中編
同じ日の夜、湖畔のとある合宿所には、その日も一部屋だけ明かりが灯っていた。
PPPのリーダー、ロイヤルペンギンのプリンセスが一人でダンスの練習をしている。他のメンバーが寝静まるこの時間も、彼女だけは練習を続けていた。
だが、その夜だけは明かりのない他の部屋にも動きがあった。
寝室。プリンセス以外の四人が眠っている中、コウテイペンギンのコウテイが突然むくりと起き上がり、部屋を出ようとした。
その物音に反応してか、彼女の隣で眠っていたイワトビペンギンのイワビーが目を開ける。
「ん? コウテイ、どうしたんだよこんな夜中に」
コウテイはその声に少し驚いたが、すぐに申し訳なさそうに返す。
「起こしてしまったか。……なかなか眠れなくてな。少し風に当たってこようと思ったんだ」
そう聞いた途端イワビーがにやりと笑い、飛び跳ねるように勢いよく起き上がった。
「そういうことなら俺も付き合うぜ。こっちも寝つきが悪いっつーか、落ち着かなくてよー」
「明日のトークライブのことか?」
「お前もか? やっぱ緊張するよなー」
二人がここまで緊張するのも無理はない。現在のPPPは、サバンナガールズとの記念祭以外に他のアイドルと共演した経験がなく、ましてやサプライズ付きのトークイベントなど初めての試みなのだから。ちなみに、今回の企画はすべてマーゲイの発案だ。
「……まったく。マーゲイも随分無理を言うようになったな」
「でよ、でよー。ちょっと耳貸してくれ」
イワビーはあきれるコウテイの肩を、やや強引に引き寄せた。今まで堂々と話しておきながら、わざわざ小声で話す必要などないのではとコウテイは思ったが、とりあえずイワビーの話を聞く。
「せっかくこの時間に起きてるんだから、ちょっと見に行こーぜ」
「見に行くって、何を?」
「プリンセスだよ。いつも俺たちより遅く寝てるだろ? きっと一人で練習してんだよ」
必死な姿を見られたくない、という理由は二人とも察しがついていた。だが、イワビーの好奇心にコウテイが押し負ける結果となり、二人は忍び足で部屋を出た。
誰にも気づかれずに合宿所を出た二人は、いつも使っている練習部屋の窓からこっそりと中を覗き込む。その視線の先では、広い部屋の一部だけ明かりがつけてあり、そこでプリンセスが踊っていた。曲に合わせているのか、かすかに鼻歌も聞こえる。
「あいつ、こんな時間まで……」
コウテイが感心していると、突然プリンセスが踊るのを止め、首を横に振った。どうやら自分の動きに満足できなかったようだ。
「私には完璧に見えたが、まだやるのか……」
「こりゃ、俺たちよりマーゲイに見られるほうが心配だな」
PPPのマネージャーでありファン代表でもあるマーゲイは、PPPのアイドルとしての面と同じくらい、彼女たちの表に出ない部分を好んで追いかけている。彼女がこの風景を見たら、間違いなくその場で卒倒することだろう。
イワビーがその様子を想像しながらできるだけ静かに笑っている時、コウテイは別の方向からの物音に気付いた。
「だが、あまり長く見るのも悪いな。私はもうしばらく外にいるから、先に部屋に戻ってくれ」
「おう! どっかのオオカミじゃねーけど、いい顔いただいたしな。今日はよく眠れそうだぜ!」
とてもこれから寝るとは思えないハイテンションだが、そこがイワビーらしいところでもあった。
「……さてと」
イワビーが合宿所に戻ったのを見てから、コウテイは音のした方向を睨んだ。
「まさか、マーゲイじゃないだろうな?」
彼女の睨んだ先、茂みの中から現れたのは、一人の黒い影だった。
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