今までずっと無表情だったブラスタの顔に明らかな動揺が走った。

「戸棚のせんべいもポテチも没収だ。もちろん大学芋もな」

「だ、大学芋までだと……!? あんなに甘くておいしいのに、融合者よ、お前は悪魔か……!? だ、だがその程度で我々が怯むわけが」

「怯みまくってるじゃねぇか。ああ、あとお前が録画してあるアニメも全部消去するからな。これからは教育番組とニュースだけを見ろ」

「それでは宇宙の法則が乱れる……! ふっ、さすがは融合者。我々が見込んだ真の悪役だけはある……!」

「失礼な。ついでに夜更かしも止めさせるか。深夜番組もやめて朝早く起きろ。俺と一緒にランニングだ」

「融合者は二度寝するあの至福を知らないのか……っ!? し、しかし我々とて元ラスボス、こうなれば学校の支配を今すぐにでも実行して――」

「んなことしてみろ、晩飯のハンバーグは抜きだからな」

「――っ!!??」

遂に放たれた止めの一言にブラスタはその目を見開いた。

「もちろん、デザートのプリンも無しだ」

「ば、馬鹿な……」

そしてがくがくと震えると――ゆっくりとその場に崩れ落ちる。

ふっ、勝った。

これが正義の力だ。

「よし、そういうことで決まりだな。おら、とっとと家に帰れ、そしてそして宅配便も新聞勧誘も無視して引き篭もってろ」

俺は崩れ落ちたブラスタの首根っこを掴んで持ち上げると、学校の玄関に向かって歩き出す。

しかし、ブラスタは猫のようにぶら下げられた状態のままちらりと首だけをこっちに向けて俺を見上げると。


「……………………我々も学園生活を送りたいぞ、融合者よ」


と、呟いた。

その瞬間、何故か俺の脳内に『雨の日にダンボールに入れられて捨てられた無垢な子猫』の映像が過ぎる。

「あのな、そんなの駄目に決まってるだろ。お前も元ラスボスならもっと往生際を弁えろよ」

「…………」

「いいか、俺だって色々と手一杯なんだよ。主にブラスとか鬼龍院とかあと友達が出来ないこととか顔で怯えられるとか色々と問題が山積みでな」

「…………」

「……だからな、俺にも都合ってものがあって、さすがにお前の面倒まで見てられないっていうかこれ以上はキャパシティ的に無理だっていうか、最近胃が痛くて病院に行こうか迷ってるっていうか、その、だな……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………………………………………………………………………好きにしろ」

正義は敗北した。

がくりと逆転満塁ホームランを打たれた投手のようにその場に崩れ落ちる俺の姿に、ブラスタがぱぁぁぁぁぁっと、その目を輝かせる。

「では、融合者よ。我々はここに通ってもいいのだな?」

「……ああ」

「母と同じように毎日のお弁当も作ってくれるのだな?」

「一人分増える程度なら問題ねぇよ」

「我々と共に銀河を制服する悪役になってくれるのだな?」

「ねぇよ」

どさくさに紛れて何を言ってんだコイツは。ていうか、まだ諦めてなかったのか……。

「むぅ、仕方が無い。だが、我々はこれで新たなるアジトを手に入れた。これは地球を狙う悪にとって大いなる一歩だ」

「随分と小せぇ一歩だな」

多少の文句をこめて言ってやるが、既にこれからの学園生活に瞳を輝かせたブラスタには届かない。

ったく……こいつといいブラスといい、やっぱ人間の姿ってのは卑怯だな。

「おら、そうと決まったら教室に戻るぞ。あと、登校するのはいいが余計な面倒を起こすんじゃ――」


「よかったですね!」


その瞬間、がらっと勢い良く扉を開いて、アホ毛を振り回したブラスが飛び込んできた。

「ブラス!? お前、いつからそこに!?」

「何してんだ、テメェは、辺りからです」

「ほぼ最初からじゃねぇかよ!」

いつの間にか覗き見していたらしいブラスは、怒鳴ろうとする俺を無視してブラスタと嬉しそうにハイタッチを交わした。

「よかったですね、ブラスタ。これで一緒に学園生活が送れます!」

「うむ、これで地球を絶望と恐怖に陥れる計画が進んだぞ、母よ」

「やっぱこの場で成敗しといたほうがいいんじゃねぇのかコイツ?」

「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたが、正義と優しさに満ち溢れた徹さんならきっと許してくれると信じていました!」

「本気か?」

「はい! 具体的な数値に換算すると一割五分ぐらいです!」

それはほとんど信じてねぇじゃねぇかよ。

「それに、断ったらあの方達が」

そう言われて振り向くと、そこには武器を構えたクラスメイト達の姿が。

「よかったねブラスタちゃん」「ハッピーエンドこそ俺たちが目指すところ」「でもこの手榴弾余っちゃったねー」「ロッカーに入れておけば? 腐るものじゃないし」「ちっ、大義名分が一つ消えたか……」「お前ら、本当は何者だよ!?」

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超機英雄ブラス×トール! 十影 @tokage

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