第4話 高校に芸能人がいる確率ってどのくらいなのだろう
始業式から一週間がたち、二年目もあってかクラスにはほとんどの人がなじみ始めていた、ただ一人を除き。
始業式から一週間もたったにも関わらず、まだクラスに一度も顔を出したことのない女子生徒がいた。その生徒の名は、
まあ、知らないものはしょうがない。だから俺は、こんな時頼りになるアイツを呼んだ。
「よぉ、黛。さっき言ってた話ってなんだ?」
「おぉ、来たか。まぁ、とりあえずそこの席に座ってくれ」
「ここお前の席でも何でもないのに偉そうだな(笑)」
ほらほら話しているうちに来たよ彼、
何が言いたいかというと、佐々木は学年や学校の女子についてすごく詳しい。よくいるだろ、アニメとかで。次々と新しい女子の噂を手に入れてきては主人公に
「見に行こうぜ!」
とか言ってるやつ。佐々木はそんな感じのやつだ。
「お前今俺に対して失礼なこと考えてたろ」
「いや全然。それより本題に入るぞ」
いや、いいやつだと思ってるよ?本当だよ?てかこいつ意外と鋭いな、次回から気を付けよう。
そして俺は、早速今回この佐々木に話そうとしていた本題を彼に話した。そう、東田紗季についてだ。もし仮に彼女が可愛いとか、あるいはこの学校で有名ならばこいつは絶対知っているはずだ。俺が名前を知らないってことはおそらく去年同じクラスじゃない…多分。前科があるので完全に否定はできないけど。俺が話を終えると佐々木は深くため息をつき、蔑むような眼をして俺に
「お前の他人への興味のなさはさすがの俺でもあきれるぞ…」
と言い再び深いため息をついた。
何その態度、なんかむかついたから今度こいつに嫌がらせしてやろう。
と、俺が心の中で企んでいると、佐々木がとんでもないことを言い始めた。
「いいか、黛。東田紗季は、今世間で超絶的な人気を誇る若手声優だ。最近は仕事が忙しくて学校に来られないからずっと休みなんだ。どうだ、わかったか?」
と、佐々木が言い終えると同時に朝礼開始のチャイムが鳴った。
「じゃあ、俺は席に戻るな。あと、これに懲りて、少しは女子について興味を持つことだな(笑)」
そう言い残すと佐々木は自分の席に戻った。え、ちょっと待て、今あいつなんて言った?東田紗季が声優?そんなまさか…
その日の放課後、俺は学校が終わると猛ダッシュで家に帰って自室にあるパソコンの電源を付けた。何をそんなに急いで調べるかと言えばもちろん、今朝佐々木が言っていとことについてだ。
東田紗季が超人気の若手声優?まさかな。佐々木のやつきっとほかの誰かと間違えたのだろう。きっとそうだ、だって考えてみてくれ。自分と同じ学校、ましてや同じクラスに芸能人がいるなんてにわかには信じられない話だろ?そう頭で考えながらそれは恐る恐る、グー〇ルの検索ページに「東田紗季」の名前を入れ、検索をした。そしてヒットしたのは見事なまでに佐々木が言っていた内容とほぼ同じものであった。その内容はこんな感じだ「今をときめく期待の若手声優 東田紗季」とか「十年に一度の美声を誇る若手実力派声優 東田紗季」などなど。
「こいつが、俺と同じ学校で同じクラス…」
そう思いかけていた俺だが、ここであることに気が付いた。
「そういや、こいつどこの高校か書いてないじゃん。やっぱ同姓同名なだけの別人だな」
そう、やはりこんな有名人が俺と同じ学校なはずがない。そもそも同姓同名くらいよくある話だろ、やっぱ別人だよ。佐々木のやつも、案外使えないな(笑)
それに、そんな二次元的イベントは現実にはそうそう起こりえないものだ。芸能人と同じクラスとかなんて所詮妄想に過ぎないしな。よし、気になっていたことも分かったのでそろそろ学校の課題とかを片付けてしまおう。今日 一日悩んでいたことが解決した俺は、明日に向けていつも通りの準備を始めた。
しかし、現実とは時に、とんでもないくらいミラクルを起こしてしまうのだ。そのことを俺が知ったのは翌朝の朝礼の時だった。
