第7話 ロクでなし部活動と活動記録

前回のあらすじ 俺は猛烈に怒っています。あ、わからない?なら10分前の回想から入るとしよう。


 <回想>

「ただ…実はもうこの部活は存在するんだよ。しかも名前も活動内容も全く同じものが」

「へ…?」

「いやね、君と全く同じようなプレゼンをして部活を作った人がいるんだよ」

「いや、嘘だろ。こんな建前だけきっちりしてて中身が全くないような部活がもう存在するなんてっ!」

「黛くん、それ墓穴掘ってない?」

「今はそんな事どうでも良いんですよ、校長!僕の命に関わる問題なので」

「…まぁよくわからないけど、とりあえずここの教室でその部活はやってるから試しに行ってみるといいよ」


というのが10分前の俺と校長のやりとりだ。そんなわけで俺は今、そのふざけた部活を見学つぶすべく第二部室棟4階に向かっていた。

 この学校には多くの部活が存在するため、部活動のための校舎棟が存在する。第二部室棟は主に文化系の部活動が存在し、吹奏楽部など有名文化部が1階で階が上がるごとに活動内容不明の部活が増えていく感じだ。そして4階に割り当てられる部活なんてのは大概ロクでもない。本当、ロクでもなくて良いのは魔術講師だけにして欲しいよね。


 そうこうしているうちにお目当ての教室まで辿り着いた。確かに教室の扉には画用紙にマジックペンで「青春研究部」とだけ書いてある。この時点で意識の低さがひしひしと伝わってくる。

 そして俺は、持てる限り全ての怒りを込めて教室に入った。

「誰だぁぁぁ!こんなフザけた部活作ったやつはぁぁぁぁあ!」

「あれ、黛くん?どうしたの?この部活入ったの?」

 そこにいたのは野も…いや、野村柚葉だった。

「そうだよね、私は出番第2話と第3話とSS少ないから名前忘れてるよね」

「おい待て、ナチュラルに人の心読むなよ!あと、出番って何の話⁉︎ねぇ何の話⁉︎」

 そう、彼女は野村柚葉。俺と同じクラスで普通に可愛い女の子だ。うん、ちゃんと名前も覚えてるな。

「というか、野村は何でここにいるんだ?」

「何でって、ここの部員だからだよ。それよりも黛くんの大声にびっくりしたよ、何か用なの?」

と、1ミリも驚いてるように思えない声のトーンで野村が話しかけてくる。

「あ、あぁ、俺はちょっとこの部活作ったやつに用事が…」

 ん?ちょっと待て。今こいつサラッと重要なこと言ったような…部員だとか… え、まさかこの変な部活作ったのって野村なのん?

「おい、野村、もしかしてお前が…」

「ちょっと!誰よ!廊下で大声出してたのは!普通にびっくりしたじゃない!」

こちらは普通以上に驚いた声のトーンで怒声を放つ少女が廊下からやってきた。

「は?茜?何でお前がこんなとこにいるんだよ?」

「今の声アンタ?びっくりするからやめてよ、あとそれはこっちのセリフね」

何でこの場所に茜までいるんだ?俺の疑問の種はさらに増えた。まさか茜もこの部活の部員なのか?こんな何やるかもわからない変な部活に2人も?しかも俺と関わりが割とある人ばかり集まっている。

