第2話

前回のあらすじ。

少年、八重荘氏やえそうしは最特学園に無事入学そしてそこで、超然としたおじいちゃん口調の少女、月ヶ谷朝霞わちがやあさかに出会う―――

――――――――――――――――――――

朝、寮を出て、10分。真っ直ぐ歩く。

そしてそこにあるのは、最特学園。

広い校庭を抜け、廊下へと歩き出す。

そして、そこに居たのは―――


「!?!?!?」


数え切れない程の人。


「おい、聞いたか?あの『月ヶ谷わちがや』が…」


「いつ始まるんだ?」


「もうそろそろだって!」


おびただしい数の人間が、Sクラス前に集まっているのだ。そして入口は完璧に塞がってしまっている。


「おいおいおい、何なんだ!?」



「心配するでない、荘氏そうし。お主はそこで見ているがよい」



「あ、朝霞あさかちゃん!」


月ヶ谷朝霞わちがやあさか。謎のおじいちゃん口調の少女。彼女は何処からともなく現れて、荘氏に声を掛けた。


「皆の衆!ちゅうもーーーーく!!今から『入部試験』を始めたいと思う!」


「にゅ、入部っ?」


「そう。私がこれから作る、『善行部』!とにかく善行を積もうという、シンプルな部活だ!」


「そのセンス真似できねえ…」


まあ、しようとは思わないが。



「はっはっはっ!試験は至って簡単じゃ!バトルロワイヤル形式!場所は校内全部!制限時間、朝のHRが始まるまでの45分!最後に残った1人が部員じゃ!では、健闘を祈るぞ、始めっ!!!!!」



「うおおおおお!」


「オラァ!」


「沈めぇ!」


朝霞ちゃんの合図と同時に、試合が始まる。何だこれは。この1分間で状況が変わりすぎている。


「…………はぁ…俺の平和な日常が…」


「?どうしたんじゃ、荘氏。お主は特別に試験無しで入部決定じゃ!喜べ!」


入部………決定…………?


「………………………………へ?」


何を言ったかと思えば、ニュウブ?何それ?

新しい英単語ですか?


「何をそんな素っ頓狂な顔をしとるんじゃ、副部長にしてやるから、これから宜しく頼むの!」


「い…………いやいや待って!?俺まだ良いなんて一言も………!」


「ダメ…かの……?」


上目遣いでこっちを見つめてくる朝霞ちゃん。

嗚呼やめて!そんな目で俺を見ないで!!


「えっ……えっ……ええええー……」


壊れた機械のようにただ電子音を放つ荘氏であった。


「…ノー返事は肯定と受け取るぞ?」


「えっ」


「よし!今からお主は善行部の副部長じゃ!決まり!わっはっは!!」


自分勝手にも程がある。その言葉が良く似合う。美少女じゃなかったら今にも殴っている。


「はあ…わかったよ……やりますよー…」


まるでやれやれ系ラノベ主人公のような溜息をつく荘氏。だか薄々わかっていたのだ。朝霞ちゃんがどうしようもない暴れん坊JKだと。


「ではバトルロワイヤルが終わる前に色々説明でもしておこうかの。まず、活動内容じゃが―――これはもう説明したかの?」


あれを説明と言うのならば。


「『善行部』だっけ?とにかく善行を積むことって言ってたけど…」


「おおそうじゃ!よく分かってるではないか!はっはっは!」


「うん。まあそれしか言ってなかったからね。そりゃ覚えてるよね」


「では、内容は飛ばして、私の『スキル』の説明をしようかの」


「………………『スキル』?」


何を、言っているのだろうか。生まれてこの方15年、『スキル』なんて面妖なワード、ラノベやアニメでしか見たことも聞いたこともない。朝霞ちゃんはもしかして俗に言う『中二病』というやつではなかろうか。