昨日課題が終わった後、ラブコメ病を治すための作戦を練っていたせいで寝不足だった。だからこそ、その時は彼女が教室に入ってきたことに気が付かなかった。
朝の朝礼の最後に先生からの連絡というものがある。まぁ、その日出さなきゃいけない提出物とか、各教科からの連絡程度なのでいつもは聞き流すくらいでいいのだが、今日ばかりは聞かないわけにはいかなかった。何故なら、先生が明らかにいつもと違うことを言っていたからだ。
「えーみんなも知っていると思うが、今日は東田が来ているので、彼女には今から簡単な自己紹介をしてもらうのでちゃんと聞くように」
東田?あのずっと学校来なかった、人気声優と同姓同名のあいつか。一週間学校に来ていなかったってことは、インフルエンザとかだったのか?まぁ、いいか。そんなことを考え彼女のほうを向いた俺の表情は一瞬硬直した。そう、壇上で自己紹介をしている彼女は、昨日俺が調べた人気声優とまったく同じ顔をしていた。そして、俺は彼女の声を聴いてさらに驚きを隠せなかった。
なんせその声は…
「皆さんこんにちは、東田紗季です。仕事でいつも来られるわけではないですけど皆さんよろしくお願いします。」
その声は、俺が春休みに出会った師匠の声と全く同じだった。
気が付くと俺は、席を立っていた。彼女の自己紹介が終わったわけでも、朝礼終わりの号令をかけるわけでもないのに立ち上がってしまった。クラス中から視線を浴びるが、今はそんなことは関係ない。それよりも確かめなければいけないことがあるのだ、彼女が本当にそれと同一人物かということを。俺はかすれ上ずった声で彼女に尋ねた。
「お、お前、もしかして…」
「そのことは、ここでは秘密ですよ。黛京真くん」
彼女はそう言うと、こちらに向かってほほ笑み自分の席へと戻っていった。そのとき俺は確信した。こいつ絶対黒であるということを。こうして彼女東田紗季との初対面、もとい師匠との再会を俺は果たした。
その日の昼休み俺は彼女に真実を聴くべく、彼女に声をかけた。
「東田さん、ちょっと今いいかな?」
「はい、何の用でしょう?黛君」
彼女は満面の笑みでこちら向けながら、俺の呼びかけに反応する。こいつ、絶対俺が聞きたいことわかっていやがる。彼女の人をからかうような満面の笑みにたいし、思わず殴りたくなるようなストレスを感じながらも、彼女の周りにはクラスの女子がいるのでなんとかそれを抑えた。
ただ、ここでストレスを抑えるだけだと思ったら大間違いだぞ諸君!俺は、この状況でラブコメ的展開を作り出す方法法を知っている。
そう、その名も「秘密の会話作戦一~お誘い編~」だ。
説明しよう、この秘密の会話作戦とはその名の通り秘密の会話をする作戦だ。一見普通に見えるこの動作も、見方を変えればかなりのラブコメ要素を含むイベントになるのだ。この方法は少女漫画でよくありがちな方法なのだが、女子というのは少なからず秘密という言葉に弱い。それが、自分が好意を寄せている相手であるならばその効果は絶大と言えるだろう。今回に限っては、絶大とは言えないが、多少の効果はあるだろう。
なんせ俺、イケメンだから!…
やっぱ自分で言うのはやめよう、悲しくなってくる。ともかく、さっきも言った通り女子は秘密という言葉に弱い。だからここで
「他の人には秘密なんだけど」
とか、
「二人だけで少し話したいことがある」
とか言っておけば大体の女子は落ちる。あとは、女子の耳元でそいつにしか聞こえない程度のボリュームでさえ言えば完璧。ふっ、女子もちょろいな。まだ一度たりとも試したこともないけど。
早速、今言った方法を使って彼女の耳元に近づき、ささやくような声で彼女に言った。
「あのさ、ちょっと二人だけで少し話したいことがあるんだ。だから、一緒に来てくれないか。ほかの人には秘密にしたいことなんだ」
よし、完璧だ。今の言っている自分でもグッとくるほど完璧だった。俺が女だったらうっかり惚れてしまうレベル。
さて彼女の反応は…