 それがフラグだったのか、はたまたただの偶然なのかはわからないが更にもう1人の少女がこちらの教室に向かってきた。

「あら、黛くんじゃありませんか。ここでどうされたんですか?」

「ひ、東田までここの部員なのか…」

そう、最後の部員(俺の予想)としてここに来たのは皆さんご察しの通り東田紗季だ。

「黛くん、紗季」

「ん?それはもう知ってるけど」

「そうではなくて…この間約束してくれたじゃないですか」

「約束…あ、あぁあれか…」

「はい、あれです」

そう言いながら彼女は期待するような視線をこちらに向けてくる。これは言わなければならない展開ですね、はい。

「よう、さ、紗季…」

「はい、黛くん!」

名前を呼ばれて心底満足したのか、紗季はとても満足気な表情だった。そんなに名前で呼ばれたいのか、自分の名前が好きなのかな。

俺が疑問に思っていると、いつの間にか教室に入って野村と話してた茜が、こちらを振り向き再び大声を上げた。

「ちょっ、ちょっと京真!何で紗季の事したの名前で呼んでるのよ⁉︎」

「何でって、この間言われたから」

「な、名前呼びは幼馴染だけの特権でしょ!何で序盤から名前呼びが2人なのよ!」

「何言ってるんだよ、お前…」

確かに漫画やアニメならば「幼馴染キャラ=下の名前呼び」と幼馴染キャラのアドバンテージとしては鉄板だが、俺はそれに縛られていては死んでしまうのだ。自分からどんどん進展させないと俺の命が危ない。

「えぇそうですよ、茜さん。私が頼んだんです」

と、俺ではなく彼女、紗季が事情を説明し始める。

「それに今どき幼馴染だけが名前呼びなんていう古い文化はやめましょうよ、せっかくの青春研究(笑)部なんですし」

「ぐっ…アンタ…でも抜け駆けは許さないわよ」

「ふふ…それはどうでしょう」

紗季と茜のやり取りはまるで俺を異性として好きな人同士の会話にしか聞こえなかった。

もし本当にそうであるならば俺としては万々歳で病気も完治なのだが、もしこれが勘違いだとまずい、告白しようものなら尚のことだ。「え?何勘違いしてるの?」とか言われたらもうやっていけない。

 しかし、こいつ俺のこと好きなんじゃないの?と思ってしまうのは男の性なので女性の皆さんは優しくお断りしてあげてください。断っちゃうのかよ…。

「というか、黛くん。結局なんの用事だったの?さっき部活作った人が何とかって言ってたけど」

茜と紗季が言い争いをしてる間、我関せずという顔で携帯をいじっていた野村が再び尋ねて来た。

「あ、確かにそれは私も気になるわ。この部活は私たち3人しか知らないはずよ」

「そうですね、確かに黛くんは何でここに来たのですか?私に会いに来たんですか?」

「ちょっと!何で京真がアンタに会いにくるのよ!良い加減にしなさいよ!」

野村の話に乗ってきた茜と紗季が再び言い争いを始めていた。もうこいつらほっとこう…。

「何で来たかってそりゃ…あ!そうだ、この俺が作ろうとしてたこの部活を先に作ったなやつに文句言いに来たんだよ!」

「ん?そんなに作りたかったの?この部活」

向こう2人は全く聞いてないが、野村だけはちゃんと返事してくれた。野村超良い子、よしよししたい。まぁしたら不審がられるからしないけどな。

「いや、まぁ何というか止むに止まれず作らなきゃいけないというか…」

「こんなただお喋りしてるだけの部活を?」

「ぐっ…それはまぁ何というかアレなんだよ!」

全く意味のわからない返答をしてしまった。だってラブコメ病とか言えないじゃん、頭おかしいと思われるだけだろ。

「ふ〜ん、まぁでも作った人なら茜だから茜に話を聞くと良いと思うよ」

 俺の言うことに1ミリも興味のないそぶりで野村が再びさらりと重要なことを言う。本当、さっきから重要なところでも声のトーンに変動がなく、うっかり聞き逃しそうになるわ。

この部活の創設者も分かったので、俺は早速茜に文句を言いに行った。

「おい、茜!何でこんな部活作ったんだよ!」

「何よいきなり、別にアンタには関係ないでしょ」

「関係ないだとぅ‼︎こちとら命懸かったんのじゃ!!」

「何でこんな部活に命懸かってんのよ」

「ぐっ…それは…」

やはり茜もそこを突っ込むか。まぁ、そうだよな、だって意味わからないもん。俺は理由を四苦八苦して

「それはまぁ何というかアレなんだよ!」

結局野村の時と同じ答えを言った。しかし相手は茜のなのでここで引く可能性は…

「何よあれって。ちゃんと説明しなさいよ」

なかった。やっぱり無かったか、そうだよな茜だし。

改めて言い訳を考えても思いつかないのでもう本題に入ろう。

「率直に聞くぞ、この部活をなくす気はないか」

「ないわ」

あっさりと断られた。なら久しぶりにアレを使うしかないな。さぁ行くぜ!あの言葉を!