「…?そうじゃ。スキルじゃ。私のスキルの名は『逆説的パラドックス』と言うんじゃが―――」


頭痛が痛い。なんて頭の悪い文が頭の中を駆け巡るほど―――意味が分からない。

いくらぶっ飛んでる朝霞ちゃんにしたって、冗談が過ぎている。


「ちょちょっとまって、朝霞ちゃん!その、『スキル』ってやつ何?漫画の話―――とか?」


「うむ?そんなことも知らぬのか?この学校に入学してるということは、何かしらのスキルがある筈だが―――まあ良い。口で説明するより、を見た方が早いかの」


?」


くいっくいっ、と朝霞ちゃんが自分の後ろを親指で指す。そこは、バトルロワイヤルの真っ最中であった。


「『飛んで火に入る夏の虫ファイヤーバグ』!」


ある生徒がそう言い放つと、何やら炎に包まれた虫のようなものが出現し、もう1人の生徒を薙ぎ払った。

勿論その生徒だけでなく、周りの生徒も何かしら異能の力を発していた。


「!?!?!?」


これが『スキル』。荘氏の今までの常識が、覆された瞬間である。


「ほら、そういうことじゃ。信じてくれたかの?」


「…………」


放心状態。人間は驚き過ぎると思考が停止するらしい。それを実感できた。いや、思考が停止しているのだから、感じてはいないが。それは、数分間続いた。


「おーい荘氏?大丈夫かの?」


「…はっ!ここは…ああそうだ、『スキル』…はは…信じるしか、無いか…」


最近、波乱万丈が多すぎて脳が破裂しそうな荘氏であった。それでも何とか正気を保てたのは、朝霞ちゃんなどの個性派たち故か。


「お主、結構な間棒立ちしていたぞ。じゃあ、本題に移るが―――っと、その前に、バトルロワイヤルがもう終わりそうじゃな」


「えっ…もうそんなに経ったのか」


「ふむ。誰じゃ?最後に残ったのは」


あの乱戦をくぐり抜け、最後に残った強者。そんな人が今現れるのかと思うと、荘氏は少し不安を感じた。


「〜♪」


何となく聞いたことのある音楽。懐メロと言うのだろうか。そんな鼻歌と共に、その男は現れた。


「はーい!バトルロワイヤルを勝ち抜きし男、1年Aクラス『新橋しんばしヨウ』とは俺のこと!宜しくお願いしまーっす!」


「………また随分と濃いのが…」


「いや朝霞ちゃんには言われたくないと思うよ」


鋭いツッコミを入れる荘氏。と、そんなことは置いといて、彼、ヨウは、少しおちゃらけた感じの男。よくあるチャラいというやつである。


「宜しく頼む。私が部長の月ヶ谷朝霞。朝霞ちゃんと呼ぶが良い。そっちの彼は副部長の八重荘氏じゃ。やえっちで良い」


「ねえ。それって俺が言うことじゃないかな?あとやえっちって何?センス無さすぎでは?」


「OK!朝霞ちゃん!やえっち!」


「お前も適合早いなおい」


perfect!なツッコミも終わった所で、話の続き。


「で、俺の善行部での役割はどんなん?」


「ふむ。どうしようかの。部長と副部長意外の役職は決めてないのだが―――村人Aで良かろう」


「本当にさ、ボケのレベルが高くない?ここぞとばかりにめちゃくちゃ詰め込んでくるし!」


「村人A!頑張ります!」


「だからお前は乗らなくていいんだよォ!」


「はっはっは。すまんのう。お茶目が出てしまったよ。でも…本当に決めてないから取り敢えず今は保留かの」


「了解了解ー。決まるまで待っとく!」


グッと親指を立てる。ノリ良し。性格に難アリ。まあ、楽しい生活は送れそうだ。


「ああ、そうじゃお主の『スキル』は何じゃ?」


「……スキル、か…」


正直、まだ完全には信じきってはいない。夢なんじゃないのかとも少し思う。でも、まさにこれは現実。それを思い知らされた。


「『変形する障壁メタモルバリア』って言うよ。見せてあげよう。はあっ!」


正に。バリアと言うべきものが、そこに現れた。どう見ても人工物とは思えない。


「……これが…なんかワクワクするな…!」


少しずつ耐性ができてきている荘氏であった。


すると突然―――


「ふむ…ていっ!」


ドゴォン!朝霞ちゃんが物凄い勢いでバリアを蹴った。

一瞬ヨウの目が変わったが、バリアは破壊されず、すぐに元に戻った。


「びっくりした…凄い音が鳴ったぞ…」


「すまんすまん。じゃが、合格じゃ。スキルも申し分無しじゃ!」


「…ふっ。まだ上があるって、言ったら?」


ヨウが不敵に笑う。まだ何かあるようだ。


「ん?ああ、良い良い。からのう。ちゃんと隅々まで見極めさせてもらった上での、合格じゃ」


ヨウの笑みに朝霞ちゃんはあっさりと返し、教室へと入っていった。

朝霞ちゃんは、どこか超人じみた様子で、いつも1つ上の次元から見ているような―――そんな佇まいだった。


「ふうん。面白い。やっぱり入ってよかったな、善行部。改めて宜しくね。やえっち」


「うん。今いい感じの雰囲気だったのにやえっちて言ったね。ぶち壊しだよ。まあ、宜しく。ヨウくん」


「呼び捨てでいいさ」


「…うん、ヨウ」


「…そう言えばさ、俺ちょっとやばいことに気づいたかもしれない」


「ん?どうしたんだよ、ヨウ」


「話に夢中で、朝のHRの時間も終わって、もう授業始まりそうな時間なんだけど」


「………………あ」


廊下は走っちゃいけません!

そう小学校で習ったのに。

今回だけは許してくださいよ、先生。


―――続く

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