俺が彼女の反応を見ようと一歩下がろうとした時、不意に彼女に腕をつかまれた。そのまま彼女は俺の顔を自分の口元までもっていくと、
「春休みに教えたことしっかり実践できていて何よりです。でもそれではまだ、女の子は落とせませんよ」
とささやいた。そして俺の腕を離し満面の笑みをこちらに浮かべたあと、彼女はもう一度口を開き、今度は教室中に響き渡る声で
「黛君が私に二人きりでお話?まぁ、それはうれしいですわ!でもちょっとドキドキしますわね。でもわかりました、行きましょ」と言って、彼女は再び俺の腕をつかみ歩き始めた。
東田に連れられるまま、俺は学校の中庭へとやってきた。彼女はここに来るまで束んでいた腕を離すと、こちらに向き直り俺に話しかけてきた。
「それで、私に何か用ですか黛君?もしかして、告白?」
「今更とぼけてももう遅いっての。お前春休みに俺が出会った師匠だろ」
そう、本当にいまさら何をとぼけているのだこいつは。あの時俺はこいつの声を綺麗だと思ったし、とても印象的だったから間違えるはずがないのだ。だからこれでまたシラを切ろうとしたらこちらにも策がある。
「ばれてしまっては仕方ありませんね。そうよ、私があの時の師匠だから。よろしくね、黛君」
お?案外すんなりと認めたぞ。よかったそれならこちらもいたって普通に接するとしよう。
「はは、俺の師匠がまさかあの超人気声優だとはね、驚いたよ。こちらこそよろしく師匠」
いや、本当に最初は驚いたわ。そもそもクラスにいる東田が有名声優だっていうのですら驚きだったのにまさかそれが俺の師匠でもあったなんて。だってあり得ないだろ、普通。たまたま出会った女子が、たまたま恋愛事情に詳しくて、たまたま同じ学校で、たまたま同じクラスにいて、たまたま有名人と同じ名前だと思ったら、有名人本人だったなんてそれどこのラブコメですかって感じだわ。それともあれか、たまたまじゃなくて玉玉で七個集まったら願いが叶っちゃうとかそういうこと?いや、さっき七個以上たまがあったし、願いを叶えてくれる龍呼んでないぞ。
俺が一人で現状把握をしようとしていると、彼女が俺の正面に立ち上目遣いでこちらを見てきた。
「その、学校で師匠って言われるのはちょっとアレだからさ、その、私のことは名前で呼んで…欲しいな」
およ?この感じ…そこはかとなくラブコメ臭がする。なんか師匠が、頬を赤く染めて上目遣いでこちらを見ているし恥ずかしいのか時々俯いたりしているし。
ただ…これは何気にこっちも恥ずかしい、現に俺は目を反らしてしまっている。これがもしブサイクだったり、男だったりしたのなら、気持ち悪くてそいつの顔面にキラキラをぶちまけていたところだったのだが、こいつ可愛いんだよなぁ、だから困る。
いや、確かに可愛いがここで恥ずかしがっていてはこの先死亡ルートまっしぐらだ。ここは勇気を出し、彼女の目をまっすぐ見て、できる限り爽やかに対応するのだ。ラブコメ主人公になるには、それくらい突破できなければいけない。俺は覚悟を決め、心の中で「黛、行きまーす!」と叫んでから再び彼女に視線を向けた。
「ダメ…かな?」
「お、おう…べ、別に構わん…けど」
ごめんなさい、無理です調子乗っていました。
相手の目を見て爽やかに返すなんて僕には無理です。ラブコメ主人公は、こんな状況が日常茶飯事なうえにこんな状況で相手を惚れさせることができるとか。恐るべしラブコメ主人公。
俺がラブコメ主人公の恐ろしさに戦慄している間、彼女は小声で「よしっ」と言うと満面の笑みをこちらに向けて話し始めた。
「では、改めてよろしくね。黛君」
そう発した時の彼女の笑顔は、超人気声優としてではなくただの一人の女の子としての輝きを放っているように見えた。だから俺は病気を治すために編み出した自分ではなく、普通の、ただの黛京真として彼女に向かって
「これからよろしく、紗季」
と言った。
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