「廃部してくれたら代わりに何でも言うこと聞いてあげるからね!」

「な、何でも‼︎いいの…」

 おや?これは中々良いではないか。茜は顔を真っ赤にして動揺している。

 おそらく俺のイケメンオーラと魔法の言葉に当てられたのだろう…自分でイケメン(以下略)

「でもごめん、京真。この部はやめられない。それに私は、確かに部を適当な理由で作ったけども柚葉と紗季と一緒に居られる空間をなくす事はしたくない」

茜はさっきとは変わってとても真剣な表情でそう答えた。ここまで真剣に言われてしまっては俺とて無闇に強制は出来ない。仕方ない、また一から考え直すか。

しかしここで俺はとある疑問を抱いた。いや、疑問というよりは可能性かもしれない。これは聞く価値がある。だから俺はある可能性について茜に再び尋ねてみた。

「なぁ…もしだぞ、もし俺がこの部に入りたいって言ったらどうなる?」

「突然ね、一体どうしたの?」

俺が抱いた可能性。それは俺が部活を作るのではなく俺自身がこの部活に入るのだ。これならば当初の部活を作る目的であった特定の部員と毎日関わることも出来るし、しかもここの部員は茜に、紗季、そして野村ときた。俺と関わりの多い人間が集まっている。あとは俺が入部出来れば勝ちだ。

「いや、とりあえず考えてくれ!俺が入っていいかを」

「え、えっと…」

「私は構いませんよ」

茜が返答に困っていると紗季が答えた。ナイス紗季!

「確かに茜さんが言ってた通り3人の場所ではありますが、多少は活動しないと生徒会の方に目をつけられてしまうかもしれませんしね」

そう言うと、紗季は微笑みながらこちらを見ていた。

「あぁ、紗季…今はお前が天使に見える」

俺は思わず思っていたことを言ってしまった。ヤバい、これは気持ち悪がられるな。

「て、天使ですか…ま、まぁ、わ、悪くないですね、はい、悪くない」

紗季は少し頬を染めて動揺していた。もしかしたら名前に続いて天使も好きなのかもしれない。ま、でも事実見えたので仕方ない、ただ願うのはせめて今日は堕天しないで欲しいという事だ。

 そんなことを俺が考えていると今度は今日の課題をやっていた野村が

「私もいーよー、別に」

と言っていた。いや、茜と紗季が割と真剣に答えたのにその適当はどうよと思ったけど言わないでおいた。

「ま、まぁ2人がいいって言うなら仕方ないわね。いいわ、部長の私が許可するわ」

茜はそう言うと少し嬉しそうな顔をしながらこちらを見ていた。

 これで俺は紆余曲折を経て当初の予定とは少し違うが、見事に女子と関わる機会治療のチャンスを得ることが出来た。

そして俺は満面の笑みで今度は怒声ではなくちゃんと挨拶をした。

「これからよろしくな、みんな!」

「よろしくね、京真!」

「よろしくお願いしますね、黛くん!」

そう返してくれた茜と紗季の顔はとても嬉しそうに笑っていて、思わずドキッとした。


と、ここで終わればよかったんだが…

あの言葉がフラグだったのかはたまた偶然だったのかはわからないが、それは起きてしまった。

「あ…そういえばさっきはうやむやにされてましたけど、結局黛くんはどうしてこの部活を作りたかったんですか?」

まるで突然思い出したかのように紗季がポツリと呟いた。

「確かに…今度こそちゃんと説明してもらうわよ」

「ふふ、私も知りたいです」

 茜もそれに乗ってきたため、その後俺は2人が納得いく理由を説明するまでずっと質問責めにされたのは言うまでもなかった。


だから…言ったじゃん…堕天するなって‼︎


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